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私の肩に、傘をかけないでください。

雨が降ると思い出す『苦い悔い』がある。

いつか消化したいと、ずっと思っていたあの出来事・・・。
だから私はこの話をnoteに書き記そうと思う。

見知らぬ老婆に傘をかけられた、あの雨の日の記憶を。


10年ほど前の話だ。
私は地下鉄に乗って家に帰るところだった

その日は小雨が一日中降ってたから、車内には湿った空気がこもっていた。
帰宅ラッシュの混雑に、人々のいらだちが感じられる。

私はドアのすぐ前に立ち、トンネルの暗闇を静かに眺めていた。

その時。

窓に映る私の後ろから、白い物体がひょっこり現れた。
しかもその物体は、こちらに少しずつ近づいてくる。

私は、あわてて首をひねり後方を見た。
しかし白い物体など、どこにもない。

気のせい・・・か?

ところが私が前を向いた数秒後、またもや白い物体が肩越しに現れたのだ!

つのだ先生を参考にしました。

背筋がスウッと寒くなる。
もし霊現象ならお祓いに行かねばならない。

私は勇気を振りしぼって、窓に映る白い物体をじっと見つめた。

すると物体はどんどん私の右肩に近づき、なんと乗っかったではないか!
十円玉ぐらいの面積に集まった、中途半端な重みが肩を押す。

と同時に、右腰のあたりにひんやりと湿ったものがあたった。
その瞬間、私は自分の身に起きたことを理解した。

傘だ!


こいつだ!!


白い物体は傘の柄だったのだ!!

私は反射的にぐるりと振り向いた。
すると真後ろに立っていた老婆が、スッと手を下げた。
その瞬間、右肩から重みが消える。

この老婆が、犯人か!!



老婆は身長150cmの私よりさらに小柄だった。
だが手に持っているのは小さなバックとビニール傘のみ。
重さが理由ではないはずだ。

視線を斜め下に向けているのは、気まずいからか?

だが狭い車内でいつまでも体をひねっている訳にいかない。
私は老婆をぎりっと睨みつけ、体勢を戻した。

すっきりはしないが、老婆に怒りは伝わったはずと信じて。

しかし、私の期待はわりとすぐ裏切られた。
数分の間を置いて、再び私の右肩後ろに白い物体が現れたからだ!

私は首をひねり、もう一度老婆をにらんだ。
すると老婆は傘を引っ込める。

でも前を向くと、再び傘をかけてくる。

私と老婆が「にらむ⇄引っ込め」をローテーションしているうちに、電車は3駅を通過した。


「どうしてお前は文句を言わないのか」と思われるかもしれない。

言わなかった理由は2つある。

一つは恥ずかしかったから。
文句を言うためには、地下鉄の騒音に負けないよう、声を張らなくてはいけない。
その時に集まる人々の好奇の目が気になった。

もう一つは、理解を得る自信がなかったから。
これが痴漢なら「触らないで!」と言えばいい。
何が起きたかもそれで伝わる。

でも「肩に傘をかけないでください!」という声を聞いて、人々はどう思うだろうか。

しかも証拠は一つもない。
もしこの老婆にしらを切られたら、私こそがアレな人に。

そんなわけで私は耐えていたのだが、事態は悪化の一途をたどった。


繰り返し傘が触れて、右腰の湿りは地味に加速していく。

何度も体をひねるから、右後方の女性が私をニラんできた。
あなたじゃないわ、あなた関係ない。でもそう告げられるわけもなく。

傘、湿り、混雑、右後方女性・・・不快要素の積み重なりはエンドレス。

断固たる態度を取るべき時が、来たのかもしれない。
私の武器「よく通る大きな声」を発する時が、今かも知れない!

私は決意を固め、4駅目に停車した瞬間、ぐるっと体を反転させた。

しかし!!!

老婆はすでに、開いた反対側のドアから降りていくところだった。


ちょ、早すぎない!?



私はただ彼女が去っていくのを、乗客の隙間から見つめるしかなかった。

すると右後方の女性が咳払いをした。
体を180度回転させたせいで、私のカバンが当たったのだ。
彼女は厳しい目で私をじっとり見つめている。

私は女性に謝ると、うつむいた。

じっとりと湿った体のまま、ただひたすらに、早く着いてくれと願いながら・・・


ところで、私が何を悔やんでいるのか。

それは

疑問が何一つ解決されなかった


ことだ。

私は老婆に、ただこう聞きたかったのだ。



なぜ傘をかけるんですか?
重んですか?
眠いんですか?
悪意ですか?
善意ですか?
常習ですか?
初犯ですか?

というか・・・

あなたにとって私は、傘立てなんですか?


だが機会は失われた。私は一生この謎を抱えて生きるしかない。

けれど今日ここに書いたことで、読んでくださった方々とは謎を共有できる。それがせめてもの救いだ。
だとすれば、この出来事も悪くなかったかもしれない。


と、思わないでもない・・・・







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