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初心者向け軍事:銃の歴史(前)

はじめに

さ、今回は軍事趣味としてはメジャー中のメジャー「」について軽く解説
銃オタというのは軍オタとは半ば独立してる面があるレベルでメジャー

メジャーであるがゆえに
初心者向け解説はいっぱいある
だからあえて新しく記事を書く必要はないかもしれない
でも、それはそれとして書く
だから銃にすこしでも知識がある人には退屈な記事かもしれない

それはそれとして解説を始めよう
そもそも銃とは何かと簡単に言えば
「筒の中で火薬を燃やして発生した気体の圧力でモノを発射する個人武器」
という感じになるだろうか?

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まず火薬と銃弾が筒(=銃身)の塞がれた部分に設置される

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どうにかして」火薬に火をつけると気体が生じる
すると、発生した気体が逃げる方向が1つだけので銃弾が出口に押される
(爆発の勢いではなくて、気体の圧力
すごい速さで押し出されるので当たると危険だから武器になるわけだ

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そして銃を再び使用可能にするには
どうにかして」火薬と銃弾を元の場所に戻せばいい


銃のパーツで「殺傷力」を生じさせているのは筒の部分なのだ
他の部分は「どうにかして」の部分を実現するためのパーツが多い
銃の進化の大部分は「どうにかして」の進化が多いわけだ
(もちろんそれ以外の部分での進化もあるけれども)

銃というものが生まれた当初は筒の部分だけだった
この「どうにかして」の部分が一番原始的だった時代だな

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これはハンドカノンとかハンドボンバードとか呼ばれる武器の画像
「銃身となる筒に持ち手を付けただけの武器」という形になる
銃身の横に開いた穴に手で火種を突っ込んで:火薬に火をつける
銃口から直接ねじこんで:火薬と銃弾を元の場所に戻す
という感じで「どうにかして」の部分を実現してたんだな

というわけで、「どうにかして」に着目して銃を解説したいと思う

・「どうにかして」火を付ける

前述した一番簡単な火の付け方を「タッチホール式」という
ホール(穴)に火種でタッチするからタッチホール式
ところが、画像を見てわかる通り、これでは片手が火種で塞がってしまう
だから両手でしっかり支えられないし
注意が目標じゃなくて火種と穴に向くから狙いにくい

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画像のように「点火する役割の人」と「持って狙う人」を分ける手もあるが
こんなことをしていては一つの銃に二人必要でちょっと面倒くさい
だから「点火する役割の人」を何らかの機械的パーツで置き換えたいわけだ
(余談だが砲ではタッチホール式が19世紀くらいまで残った
 元々多人数で使う武器だから点火する人が必要でも困らない)

というわけで、穴の横に火種を保持するための金具が生まれた

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火種となる縄(火縄)を取り付けた金具で火種を穴の横で押さえる
これにつながったフック等を指で動かすと金具が動いて火薬に点火するのだ
ただ、これだと穴に火種を直接差し込むのは難しい
だから穴の横に点火のための火薬を広げる皿(火皿)を用意してある
この皿に乗った火薬が燃えれば、銃身の火薬に引火して発射できるわけだ

この「フック(後にトリガー)-金具-火縄-火皿-穴」
みたいな感じの点火メカニズムをマッチロック機構とか呼ぶわけ
指で動かす部分もいろいろ進化が起きてていろいろ難しいので割愛

点火メカニズム以外にもいろいろな部分が銃身を支えるようになる

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つまり銃床と呼ばれる銃身を乗せる木造の土台がつく
銃床は銃を持ったり構えたりしやすくなる役目を持つ
あとマッチロック機構やその他の補助パーツを取り付けることもできるしな
(画像のは火縄を直接手で扱う奴だけど
 あと銃を前のほうで重さを支える支柱をつけてる)

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16世紀くらいに流行った槍兵と銃兵の組み合わせ
このころは重くて支柱が必要だけど大威力なマスケット銃と
軽いけど威力は控えめなアーキバス銃という呼び分けがあった

そういうわけで16世紀くらいには「銃」が我々の見覚えがある形になる
なるのだがこの時代の銃というのは決して「主役」ではなかった

16世紀歩兵変遷

画像引用:軍事組織の知的イノベーション

画像の通り17世紀初頭くらいだとまだ火縄銃が2に対し槍兵が3の比率
その比率がだんだん銃兵が多くなって1680年には火縄銃3:槍1になる
そして1705年でやっと純粋な槍兵が消えて銃兵だけになるわけだが…
これは「銃剣」が普及して銃が槍を兼ねることに不安が減ったことが一因

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17世紀主流だったプラグ式銃剣
銃口に差し込んで使うので銃を撃てなくなるかわりに銃を槍として使える
18世紀に装備しつつ銃が撃てるようになるソケット式に取ってかわられた

16世紀、17世紀から18世紀に時代が下るにつれて銃兵が増えていったわけだ
銃兵がいっぱい増えていくと、より銃火力を効果的に発揮したくなる
そこで有効な手段が銃兵がなるべく密集することだ
密集すると火力を集中しやすいので攻撃力が高い隊列を組みやすい
なのに、火縄銃兵は密集できないという欠点が存在した

なんで?
それは火縄銃は火縄という生の種火を燃えたまま維持しなきゃいけないから
生の種火を持ったまま火薬をいっぱい持った銃兵に近づきすぎると危ない
下手すると隣の人の火薬に引火して連鎖的に自分も被害を受けてしまう

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火縄式のアーキバス銃を持った銃兵
体にまいたタスキにいっぱいぶら下げているのは火薬入れ
こういうのにうっかり燃える火縄がぶつかったら危険すぎる

だから、どうにかして発射したいときだけ火をつけたい
火をつける方法として当時メジャーだったのは火打石
発射したいときに火打石の火花を使って火薬に点火すればいい
これを火打石(フリント)を使うからフリントロック式
単純明快だ
(ホイールロックとかの話は割愛)

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フリントロック式の解説図
火打石(Flint)がフリズン(Frizzen,火花を起こす金具かつ火皿の蓋)
にぶつかると開いた火皿の中に火花が入り込んで火薬に点火する

発想そのものは割と早いうちからあったのだが・・・
発想があることと実現できることは別問題
・火花を確実に起こす
・火花が確実に火薬を点火させる
・勝手に点火装置が動かない
などなど安全面や動作面の問題に直面して実現は時間がかかった
「完成系」が実現するのは17世紀までもつれ込んでしまった

が、完成したフリントロックは17世紀から19世紀まで大活躍
戦列歩兵とよばれる密集した銃兵だけで構成された歩兵の供となった

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戦列歩兵、もう槍は士官の目印程度の存在になってしまった
(左の下士官は銃ではなく槍を持ってるのに注目)
(「大尉は馬上槍、軍曹はハルバード、伍長はパルチザン」みたいな国も)

というわけで、銃は主に点火方式メインでゆっくりした変化が続いてきた
ところが、19世紀は銃の転換期となる重要な100年間だったりする
それは雷汞(らいこう)が発見されたことに端を発する

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雷汞:雷酸水銀(II) Hg(CNO)2

雷汞は衝撃を与えると爆発的に反応する
発見されて間もないころ、銃にこれを活用しようという人たちは
黒色火薬に代わる火薬にできないか試したらしい
ところが、火打石の代わりにこれで点火できないか?と気づいた人がいた

考えてみればいいことだらけだ
火打石は火花を経由して火薬に点火する
そのためには銃身の火薬に続く穴を開いて火花を内側に入れる必要がある
だけど、これだと火花が中に入らない=点火できない可能性は常にある
風が強かったり雨が強かったりするとその危険性はさらに高まる

ところが、叩けば反応する雷汞を起爆に使えばどうだろうか?
火花を導入する穴を塞ぐ蓋として雷汞がついたキャップをハメる
キャップで塞がっているので火元ー火薬は完全に密閉された状態だ
叩くのはキャップの裏側からでも簡単にできるし、それで実際に爆発する
これなら天候に左右されずに確実に点火できるというわけだ
それに火花が飛んで~というプロセスがないのでタイムラグもほぼなくなる

叩いて(Percussion)点火するのでパーカッションロック式

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パーカッションロック式の図式
外側にのびた火穴に相当する部分にキャップをハメる
トリガーを引くとキャップが叩かれ雷汞が爆発し火薬に引火して発射

これで従来の着火方式の難点は克服されたね!
ところが、雷汞の登場は銃の進化の歴史をさらに加速させることになる

これまで着火部分だけでなかなか複雑なのは銃設計の悩みの種だった
フリントロックにせよマッチロックにせよ外側に火皿を必要とした
その火皿の中には発射のたびに点火用の火薬が必要だ
しかも射撃以外の時は引火しないようにフタの開閉機構もいる
だがパーカッションロックは叩く部分と叩かれる部分があればそれでいい

しかも、パーカッションの叩き方も自由自在だ
従来のフリントロックは銃の中心より横に出た火打石で
しかも地面側に向かって振りかぶるようなサイドハンマー式の点火装置だ
もちろん火皿とかの配置を考えると必然的にベターな方式なのだが…
発射時に変な衝撃がかかって目標から銃が逸れる原因になる
じゃあ叩く部分(ハンマー)は銃の中心軸により近い位置にできる

初期のパーカッションロック銃はフリントロック銃の設計をほぼ流用してた
だが、火皿とかが不要になったのだから旧設計にとらわれる必要はない
より着火部分はよりシンプルでコンパクトに
かつ他の部分をさらに複雑にしやすくなり銃の進化を大加速させたのだ

さらに「薬莢」というものが登場する
1回発射する弾丸と火薬を一セットにする発想は銃の初期からあった
そのほうが扱いやすいからな
日本語だと早合っていって戦国時代にも使われてたぞ
ただそれは装填するときにいちいち火薬の量をはからない利点が主だ
薬莢ほどの利点はまだなかった

薬莢は弾丸・火薬・雷管(雷汞などを用いた叩かれる部品)のセット
点火に必要な火薬を銃の外側に用意する必要がなくなった
つまり発射に必要な消耗品が(そのまま入れる)一つのパッケージで完結
早合のようにバラシて火薬の一部は点火用に~みたいな必要なし)

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最初期は紙でできた紙薬莢(左側ふたつ)だった

これの何が嬉しいか
「火薬を入れる-弾丸を入れる-点火用の火薬を入れる」の3動作が
「弾丸を入れる」の1動作に短縮することができる

つまり、圧倒的に弾を込めやすい
・・・ここで、やっと次の「どうにかして」の話をしよう
(金属薬莢とかの話は後述する)

・「どうにかして」火薬と弾丸を発射位置に置く

銃を撃つには弾丸と火薬を適切な位置に置く(装填する)必要がある
実は19世紀までほとんどの(実用的な)銃は同じ手法を採用していた
つまり、最初から開いてる銃口から挿入して根元まで押し込むのである
銃口(マズル)から装填(ロード)するのでマズルローディングという
日本語だと前から装填するので前装式という呼び方(先込め式とも)

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マズルロード中のおじさん
銃口は狭いので入れただけでは弾丸は根元まで入らないことがほとんど
なので槊杖(さくじょう)、カルカとか呼ばれる棒でねじ込む

銃身を(ほぼ)単純な筒として作ってしまうとこれ以外の方法はない
入口になるような穴が出口しかないのだから当たり前だ
だが、どうにかしてこれ以外の方法で装填できないかと考える人は多かった

理由は単純
銃口から根元…つまり銃身の端から端まで渡すのは手間がかかる
しかも、銃口という一番手元から遠い部分を手元に引き寄せる必要がある
だから発射のたびに銃を直立させて火薬と弾丸を入れ…と時間がかかるのだ

仮に、銃口ではなく手元から装填できれば大きな時間短縮になる
しかも銃を相手に向けたまま装填できるんだったらどんなに楽だろう
手元で弾を込める…元込め式後装式)は長年の夢だったのだ
(底部(breech,ブリーチ)から装填するからブリーチローディング
「どうにかして」手元から弾丸を装填したい


その基本的な理屈は割と早くから考えられていた
「弾の入り口が出口しかないから前装しか選択肢がない」
「じゃあ、出口以外の弾の入り口を手元に作ってあげればいい
単純明快な理屈だ

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しかし、この単純な発想は長いこと実用できなかった
それは開いた入り口を閉めるという点に大きな難点があったからだ
そも銃が銃として機能するのはガスのすごい圧力が銃身内に発生するから
すると、もちろん「弾丸の入り口」の部分もガスの圧力がかかる
その圧力に耐えられるほど強固に扉を締めることができなかったわけ

仮に扉が途中で開いたら射手を死傷させかねない

しかも何度も使用する前提なので数回しか開けしめできないのは論外だ
この「扉をしっかり締める」メカを閉鎖機構という。

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18世紀(1715)のブリーチローダー
この時代までくると「壊れやすいうえに高級」な代物なら実現可能だった
でも実用品として量産までは無理だったので普及しなかった

閉鎖機構は(当時としては)精密かつ強靭なパーツが必要になってくる
それは、たとえばコロンブスの卵みたいなアイディア・発想の問題ではなく
金属加工技術とかの一朝一夕や個人の努力では改善困難な問題だ
だからしっかり使える銃としては18世紀くらいまでかかってしまったし
しかも高級品かつ壊れやすいものにしかならなかったわけ

あともう一つ、後装式のメリットはライフル銃に適するという点もある
ライフル銃というのは銃身にライフリングという溝が刻まれた銃が原義
(ライフリングがない銃は滑降銃とかスムースボアとか言う)
ライフリングは銃弾に回転を与えるために螺旋状になっている
この回転が銃弾に安定を与えることで射撃精度が上昇
ライフルが無い銃を圧倒する有効射程を得られるのだ!

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現代的な拳銃のライフリング

ライフル弾はライフリングに噛み合う必要があるのでギチギチに作られる
しかし、前装式では銃口から根元まで弾丸をねじ込む必要がある
だから、まるで銃弾を削りながら詰め込むような力で装填する羽目になる
より大きな力が必要だから装填しにくいのでライフル銃は装填が遅かった
後装式であればその問題は一挙に解決されてしまうわけだ

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1776年のファーガソン・ライフル
ネジで締めることで高速に開け締めできたが採用はされなかった
18世紀に現れたちゃんと使える後装式ライフル銃とはすごいのだが・・・

しかし19世紀に突入すると、後装式銃は飛躍的に進化していくことになる
中編に続く

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