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初心者向け軍事:銃の歴史(中)

前編はココから
後編はココから


さて、前回の記事では
「どうにかして」に着目して19世紀前半までの歴史を追ってきた
火薬に火を付ける方法が進化しパーカッションロックへと至り
銃弾を発射できる位置に持ってくる方法も進化しそうなあたり
(忘れた人は前回を再読しよう)

が、前回はいろいろ割愛した部分があったので
前回の続きに入る前に少し歴史を遡って拳銃の話をする

拳銃

拳銃ってなに?
といえば「片手で扱えるような小型の銃
くらいの説明になる
で使えるから銃、文字通りだ
英語でもハンドガン(handgun)→手銃だからな

余談だがピストルというのはチェコ語の"pis'tala"()が語源らしい
この言葉が銃になった時期の銃は筒+持ち手の笛みたいな形だったからね
見た目が似てるものが由来になるというのはたまにあること
・・・ということは徒競走でスタートをピストルで合図するのは語源的にはホイッスルで合図するのと同じなんだな
(イタリアのピストイアで作られたからとか、ウマの鞍pistalloにくくりつけるからとかの異説もある)

余談に余談を重ねると「銃」という漢字はもとは斧の柄を差し込む穴のこと
つまり斧を持ったとき、柄の付け根が銃口に似てるという見た目が由来
見た目が似てるものがそのまんま名前になったというのは同じだ

閑話休題、ちょっと余談が過ぎた
どうして銃が片手で扱えると嬉しいんだ?
それはもちろん両手が扱いにくい状況でも使いやすいから
たとえば・・・ウマに乗っているときとかね

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拳銃を装備した騎兵:まだ全身鎧を着ている

銃が普及してすぐ騎兵は銃を持つようになった
それこそまだ鎧を着てる人が多いような時代から

銃が原始的な頃は歩兵でさえ一人で使うのが面倒だった
(あの「火を付ける役の人と狙う役の人」みたいに別れてた頃とか)
騎兵なんかはなおの頃使いにくい
だから初期の騎兵用の銃はかなり無理をしていた

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黎明期の騎兵用の銃(ペトロネル銃)

馬上だと地面を支柱にしにくいので鎧の胸当てで支えながら使うのだ
「狙う手」と「火をつける手」で両手が塞がってるのでこうするしかない
胸(フランス語でpoitrine)に当てるからPetronel→ペトロネル銃といった

が、火を付ける方法が進化したらもっと話は簡単だ
マッチロックの定着で火をつけるのは指だけでできるようになった
じゃあ、銃を普通に片手で扱えばそれでいい
馬上で片手で扱えるくらい小型なら文句なしだ
短銃(≒拳銃)が騎兵に望まれるようになったのである
ちなみに普通よりは短いけど両手で扱うサイズの銃はカービン銃(騎兵銃)
歩兵がつかうような両手で使う普通の銃は小銃という(大砲に対して小銃)
(歩兵用の銃だから歩兵銃とも言う)

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戦国日本で使われた短筒(マッチロック短銃)
片手使用できる銃の需要は洋の東西であったわけ

歩兵に向かって突撃の前に放てば突撃が成功する可能性を高められる
威力も上がって鎧を貫通できる可能性が上がってきている
新たな銃は全身鎧を装備してる相手にも有効打を与えることができる
ということは、全身重装備の騎兵にも当然効くわけだ
つまり敵の重騎兵と戦うときに槍より先に相手を倒せる
騎兵にとって銃というのは「ちょっと長い槍」として魅力的になった

だけれどもマッチロックの欠点がここでも問題になってくる
生の火種を保持しなきゃいけないのだが・・・
高速で走る馬の上だと歩く歩兵よりその難易度が上がってくるのだ
そこで火打ち石を使って撃ちたいときにだけ火をつけたい
フリントロックと同じ動機で生まれたのがホイールロック式

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ホイールロック中の点火部分

ホイールロックは名前の通りホイールが点火のカギだ
燧石に押し当てたホイールを高速で回転させて火花を散らして着火する
原理としては100円ライターの着火装置に似ている
この回転させるためにゼンマイを巻いて力を貯めておく必要がある

ところが、ゼンマイで回せるようなホイールとか
トリガーを指で引けば十分な力をかけれるゼンマイそのものとか
内部のメカニズムが色々複雑になってしまう
複雑ということは高価でかつ壊れやすいということだ
だから、マッチロックの代わりとして大規模に使われることはなかった
でも騎兵用の銃としてはその高価さに目をつむれるほど必要性が強い
それに騎兵はもともと歩兵よりコストを掛けざるを得ない兵科だからな
そもそも騎乗用のウマからしてかなり高価な代物なわけで
ホイールロック式の銃は多くは騎兵用として作られたのだ
(フリントロックの実用化後も高級品として愛好者がいた)
高価で複雑だったけど、実用品として使えるレベルには収まってたわけ

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ホイールロック式の短銃
鎧を装備しない軽装備の騎兵でも重装備の騎兵を倒せる可能性がある武器

そういうわけで銃を持った騎兵が大活躍するようになる
ドイツのレイターとかフランスのカラビニエとか竜騎兵とかいろいろ
走りながら撃つのが主に求められる騎兵には拳銃が好まれたし
逆に止まってからとか馬から降りて撃つ騎兵にはカービン銃が好まれた

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ドイツのレイター騎兵
あれだシュヴァルツランツェンレイターのレイター

そういうわけで短銃は長いこと騎兵用の銃として使われてきた
が、ウマの上では地上にいる歩兵より更に切実な問題があった
そう装填が非常に面倒くさいわけである
わざわざ火薬を銃口から注いで更に弾丸を…というのを馬の上で!
それはあまりにも面倒なので戦う前に装填したら何回も撃てる銃がほしい
もちろん、そんな銃は長いこと実用化できなかった
だから「装填済みの銃を複数持つ」ゴリ押しが実用的な解法となってしまう
とはいえ、理屈だけなら後々に実用品になる銃のメカニズムは浮かんでいた

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今で言うリボルバー銃(16世紀)
これはマッチロック式の着火装置

原理を大雑把に説明すると
銃身全部じゃなくて火薬と弾丸を入れる部分だけを複数でいいじゃん
ということである

リボルバー原理

これはアイディアとしては現在でも実用される考え方
実際、今の日本で普通の警察官が持つような銃もリボルバー拳銃だ

だがこの素晴らしいアイディアは長いこと実用化できなかった
まず薬室と銃身の位置をきっちり合わせて固定というのが難しいし
(この問題は銃身も複数もてば解決するが重くなる)
火皿まわりもコンパクトに纏めなきゃいけないから高精度が必要だ
点火用の火薬の扱いも割とデリケートなのでどうすべきか
などなど色々考えると当時の技術では実用品としては無理だったわけ

だけど前編で解説したとおり銃の大発展が起きる19世紀に解決する
最初に製品として販売された最初の連発銃はリボルバー銃だったのだ
1836年に発売されたコルトのパターソン・リボルバーだ

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コルト パターソン
今もその名が伝わる歴史的銃設計者コルトが発明した世界初の実用量産リボルバー拳銃。これ以前にもリボルバーはあったけど実用できたのはコイツが初だから歴史的なんだよな

実現には工業技術の向上だとかコルト自身の能力だとかが役に立ったが
同じくらいパーカッション式の着火方式が実用化されたことが一役買った
フリントロック式だと小銃用の大型の装置でもまだ非確実性が残ってた
なのに拳銃レベルに小型化するとなおさらだ
更にはリボルバーに組み込むとなると更に精度が必要になってしまう
だけど、パーカッションロック式では叩けさえすれば確実に着火できるのだ
だからある程度は実現難易度が下がったわけ

もちろんだからってコルトが楽をしたわけでもないけど
薬室と銃身のいちを合わせる作業をトリガーだけでできるようにしたのだ

実用化されたリボルバー拳銃は当初はあまり売れなかったらしい
でも徐々に「(しばらくの間)唯一の連発銃」として普及・発展していく

というわけで、前回まったく触れなかった拳銃について終わり
前回の続きにはいりたい(前回の内容を忘れた人は再読どうぞ)

連発銃

後装式のライフル銃が銃の理想的な形というのはわかっていた
でも、どうやって実現しよう?

拳銃ではリボルバー銃として後装式どころか連発式の銃が実現できた
じゃあ、小銃もリボルバー銃にすればいいんじゃないの?
その発想はもちろんあった
リボルバー式のライフル小銃、リボルビングライフル

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一見すると素晴らしい手段だった
なにせ連発できるライフル銃
これまで銃の開発者が夢見た理想の銃じゃないか
でも、これは見た目ほどには素晴らしくはなかった

素晴らしくない原因は拳銃と小銃の根本的な違いに由来する
つまり拳銃と違って小銃は両手で構えながら使う
どういうことか説明しよう

もともと銃の根本に弾丸と火薬を直接置く銃の難点は閉鎖機構だった
つまり「ガスをしっかり閉じ込めるのが難しい」から実現困難だったわけだ
ではリボルバー銃ではどんな対策をしているのだろう?
それは「逆に考えるんだ…ガスが漏れてもいいやって考えるんだ」

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この画像を見てほしい
リボルバー銃の側面から火薬が燃焼した爆炎が吹き出している
レンコンの薬室部分と銃身の間に隙間があるから当然ガスが漏れる
でも拳銃だとコレで問題がないのだ
写真を見ての通りガスの漏れる先に手や体はないからな

ところが、両手で小銃のように持つとき片方の手がガスをかぶってしまう
そうなると大火傷をしかねない
しかも小銃では狙うときに銃身の根本付近が顔の横に来る
顔面にガスが直撃してしまうとそれはもう大惨事よ
だからリボルバー式の小銃というのはあまり流行らなかったのだ
(もちろんまったく使われなかったわけでもないけど)

単発式ボルトアクション

本格的な小銃用の後装式メカは実は普及よりかなり早く登場していた
1860年代のプロイセンでその性能が明らかになる30年前
1836年に登場していた初のボルトアクション小銃であるドライゼ銃である

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ドライゼ銃の動作機構まわり
閂の掛け金(ボルト,bolt)と同じように操作するからボルトアクション

ボルトアクションというのはドアの閂に似ている
前後にスライドする金属柱の横から更に固定具が出っ張っている
それを所定の位置に作られた溝に引っ掛けるように横に倒して固定する

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イメージとしてはそのままこのタイプの閂を想像してもらうといい
閉鎖機構というのは要するに開けたり締めたりするメカなのだ

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この画像で言う黄色の部分が閂のスライド部分に相当する
黄色部分を後ろに下げた状態だと銃身の根本への道が開く
つまり弾丸を装填することができる
そして前に戻して横に倒し固定状態にすれば閉鎖され射撃可能だ

じゃあ、どうやって点火しよう?
それは画像の赤い部分を使う
バネで力を貯められた長い針を中に入れておくのだ
トリガーを引くとバネが開放されて飛び出た針が雷管を叩く
(針:今風に言うとファイアリングピン
雷管を叩けば点火できるようになった時代ならではの方法だ

ドライゼ銃は最初のボルトアクション銃なんで構造としては弱かった
特に点火に使う長い針が弱いもんで折れて故障が多発したらしい

このボルトアクション銃が戦場で大活躍するまでちょっと時間がかかった
その間に別の後装式閉鎖機構を備えた銃が主にアメリカで広まることになる

レバーアクション連発銃

前半で薬莢の発明が大きな契機となったことは最後に説明した
弾丸・点火用火薬・発射用火薬がすべて硬い一つの塊として扱える
これが非常に嬉しい
弾丸を機械のツメで引っ掛けて引き抜いたり
後ろから機械で弾丸を押し付けて筒の中に押し込んだり
つまり、人間の手ではなく単純な機械でも扱いやすくなったのだ

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リムド弾(左)とリムレス弾(右)
リムというのは銃弾のケツについた部品に引っ掛けるための凸部
銃身に必要以上に押し込まれにくいリムド弾が初期は多かった

どうして機械で扱いやすいと嬉しいの?
それは「弾丸を薬室に込める装置」を作りやすくなるから
これまで銃弾はポケットとかの弾薬袋から人力で装填していた
もし銃と一体化した弾薬箱からそのまま弾丸を込められたら・・・
そう連発銃の誕生が見えてきたわけだ

当時は繰り返し(Repeat)撃てる銃・・・
リピーター(Repeater)とかリピーティングライフル(Repeating Rifle)
と呼ばれていた

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1847年にヴォリショナル・リピーター(連発銃)という銃の特許が取られた
その改良型として1854年に現れたヴォルカニック連発銃
黎明期の連発銃らしくロケットボール弾を使うとか変なとこはあった
(弾丸の中に雷管と火薬があればいいんじゃない?という弾丸)
でも根本的な構造は後のレバーアクション銃につながる銃だ

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更に改良されたヘンリー銃が完成形にちかい
こちらは南北戦争でもそれなりの数が活用された連発銃だ
弾丸もリムファイアー式(リムの部分に雷管がある)の金属薬莢
チューブマガジンと呼ばれる形態の弾倉に弾丸を貯めておくことで
なんと装填なしに16連発も可能だったのだ

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上の画像はもうちょっと時代が進んだスペンサー銃の画像
一番上のFig1の右端、肩当ての部分に筒状のチューブマガジンが埋まってる
(銃によっては銃身の真下にチューブがある銃もある)
その内部には弾丸とそれを後ろから押すためのバネが入ってる状態
銃弾を発射すると使用済みの空薬莢は薬室内に残ってしまう
だからどうにかしてそれを引っこ抜く必要があるわけだが

そこでレバーを前方向に倒す(Fig2の状態)と
排出口が開きエキストラクター(抽筒子)という金具が空薬莢を引き抜く
(ちなみに完全に外に排出する金具はエジェクター
そしてレバーを元に戻すと、逆の動作が今度は弾丸を薬室に送り込む

ココ編の詳しい動作はyoutubeを検索すると解説の動画が割と出てくる
ちょっと探してみると面白いので是非どうぞ
例をあげると1873年式ウィンチェスター銃の内部動作のアニメーション
エキストラクターがリムに引っかかってる様子がよく分かるはずだ

後装式連発銃と前装式ライフルドマスケットの共存

そういうわけで後装式の連発銃はすぐに前装式を駆逐・・・しなかった
すくなくとも直ぐには

これは単純に軍人たちが新しいものを信用できなかったというだけではない

まず前装式に比べて後装式の銃は圧倒的に高級品だ
これは個人ならともかく数千人・数万人の銃を考えると重大
しかも金属薬莢も従来の弾薬に比べると消耗品のくせに高価だ

さらに複雑なメカなので戦場で故障する可能性も前装式より高い
本当に戦場でちゃんと動いてくれるのか?

最大の問題は射程と威力だ
後装式の銃が長いこと実現できなかったのは閉鎖機構の問題
つまり「ガスをしっかり閉じ込められる扉」が作れなかったからだ
同じ理由でこの時期の後装式は威力の(比較的)弱い弾丸しか撃てなかった
威力を強くしすぎるとメカが保たなかったのだ
逆に言うと前装式は思いっきり威力を強くできる
だから射程ではまだ前装式銃に優位があったのだ

前装式銃の追い風になったのはミニエー弾と呼ばれる弾丸の登場だった
ライフル銃が登場してからも長いこと滑腔小銃(マスケット)は共存してた
それは前装式ライフルだとメチャクチャ装填しにくかったから
発射速度に3倍近い差があったので多くの兵士は滑腔銃を装備してたのだ
…と前回言及した

まてよ、しっかりライフリングと噛み合う弾丸はギチギチに太いのが問題
じゃあ、装填するときは細くて後から太くなればいいじゃん

その発想で成功した弾丸がミニエー弾である

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フランス人のMiniéさんが発明したからミニエー弾
仕組みは単純で弾丸の内部にガスを受ける”くぼみ”が掘られていて
このくぼみの内側にガス受けカップなど挿入物が差し込まれている
火薬の燃焼ガスはもちろん弾丸と挿入物にも圧力をかける
狭いくぼみに異物を押し込んだりしたら弾丸の形は歪むよな?
加速に使われるガスの力がまさにその"押し込む力"として機能するのだ
その圧力で弾丸が外側に膨らむことでライフリングに噛み合うわけ
同じ原理を使う他の弾丸もあるが基本は同じものだ

この銃弾は従来の滑腔銃と前装ライフル銃のいいところどりを実現
前装滑腔小銃は(マスケット銃)は急激に存在価値を失って衰退していった
なにせ従来のマスケット銃にライフリングを施すだけでいいのだ
あとはミニエー弾を使えば従来より圧倒的な長射程の新型武器に早変わり
歩兵武器=ライフル化されたマスケット銃(ライフルドマスケット)となる
ミニエー弾を使うものはミニエー銃ともいう

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1853年式エンフィールド小銃
パーカッションロック式の前装ライフルドマスケット
エンフィールド弾"も"使うので本当はミニエー銃ではないのだが
幕末日本とかだと一絡げに「ミニエー」と呼ばれがち

1854年9月20日、クリミア戦争のアルマ川の戦いでその威力は実証された
ライフルドマスケットのイギリス歩兵が従来型ロシア歩兵を圧倒したのだ

自分たちが手にしている銃の命中率の高さと射程距離の長さを認識した英国兵たちは、自信を持って射撃を開始した…我が軍のマスケット銃の銃弾は300歩以上はなれた敵には届かなかったが、英国兵のミニエ銃は1200歩の距離から狙って撃ってきた。ミニエ銃の優越性を知った敵は接近戦を避けた。敵は一定の距離を保って後退し、そこから恐るべき精度で一斉射撃を加えてきた。攻撃を敢行するたび、我が軍の損害が拡大した。敵の圧倒的な弾幕を突破することは不可能だった。
      オーランドー・ファイジズ『クリミア戦争』より引用

数百年にわたり使われてきた前装式滑腔銃がついに時代遅れになった

主力歩兵武器として十分な連射速度
1850年代現在で最強の威力と最長の射程
安価で洗練された堅牢なシステム
軍の主力として歩兵が装備するには理想的武器ではないか
ライフルドマスケットがこれからの歩兵の装備だ

そういうわけで
長射程のライフルドマスケット装備の歩兵が歩兵の大多数を構成
短射程かつ高価だけど圧倒的連射力の連発銃装備の歩兵は少数
という組み合わせでアメリカ南北戦争が行われることになる
・・・当初は旧時代とあまり戦術が変わらないままで

後編に続く

お金は要らない、読んでくれさえするならば