愛とお金人生の始まり
それから私はバンドマンRを好きになる。
Rが出ているライブには欠かさず顔を出し、認知
されることを狙っていた。
そしてあわよくばとも思っていたのは事実。
あるライブハウスに行った時いつものように出番を1人で待っていた。すると少し派手目な女の子(Sちゃん)から声を掛けられる。
「誰目当てですか?」嫌味のない愛想のよさそうな軽快な声が心地よい。Rだと告げると、Sちゃんも Rのファンだった。
好きな人が一致したこともあり、すぐに意気投合。
私は応援している人が被ることが少し不安だったけれどなぜだかそこまで気にならなかった。
それからは必ずSちゃんとライブに行くことになる。
Sちゃんは同い年。
学校はあまり好きじゃないみたい。Sちゃんの手首には古傷がびっしりあった。私は一度もソレに触れなかった。Sちゃんといるときの私は強く感じた。
可愛くてきらきらしていて少し寂しそうなSちゃん。私が持っていないものを持っている子だった。
Sちゃんはバンドマンともよく遊んでいた。そういうふらふらしたところも好き。私が行ったライブの帰りにSちゃんが来てくれた。
お酒を飲んでふらふらの様子で(未成年なのは目を瞑ってあげて欲しい)少々呂律の回らない声でバンドマンと寝てから来たことを楽しそうに話す姿は若さの消費を表わしていたと思った。
未成年と交わることを望むバンドマンと、バンドマンというだけでかっこいい存在に見える魔法にかかっている未成年。
これが幸せになんてなるはず無いのに、分かっていても尚需要と供給が成り立つ奇妙な界隈。
全くステータスにもならないのに武勇伝のように語るSちゃんは私の憧れだった。
それから私達はRに愛想を尽かした。どうでもよくなった。あんなにこんなに好きになるバンドマンはもう今後現れない!!と豪語していた私の薄っぺらさ。
まわりには私飽き性だからと強がった。
Rからも特段メッセージなどは来なかった。
お互いそんなもん。
客で相手は演者。
それはいくら甘い言葉を掛けられていたとしても変わらない事実。
お金で繋がっていることは曲げられないのだ。
”お金と愛"これが付きまとうひとつのキーワードなのかもしれない。
Sちゃんとは疎遠になった。これもまたRを好きじゃなくなった今、Rが繋いでいただけの友情だったのかもしれない。時々SちゃんのSNSを勝手に覗いて生存確認をしていたが、いつごろからだったかそれもやめた。
過去の子を追う意味もないし、私もあまり興味が沸かなくなってきていた。