変質者ホイホイ


こんにちは。私です。

私は昔から生粋の変質者ホイホイである。
やれタイツを売ってくれだの、駅のホームでぴったりと隣に座られデニムの上から太ももを撫でられ、
飲みに行けば見知らぬ人に絡まれ、コンビニで飲み物を買うと歯1(はいち)(歯が一本しかないヤバめのおじさん)に飲みかけの飲み物をぶん取り上げられて飲まれ、スタバではスタバに居るはずのないような容態をした見知らぬおじさんに向かいに座られひたすら話しかけられる。

そんな私が出会った中で1番の変質者の話をしようと思う。


当時19歳の頃である。
掛け持ちをしていた飲み屋のバイト帰り、夜道を照らすライトの光でうっすらと向こう側に人影が見えた。
最初はこの世のものではない、異次元の何かしらのモノを見たと思った。なぜなら、全てが「不自然」だったからである。

夜道に現れる「不自然な何か」ほど怖いものはない。昼間の「不自然な何か」は、「不自然な何か」ではなく「単純にヤバい奴」である。
少し距離を取り、目を逸らして歩く。これだけでいい。
が、「夜道に居る不自然な何か」は何をしてくるかわかったもんじゃない。刃物を持っているかもしれない。誘拐されるかもしれない。

とりあえず私にできることは刺激を与えないことだと思い、無視して目を逸らして歩く。私は空気だと思い込む。相手にとってただの景色になりたかった。が、そうはいかなかった。

「すみません、少しいいですか?」

向かいから声がする。「不自然な何か」から、「敬語を使える普通の男性」に変わった。はずだった。近づいてきた。街灯が当たる。女装をしていた。

「化粧を教えてくれませんか?」

私は能天気である。能天気だからこそ、変質者ホイホイなのかもしれない。隙があるのだろう。
「化粧を教えてくれませんか?」の言葉で、私は勝手にその男性の人生を想像した。

きっと本当の性自認は女性なんだろう、でも社会的に、人の目を気にして「心は女性だ」と人に言えず、でも女性に憧れ、夜中に女装をして歩くことによって、一生抑えていく「心と体の違い」を擦り合わせて生きているのだろう、と。

そんな人を無下に扱う理由なんてない。
二つ返事で了承して、近くのライトが当たる階段に座り、自分の化粧ポーチを広げ、一つ一つ説明をした。

その男性はとても喜んでくれて、何度も何度も
「可愛くなりたい」と言っていた。

質を気にしないのであれば、今はコンビニでも化粧品があるから買うといいですよ、お家で楽しんでくださいね。とアドバイスした。

すると、男性から
「最後に一つだけお願いを聞いてもらえますか?」
と言われた。
一緒に化粧品を買いについてきて欲しいとかだろうか?もう深夜だし嫌だな。もちろん行く気はないし、だからといってその人に自前の化粧品を譲る気もない。
ここまで教えたし、あとはどうにか自分でしてくれよと思いながら、
「なんですか?」と聞いた。

するとその男性は、
「オナニー見てくれませんか?」
と放った。

あまりにも唐突すぎて頭が回らなかった。
と共に爆笑してしまった。

「むりでーーーす!」と
発した時、確実に私の語尾には「w」の草が生えていた。

ドラえもんには「こえかたまり」という道具がある。
発した言葉が石のように固まって飛んでいくという道具だ。
あの時の私は、「むりでーーーすwwww!」
だったので、もしも「こえかたまり」を飲んでいたら、その不審者は「w」で何度もHPを削られた上、「!」のびっくりマークが胸に突き刺さって死んでいたであろう。あやうく殺人犯になるところであった。

ドラえもんがこの世にいなくて良かった。



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