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【SUNTORY】トリスウイスキー

トリスウイスキー(Torys Whisky)は、サントリースピリッツが製造し、サントリー酒類(二代目)が販売する、サントリーを代表する廉価国産ブレンデッドウイスキーブランドの一翼として有名な庶民派ウイスキーです。
ウイスキーメーカーとしてのサントリーの原点となる洋酒の一翼であり、またロングセラーブランドとして重要視されています。

現在まで続くトリスウイスキー(トリスウヰスキー)が市場に初めて登場したのは1946年(昭和21年)で、一般向けの三級ウイスキー(酒税法改正後は二級ウイスキーに変更)として「うまい」「安い」のキャッチフレーズに乗せて販売を開始しました。
この時、柳原良平がデザインしたイメージキャラクターが、かの有名な「アンクルトリス」です。
ポップな見た目とデフォルメされた愛らしいおじさんキャラクターのアンクルトリスを見るだけで、今や誰もが「トリスウイスキー」と認識できます。
アンクルトリスは中年の男性をユーモラスに具現化した描写で、1960年代における酒類の広告キャラクターでは最も認知度が高いキャラクターとして幅広い層に知られています。
アンクルトリスにはきちんとした設定も存在していて、お酒はウイスキーが好き!正義感は強いが、少しエッチで繊細な性格のサラリーマン。
趣味は野球で妻は和服美人で愛妻家だが小心者の一面もある。という、時代は変われど、等身大のサラリーマン像が反映されていて、そこが多くの人に愛される理由かもしれません。
アンクルトリスは2010年代にリバイバル復活を遂げ、現在に至るまでTVCMや広告に何度も起用され、トリスウイスキー=アンクルトリスのイメージがお馴染みとなり定着化。
アンクルトリスはその後もサントリーが販売している健康補助食品「セサミン」の電車内広告などにも登場するほど、サントリーを代表するグローバルなイメージキャラクターへと成長しています。

アンクルトリスのおかげで知名度も抜群のトリスウイスキーですが、サントリーホールディングスの登録商標(第667200号他)となっています。
その語源となるTorysとは、鳥井信冶郎の名前に由来していて「鳥井の」という意味を持っています。
その「トリスウイスキー」の起源ですが、サントリーの公式上ではトリスの歴史は終戦直後から始まったということになっています。
しかし、実は「トリス」という名前を冠したウイスキーは1919年(大正8年)に誕生していました。
しかし、その中身は現代のトリスとは全く違う別物なので、この戦前の「トリス」の存在は、サントリーのウイスキー史では殆ど無かったことにされています。

では、そのサントリーのウイスキー史では殆ど無かったことにされてしまっている戦前の「トリス」とは何であるのか?少し深掘りしてみましょう。

当時の壽屋は1907年(明治40年)に発売した赤玉ポートワインのヒットで同社の土台を築きつつありました。
その勢いを追い風にワイン以外の洋酒も国内に広め、シェア拡大を図るため、次の一手のヒントを得ようと海外からとあるウイスキー原酒を購入しました。
しかし購入したウイスキー原酒は粗悪な模造アルコールといえる名ばかりの粗悪なウイスキーもどきで、ウイスキーの成分自体ほぼ含まれていなかったこともあり、全く売り物にならないと判断された結果「赤玉ポートワイン」の空き樽に入れられて倉庫の奥で数年放置されることとなります。
数年後、捨て置かれたも同然だった粗悪な原酒を確認してみると琥珀色に熟成し、ウイスキーっぽい香りのするお酒が出来ていました。
鳥井はそれがウイスキーであることを確信(…という名の勘違い)し、この原酒を水などとブレンドしてアルコール度数を調整し「トリス」と名付け販売しました。
その初代トリスは日本人が味わったことのない珍しいお酒ということで、発売すると瞬く間に売り切れてしまいました。
ただ、原酒にウイスキーの成分が含まれていないこともあり、この初代トリスは創業者・鳥井の勘違いだったというのが現在の定説となっています。
(現在の現在の酒税法上の基準では果実酒から作られた原酒で、ウイスキーではなくブランデー扱いになる原酒だったと言われています。)

しかし、この初代トリスの勘違いと大成功のおかげで、鳥井は国産初のウイスキー製造に乗り出す決意を固め、1923年(大正12年)に山崎蒸溜所の竣工に踏み切ることとなります。
壽屋の創業者である鳥井の初代トリスに対する勘違いと成功体験が無ければ日本にウイスキー文化が根付かなかった可能性があることは否定できません。
こうして初代トリスは日本のウイスキーの歴史が始まるきっかけとなりました。
その後、本物の「国産ウイスキー第1号」として製造されたサントリー「ホワイト」へと歴史は受け継がれることとなります。

ということで、ウイスキーと呼べるお酒ではなかった戦前の初代トリス
1946年(昭和21年)から発売された現在に至る流れを汲むトリスは、山崎蒸溜所製造のウイスキー原酒が5%程度含まれ、何とかウイスキーと呼べるお酒となりました。
ちなみに、原酒100%が当たり前の現在のウイスキーからすると、かなり低い割合ですが、失明の危険があるメチルアルコールなど有毒な工業用アルコールを混和した危険な密造酒などが平然と出回っていた戦後混迷の時代背景まで考慮すると、安心して飲めるアルコール飲料としてトリスはメーカー正規品のしっかりとしたお酒という立ち位置だったこともまた事実です。

そのメーカー正規品のお酒(トリス)が飲める庶民向けの酒場として1960年代を中心に人気を博したのが「トリスバー」の愛称で呼ばれたウイスキーバーです。
サントリーが“庶民のウイスキー”として開発した銘柄であるトリスウイスキーを中心にメニューが展開され、基本スタイルはカウンター前に「止まり木」と呼ばれる腰掛けが並び、バーテンと客が気軽な会話を交わしながら、正規品のウイスキーを低価格で提供するというコンセプトだった様です。
現在でも有名な「トリハイ」と呼ばれている、トリスウィスキーを使用したハイボールが人気メニューの筆頭であり、食事のメニューはややクラシックな洋食が中心となっています。
最盛期に比べると数は減少したものの、現在も各地で営業を続けています。
余談ですが「トリスバー」の生みの親は、サントリーの創業者である鳥井信治郎の次男で2代目社長を務めた佐治敬三です。

更に時代が進むとウイスキー原酒の配合割合が徐々に引き上げられ10%まで高められたトリスは2級ウイスキー(後の1級ウイスキー)として進化し、発売されていました。
高級なウイスキーの税率が現在よりも割高だった時代でも、比較的安価だったため一般大衆の人気を得て、比較的社会が豊かになった後も若者を中心に庶民派ウイスキーの代表格として一定の人気を博しましたが、価格相応にトリスの中身は残念なものでした。
その肝心の中身ですが、1989年(平成元年)の酒税法改正によりウイスキーの等級制が廃止されて税率が統一されるまで、ウイスキーの構成原酒の他にブレンド用アルコール(廃糖蜜から作られた安価なスピリッツ)を混和して薄めた廉価ウイスキーとして販売されていました。

そんな安酒を絵に描いた様な「トリス」ブランドに一大転機が訪れます。

前述の酒税法改正によるウイスキーの等級制度廃止が良い機会となり、1990年代からはモルト原酒率などは大きく変わらないものの、ブレンド用アルコール(スピリッツ)の混和が廃止されるという大幅な改良と商品リニューアルが敢行されました。

サントリーのウイスキーにおける最も安価なウイスキーという立ち位置こそ特段変化はないものの、トリスの中身はそれまでとは完全に別物となっていて、それまで使用されていたブレンド用アルコールに代わり、新たにグレーン原酒が含まれるようになりました。
この革命的リニューアルにより、トリスの中身はウイスキー原酒100%の正真正銘本物のウイスキーへと変貌し、品質を大幅に向上しブランドイメージを刷新することに成功します。
つまり、90年代以前のトリスと90年代以降のトリスでは商品の原酒構成比や原材料や内容など、あらゆる部分で全く違うということになります。
昭和の「トリス=不味い・偽物・粗悪品」というイメージが根強くある人は、90年代以降のトリスを飲めば、少しは印象が変わるかもしれません。

90年代のリニューアルの追い風を受けたトリスブランドは2003年3月にリニューアルと商品ラインナップを刷新したことにより、若年層向けのイメージ戦略を行い、顧客層の更なる拡大に成功。
サントリーは2003年3月に「トリス[スクエア]」2004年5月に「トリス[ブラック]」を立て続けに発売し、2010年の商品改廃までしっかりとトリスブランドを堅持することで、従来のサラリーマン世代だけではなく、新たに若者層にも愛飲者を拡大させることに成功します。

その成功の勢いはそのままに、2009年頃からの角瓶を中心としたハイボールブームの追い風に乗る形で、2010年9月にこれまでのラインナップが再度刷新され、通常のトリスに比べて爽やかな味わいでハイボール需要に合うブレンドに仕上げた「トリス[エクストラ]」と同製品をベースにした「トリスハイボール缶」を発売し、大成功を収めました。
その背景にはサントリーの主力商品である角瓶の大ヒットによる原酒不足危機がありました。
角瓶のハイボール戦略が予想を遥かに超える売り上げを叩き出した結果、角瓶の原酒生産が加速度的に追いつかなくなりました。
角瓶の原酒不足危機を乗り越えるため、角瓶の需要を少しでも他の銘柄に移そうと、より低価格帯で汎用性の高いトリスのラインナップの拡充が急務だったと言われています。
その拡充の一環として生まれたのがハイボールスタイルで楽しむことを前提に開発された「トリス[エクストラ]」と「トリスハイボール缶」でした。
また、居酒屋でも「角ハイ」に続いて「トリハイ」が生まれるなど、サントリーの原酒不足危機を救ったと言えるのが「トリス[エクストラ]」であり、「トリスハイボール缶」でした。
特に「トリスハイボール缶」は発売以降、通常品の他に季節限定品やエリア限定品などを中心に、様々なフレーバーが登場するようになり、好評を博しました。
特に2010年代は「トリスハイボール缶」の充実度と存在感は増すばかりで、スーパーやコンビニエンスストアの棚に欠かせない商品と言えるまでに成長を遂げました。

そして2015年9月には「トリス[ブラック]」の事実上の後継商品となる「トリス[クラシック]」が発売されました。
この現行型と言える「トリス[クラシック]」はキーモルトとして白州産モルト原酒が用いられ、淡い香味ながらもバランスの良いブレンドに仕上げられ、「トリス[エクストラ]」と共に現在に至ります。

戦後復興の時代から現在に至るまで連綿と愛されてきたトリスブランド。
そして、大正時代に偶然の産物として造られた「トリス」という名前のお酒は、日本のウイスキーの歴史の始まりを作った始まりのお酒とも言えます。
今や世界五大ウイスキーの一つとなった日本のウイスキーですが、そんな歴史の1ページを作り出したトリスというウイスキーの存在。
ストレートやロックで飲むにはアルコール辛いかもしれませんが、現代風にハイボールスタイルで飲むと、新時代を駆ける美味しさが見えてくるかもしれません。

名称:トリスウイスキー
種類:ブレンデッドウイスキー
販売:サントリー株式会社
製造:サントリー株式会社
原料:モルト、グレーン(現行品)
容量:700ml 37%(トリスクラシック現行品)
所見:今も愛される庶民派ウイスキーの一翼。