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【SUNTORY】オールド

サントリーのウイスキーで「オールド」と言えば高度経済成長時代にバカ売れした伝説の銘柄で、団塊の世代がイケイケドンドン時代にめちゃくちゃ流行したウイスキーとして有名です。
サントリースピリッツが製造し、サントリー酒類(二代目)が販売するブレンデッドウイスキーの一つに分類されます。
その瓶の形状から、”ダルマ”や”たぬき”といった愛称がつけられています。
しかし現在では角瓶より少し良いけど、古臭いよね?程度の扱いを受ける不憫なウイスキーに成り下がってしまいました。
今回、その遠因も含めてオールドの栄枯盛衰を書き記したいと思います。

オールドの歴史は古く、「オールド」の原型となるウイスキーが誕生したのは昭和15年(1940年)で、当時の寿屋(現在のサントリー)としては最高の出来映えでしたが、オールドが実際に商品化されるには戦争の終結を待たなければなりませんでした。
結果的に「オールド」が発売されたのは、第二次世界大戦終結後暫くしてからの話で、戦後復興が実感できるようになってきた昭和25年(1950年)のことでした。

発売当時は実に高価なウイスキーで庶民の「憧れの的」でしたが、禁止税的に高価であった輸入ウイスキーの代わりとして、夜の歓楽街にあるバー・クラブ・スナックなどの店で人気を集めたそうです。
高度経済成長期には、寿屋の売り上げの殆どをオールドで占めた時期もあり、一気にサントリーウイスキーの代表的なブランドへと成長しました。
(※1963年(昭和38年)3月に「寿屋」から「サントリー」へ社名を変更)

1981年時点においてオールドの出荷本数は1億3000万本以上、ケース換算で約1000万ケースを売り上げていました。
数字が示す通り、サントリーが日本のウイスキーの総売上の76パーセントを占め、国内のウイスキー需要を牽引していた絶頂の時代でもありました。
1982年が売り上げのピークだそうですが、その時の売り上げは凄まじく、日本人の成人男性1人あたりオールドを6本を消費していたと言われるほどの圧倒的な売れ行きでした。
この驚異的な売り上げ本数は当時の日本国内における全ウイスキーの内、実に33.2%のシェアが「オールド」で、サントリーにおいても売上の半数を稼ぎ出す、正に「化物のような商品だった」という伝説まで残っています。

しかし、絶頂を迎えていた「オールド」ブランドも唐突に暗転期を迎えます。
1981年当時に日本消費者連盟が入手したとされるサントリーの内部資料によると最盛期の「オールド」の成分構成はモルト原酒27.6パーセント、グレンウイスキー45.1パーセント、汲水26.1パーセント、甘味果実酒0.8パーセント、リキュール0.4パーセント、カラメル0.6パーセントとなっていて「何これ?」な添加物が多数加えられていることが、内部資料の流出によって公になりました。
ここで言うグレンウイスキーのグレンとは現在のグレーンウイスキーを指すのではなく、実際は無色透明の穀物アルコール(飲料用エタノール)を指し、単なるアルコール添加物とされるものでした。
更にウイスキー「らしい」琥珀色というものは熟成樽に貯蔵された結果であるため、1/4ほどの原酒に無色透明な穀物アルコールを加えただけでは別途色付けや風味の調整が必要になるので、そこを補う部分が甘味果実酒やリキュール、カラメルであり、現在の国産ウイスキーにおける品質の定義から見ると随分怪しげな感じが満載ではありますが、これが当時のサントリーにおけるスタンダードだったこともまた事実です。
しかし、こういった負の印象が現在に至るまで「オールド」というブランドに暗い影を落としていることは間違いないと感じます。

そして世に言う「オールド・ショック」がやってきます。

「ウイスキーは量産できない」とした品質志向のニッカと異なり、輸入した原酒と穀物アルコールを添加物で調整した当時のオールドは増大する国内需要を満たす唯一の銘柄であり続けましたが、貿易不均衡の是正を目的とした酒税法の改正(関税の引き下げ)もあり、品質の優れた外国製ウイスキーとの競争を行わねばならなくなりました。
長年にわたってサントリーの業績に貢献してきたオールドも1980年代中期になると加速度的に求心力を失い、その売り上げを他の本格派の洋酒に奪われることになりました。
この一連の流れを「オールド・ショック」と言います。

その後、高度経済成長期を経て1980年代に入るとウイスキーに代わり酎ハイが市民権を得て台頭してきたこと(1984年の焼酎ブーム)や、サントリーが扱う洋酒でもワインやカクテルなど様々なタイプへ消費者の好みが拡散し始めた(1979年の第二次ワインブーム)ことで「洋酒と言えばウイスキー」という時代は次第に終焉を告げ始めました。

これに対してサントリーは様々なタイプのウイスキーの開発や外国製ウイスキーの代理販売権の獲得を進めてゆくと共に、オールドも1980年代後期以降は様々に改良が加えられますが、現在に至るまで往時のオールドブランド需要の回復には至っていません。
1994年には従来のリッチ&メローから、新たに「マイルド&スムーズ」という口当たりのやわらかいものが新たに発売され、その後もマイルド&スムーズがリニューアルされ、2006年には「THEサントリーオールド」となりました。
また2007年10月からは、新たにシェリー樽原酒で仕上げられ、金のラベルをつけた「プレミアム43°」が発売され、リッチ&メローは製造を終了。
2008年9月に値上げが実施された際、新「サントリーオールド」を両者を統合する形で発売。
新オールドは原酒のブレンドの見直しによりアルコール度数43%に変更され、初期のオールドに近い味に回帰しつつ、ラベルにはサントリーのエンブレムである「向獅子マーク」が復活しています。

往年の輝きを取り戻すことができるのか否か、はサントリー次第でしょう。

名称:サントリーオールド
種類:ブレンデッドウイスキー
販売:サントリー株式会社
製造:サントリー株式会社
原料:モルト、グレーン
容量:700ml 43%(現行品)
所見:オールド・ショックの後遺症から抜け出せないウイスキー。