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第95回アカデミー賞全部門受賞予想!

今年もこの時期がやって参りました。
3月13日に映画の祭典アメリカアカデミー賞が発表されます。
というわけで、早速全部門予想行ってみましょう!

作品賞

西部戦線異状なし
アバター:ウェイ・オブ・ウォーター
○イニシェリン島の精霊
エルヴィス
◎エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
フェイブルマンズ
TAR/ター
トップガン マーヴェリック
逆転のトライアングル
ウーマン・トーキング 私たちの選択

今年より作品賞のノミネートが10本に固定されました(昨年までは5~10本という変動制)。
それによってまさかのノミネート落選という作品が減った印象です。前評判から考えると「バビロン」と「ザ・ホエール」ぐらいでしょうか。
そして今年は例年以上に候補作を鑑賞できている状況です。候補作で見れていないのは現時点で配信のみの「西部戦線異状なし」と公開予定が先の「TAR/ター」と「ウーマン・トーキング 私たちの選択」の3本で、残り7本は鑑賞済です。

本命は「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」。
中国系の移民家族の中年女性がマルチバースの破壊を目論む巨悪と対峙するという奇想天外な作品ですが、平凡な人生を歩んできた中年の人がパラレルワールドでは様々な活躍をしているというのはあらゆる人の可能性を感じさせるものでまさに近年のキーワードである多様性の象徴と言っても良いでしょう。さらにはマルチバースとして無限の広がりのある世界観ながら舞台となっているのが主人公家族の営むコインランドリーと税金の監査局の2か所がほとんどというのも創造性を感じさせます。
同作は作品賞と密接なつながりのある編集賞、監督賞にもノミネートされており、かつ主要キャスト4名も全て各賞にノミネートされているという点でも十分に評価されていますし、前哨戦の成績も申し分なし。唯一のウィークポイントとしては、マルチバース・アクションというジャンルですね。SFやアクション系の作品はどうしても受賞しづらいというのは過去の傾向として確かにあるのは事実です。ただアカデミー賞もここ10数年変革の姿勢を見せようとはしていますので、本作はいかにもそういう過去を打破するのにふさわしい作品だという印象があります。

対抗は「イニシェリン島の精霊」。
アイルランドの小さな島で友情が崩壊した2人の中年男の姿を描いたドラマですが、舞台劇をベースとしたやり取りでアイルランド内戦をアイロニックに描いた作品で、ドラマとしての完成度は非常に高くなっています。こちらの作品もやはり編集賞、監督賞にノミネートされており、かつ主要キャスト4名が全て各賞にノミネートと上記の「エブリシング~」とノミネーションの段階においては全くの互角と言って良いでしょう。こちらのウィークポイントとしては、小島での中年男性同士の喧嘩という全体としては地味な作品という印象がありオスカー作品としての華というのがないのがまず1点です。もう1点はアカデミー賞におけるマーティン・マクドナー監督の評価です。前作「スリー・ビルボード」はアカデミー賞でも本名視されながら受賞を逃しています。もちろん受賞作の「シェイプ・オブ・ウォーター」は素晴らしい作品だとは思いますが、異形の生物との交流を描いたダーク・ファンタジーというジャンルもありアカデミー賞の作品賞としてはどうかという雰囲気を跳ね除けての受賞だったという点で今年と被ります。さらにマーティン・マクドナー監督は「スリー・ビルボード」のときには監督賞にノミネートすらされていませんでした(今回はさすがにノミネートされていますが)。そうして点で何かアカデミー会員が毛嫌いしている要素があるのかもしれません。とはいえ、従来のアカデミー賞であれば確実に大本命です。賞としての格式を意識するのであれば、ゲロはいたりお尻に異物を突き刺したりする作品よりは受賞に近い作品であるとも言えます。

他はかなり受賞の線は薄いと思われます。
「西部戦線異状なし」は上記の2作を押さえて英国アカデミー賞の作品賞を受賞していますが、最近は英国アカデミー賞とアメリカアカデミー賞の作品賞は一致しないことも多いですし(昨年の「コーダ あいのうた」は英国アカデミー賞ではノミネートすらされていませんでした)、ドイツ語の作品であること、配信が主たる上映手段であることはマイナスでしょう。
大穴としては「トップガン マーヴェリック」ですかね。前作「トップガン」から30余年の時を経ての続編、前作へのオマージュもありつつ新しい姿を見せてくれた、しかも世界的に特大ヒットを遂げているということで映画業界への貢献という意味では大きいでしょう。ただやはり大作系の作品が作品賞を受賞する可能性は低いと思われますので、ノミネートだけでも十分といった印象もあります。

監督賞

▲マーティン・マクドナー『イニシェリン島の精霊』
○ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
スティーヴン・スピルバーグ『フェイブルマンズ』
◎トッド・フィールド『TAR/ター』
リューベン・オストルンド『逆転のトライアングル』

監督賞はかつては作品賞との関連も強く、同時受賞するケースが多かったのですが、ここ10年で見ると、昨年は作品賞が「コーダ あいのうた」で監督賞は「パワー・オブ・ザ・ドッグ」のジェーン・カンピオン、2018年は作品賞が「グリーンブック」で監督賞は「ROMA」のアルフォンソ・キュアロン、2016年は作品賞が「ムーンライト」で監督賞は「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル、2015年は作品賞が「スポットライト 世紀のスクープ」で監督賞は「レヴェナント: 蘇えりし者」のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、2013年は作品賞が「それでも夜は明ける」で監督賞は「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロン、2012年は作品賞が「アルゴ」で監督賞は「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」のアン・リーというように、作品賞と監督賞が別の作品になっているケースも増えてきています。この食い違いのパターンとして、監督賞の受賞者はそれまでのキャリアや経験などが買われているというものです。つまり受賞作の監督のキャリアや経験が浅かったり、監督が若めだったりすると受賞を逃しているパターンが多くなっています。

そんなわけで、監督賞の本命は「TAR/ター」のトッド・フィールド。
経歴こそ長いものの非常に寡作なことでも知られますが、「イン・ザ・ベッドルーム」、「リトル・チルドレン」といずれもアカデミー賞作品賞候補にもなった作品を監督しており、キャリアとしては申し分ないでしょう。ちなみにこの2作のときはいずれも監督賞にはノミネートされておらず今回が初ノミネートということからも、いかに監督賞がキャリア重視であるかということの証明になっているのではないでしょうか。「TAR/ター」はオーケストラの女性指揮者を主人公にした作品で芸術性がありながらもミステリー的要素もあるということで、作品そのものの評価もプラスされて戴冠まであるのではないでしょうか。

対抗は「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」の"ダニエルズ"ことダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート。作品の勢いそのままに受賞してもおかしくはないが、この名義では本作が長編映画2作目(1作目は「スイス・アーミーマン」。ダニエル・シャイナート単独名義で「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」があります)で、年齢も2人とも35歳とまだまだ若手と捉えられてもおかしくはありません(ちなみに監督賞の最年少受賞は「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼルで当時32歳でした)。その独創性、創造性は認めても額面通りに評価されるかにイマイチ疑問が残るということで対抗です。

3番手、というか他の賞の流れ次第では「イニシェリン島の精霊」のマーティン・マクドナーです。
作品賞を受賞する勢いがあれば当然この部門でも大本命になります。ただ先述したように「スリー・ビルボード」のときの評価がイマイチだっただけにここでもどういう評価になるのかがわかりません。とはいえ、アカデミー賞はごめんなさいではないのだろうけど下馬評が高くて受賞を逃したり、ノミネートされなかったりした候補者がその後の作品では高めに評価されるということもあるので、ここの受賞もあり得るかもしれません。

主演男優賞

◎オースティン・バトラー『エルヴィス』
コリン・ファレル『イニシェリン島の精霊』
○ブレンダン・フレイザー『ザ・ホエール』
ポール・メスカル『aftersun/アフターサン』
ビル・ナイ『生きる LIVING』

こちらも一騎打ちの様相ではないでしょうか。
本命は「エルヴィス」のオースティン・バトラー。
タイトル通りエルヴィス・プレスリーに扮しているのですが、ビジュアル、話し方などまさに本人の生き写しのようです。アカデミー賞の俳優部門では実在の人物を演じるというのは非常に高ポイントでもあります(昨年は「ドリームプラン」のウィル・スミス、2018年は「ボヘミアン・ラプソディ」のラミ・マレック、2017年は「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」がそれぞれ実在の人物を演じています)。「エルヴィス」は作品賞にこそノミネートはされているものの作品そのものの魅力というのは個人的にはそこまでではなかったのですが、賞レースでここまで話題になっているのは主演のオースティン・バトラーの魅力に尽きるのではないでしょうか。

対抗は「ザ・ホエール」のブレンダン・フレイザー。
体重200キロ以上で余命わずかと宣告された男が娘との絆を取り戻す物語で、特殊メイクによって大巨漢の男を演じていることでも話題になりました。ブレンダン・フレイザーと言えば「ハムナプトラ」シリーズで当時はハリウッドでも指折りの人気者だったのですがセクハラ絡みのトラブルに巻き込まれて干された状態になってしまっていたところからのカムバックということもあり、受賞に追い風とも言えるでしょう。

主演女優賞

◎ケイト・ブランシェット『TAR/ター』
アナ・デ・アルマス『ブロンド』
アンドレア・ライズボロー『トゥ・レスリー(原題) / To Leslie』
ミシェル・ウィリアムズ『フェイブルマンズ』
○ミシェル・ヨー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

こちらも男優賞と同じく一騎打ちになっているのではないでしょうか。
本命は「TAR/ター」のケイト・ブランシェット。
アカデミー賞では「ブルージャスミン」で主演女優賞、「アビエイター」で助演女優賞を受賞しておりノミネート数でも他を圧倒しています。そんな彼女の対象作品は女性初のベルリン・フィルのマエストロという役どころで、トッド・フィールドがケイト・ブランシェットで当て書きをしたということでそれに応える演技をしているのではないかと推察されます。唯一の懸念といえば、すでに受賞歴もあるのでそれならば他の候補者へ投票しようという考えの会員がいるかもしれないということ。ただ自分の中ではダニエル・デイ=ルイスの「リンカーン」のときの主演男優賞と重なっていて、このときも他の候補者の下馬評も高かったのだけれど結果的に受賞していることから、受賞歴が多かろうがすごい演技はすごいのだと評価されるでしょう。

対抗は「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のミシェル・ヨー。こちらも作品の勢い、女優としてのキャリアなど申し分のない条件は多いが、本作は4人ともノミネートされているように誰か一人の演技が傑出しているというわけではない部分もあります(その意味では「イニシェリン島の精霊」も同様ですが)。マルチバースの並行世界で様々な顔を見せる、アクションもこなすと評価ポイントはたくさんありますが、タイトルロールの役を演じるケイト・ブランシェットと比較すると演技そのものの評価でケイトに軍配が上がりそうです。

助演男優賞

ブレンダン・グリーソン『イニシェリン島の精霊』
ブライアン・タイリー・ヘンリー『その道の向こうに』
ジャド・ハーシュ『フェイブルマンズ』
○バリー・コーガン『イニシェリン島の精霊』
◎キー・ホイ・クァン『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

ここは「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のキー・ホイ・クァンでしょう。
先述したように本作はアンサンブル演技で誰かが突出しているというものではないのですが、その中で誰か一人に賞が行くとしたらキー・ホイ・クァンかと思います。ミシェル・ヨー扮する主人公の夫で普段は優しいだけが取り柄の冴えない男ながら並行世界ではマルチバースの崩壊を食い止めようとするヒーローでもあり、この両面をうまく演じ分けつつも主人公に世界の真実を伝えるという重要な役どころになっています。キー・ホイ・クァンと言えば「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」や「グーニーズ」で子役として大活躍でしたが、しばらくは制作側やアクション・コーディネートとして映画に関わっていてからの本格的な復帰作ということで評価しやすいポイントが極めて多いでしょう。

対抗は「イニシェリン島の精霊」のバリー・コーガン。
本作では主人公たちの友人にして島で一番バカだと言われている青年役で、独特の張り詰めた状況でも一人空気を読まずにずばずば言いたいことを言っているあたりに突き抜けている感はあります。ただ本作もまたアンサンブル演技という印象が強く、しかも本作ではより重要な役どころのブレンダン・グリーソンも同賞にノミネートされていることもあり、本作の支持者の間でも票割れが起こってしまう可能性が高いです。さらに、バリー・コーガンは出世作の「聖なる鹿殺し」をはじめ賞レースを賑わせる作品への出演も相次いでおり今回逃しても受賞の目がありそうなので、それならばキー・ホイ・クァンの復帰を祝おうという意識も働きそうなので、よっぽどのことがない限りは逆転の目はなさそう。

助演女優賞

◎アンジェラ・バセット『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
ホン・チャウ『ザ・ホエール』
○ケリー・コンドン『イニシェリン島の精霊』
▲ジェイミー・リー・カーティス『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
ステファニー・スー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

こちらは3つ巴の状況でしょうか。
その中で本命は「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」のアンジェラ・バセット。「ブラックパンサー」は主演のチャドウィック・ボーズマンが病気で急逝してしまったのですが、その続編では彼亡きあとのワカンダを描いており、アンジェラは息子を失い悲嘆に暮れながらも国や残された家族を守ろうとする役どころで、かつ今回は黒人俳優で受賞の可能性がありそうなのが彼女ぐらいということもあり、多様性を考えたときの候補として高く評価されることはありそうです。

「イニシェリン島の精霊」のケリー・コンドンを本命に。
先述したようにアンサンブル演技の作品ではありますが、本作でまさに紅一点のキャラクターで閉鎖的な島における自由の象徴という作品における意味合いでも極めて重要なパートを演じきっています。もし主要賞が「エブリシング~」に流れる可能性を考えた場合、唯一対抗できそうなのはこの部門なのではないでしょうか。これまで賞レースとは無縁の存在でしたが、この部門は比較的若手やキャリアの浅い女優にも優しい部門なので、受賞まで突き抜けても驚きはありません。

3番手は「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のジェイミー・リー・カーティス。本作では主人公一家に厳しい税金の監査官でありながらマルチバースでも様々な姿を見せる文字通りの怪演を披露しています。ただ本作がやはりアンサンブル演技で彼女一人を持ち上げて評価すると言うかたちにはなりづらいこと、「イニシェリン島の精霊」の助演男優賞同様にこの部門でも他にステファニー・スーがノミネートされていて同作品を推す会員の票割れが起こりうることなどを考えてのこの位置に。それでもこれがアカデミー賞初ノミネートなのは意外ですね。意外に思うということはこれまでごめんなさい受賞もあり得るかも・・・。

脚本賞

◎マーティン・マクドナー『イニシェリン島の精霊』
○ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
スティーヴン・スピルバーグ&トニー・クシュナー『フェイブルマンズ』
トッド・フィールド『TAR/ター』
リューベン・オストルンド『逆転のトライアングル』

こちらは「イニシェリン島の精霊」のマーティン・マクドナーの方を本命に。
小さな島での中年男性同士のささいな喧嘩を内戦の暗喩にしている物語は純粋に評価されやすいでしょう。前哨戦でも一歩リードしている感もあります。逆にここで受賞を逃すようであれば作品賞は厳しいかもしれません。
対抗は「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート。こちらもマルチバース・アクションの体をした家族の物語としてよく出来ている印象はありますが、やはりあの世界観は映像によるところが大きいでしょうし、単純に理解できなかったという人もいそうなので。

脚色賞

▲エドワード・ベルガー、レスリー・パターソン、イアン・ストーケル『西部戦線異状なし』
○ライアン・ジョンソン『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』
カズオ・イシグロ『生きる LIVING』
アーレン・クルーガー、エリック・ウォーレン・シンガー、クリストファー・マッカリー、原案ピーター・クレイグ、ジャスティン・マークス『トップガン マーヴェリック』
◎サラ・ポーリー『ウーマン・トーキング 私たちの選択』

ここは「ウーマン・トーキング 私たちの選択」のサラ・ポーリーに期待。
作品賞こそノミネートされているものの他の部門が思いの外伸び悩みましたが、「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」以来となるノミネートで初の戴冠なるか。
対抗は「ナイブズ・アウト:グラス・オニオン」のライアン・ジョンソン。ダニエル・クレイグが探偵に扮する痛快な群像ミステリーでとにかく話の面白さで群を抜いている印象です。ただ続編ということで前作以上の評価になるかはわかりません。
3番手は「西部戦線異状なし」。こちらも作品の評価は高いですが、戦争映画でどこまで脚色が評価されるかがわからないのでここまで。

編集賞

ミッケル・E・G・ニルソン『イニシェリン島の精霊』
マット・ヴィラ、ジョナサン・レドモンド『エルヴィス』
◎ポール・ロジャーズ『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
モニカ・ヴィッリ『TAR/ター』
エディ・ハミルトン『トップガン マーヴェリック』

ここは「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のポール・ロジャースで決まりじゃないでしょうか。
編集は最終的な作品の完成度に直結するので作品賞とは切っても切れない関係性にあることや、その上でも編集によって見せるということが意識されていたり、明らかに技巧的な編集が評価される印象がありますが、本作はその全てに該当していると言えます。「イニシェリン島の精霊」や「エルヴィス」は奇をてらった編集をしているというわけではないので、ここは順当か。むしろ「エブリシング~」がアカデミー賞の作品賞としてはジャンル的にふさわしくないと評価されたとしてもここは外さないでしょう。

撮影賞

○ジェームズ・フレンド『西部戦線異状なし』
ダリウス・コンジ『バルド、偽りの記録と一握りの真実』
◎マンディ・ウォーカー『エルヴィス』
▲ロジャー・ディーキンス『エンパイア・オブ・ライト』
フロリアン・ホーフマイスター『TAR/ター』

今年のノミネーション段階で波乱があったとすればこの部門でしょう。
「トップガン マーヴェリック」も「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」もノミネートされていないのは意外でした。
となれば、本命は「エルヴィス」のマンディ・ウォーカー。圧巻のライブシーンには撮影の技術も大きく貢献していたはず。
対抗は「西部戦線異状なし」のジェームズ・フレンド。戦争映画ということでカメラワークは非常に重要になってきます。
3番手は「エンパイア・オブ・ライト」のロジャー・ディーキンス。無冠の帝王も今や昔の話。「ブレードランナー2049」「1917 命をかけた伝令」に続く3度目の受賞の可能性も。

美術賞

『西部戦線異状なし』
▲『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
◎『バビロン』
○『エルヴィス』
『フェイブルマンズ』

本命は「バビロン」。デイミアン・チャゼルのハリウッド回顧作なのだが作品賞他の部門では選外になってしまいましたが、当代の映画制作現場における小物からスタジオ、舞台装置など評価しやすいポイントが多そうです。
対抗は「エルヴィス」。こちらも当時の舞台の再現というところでは評価されそうですし、作品の勢いでは逆転受賞も有り得そう。
3番手は「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」。前作も同賞を受賞しておりあの世界観の実現にはプロダクションデザインが大きな役割を担っているはずです。

音響賞

○『西部戦線異状なし』
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』
▲『エルヴィス』
◎『トップガン マーヴェリック』

この部門は昨年より音響賞と音響編集賞に分かれていたのが統合されました。
ちなみに受賞したのは「DUNE 砂の惑星」でしたが、例年は戦争映画や音楽映画が圧倒的に強い部門となっています。

本命は「トップガン マーヴェリック」。
作品の圧倒的な迫力には音響効果の影響が不可欠だったことを考えるとここは十分に賞に値するでしょう。
対抗は戦争映画ということで「西部戦線異状なし」。
3番手は音楽映画の「エルヴィス」

視覚効果賞

『西部戦線異状なし』
◎『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
『トップガン マーヴェリック』

この部門も「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」が順当に受賞するのではないでしょうか。あの世界観の構築は視覚効果があってこそ。前作に引き続きチームアバターが受賞することになんの違和感もありません。

歌曲賞

「Applause」『私たちの声』
▲「Hold My Hand」『トップガン マーヴェリック』
○「Lift Me Up」『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
◎「Naatu Naatu」『RRR』
「This Is A Life」『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

ここはどちらかといえば希望に近い予想ですが、「RRR」の「Naatu Naatu」にします。国際長編映画賞のノミネートからは外れてしまいましたが、その分この映画のファンはこちらに全力のはず。授賞式での生パフォーマンスもあるとのことで世界を席巻すること期待。
対抗はリアーナによる「Lift Me Up」(「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」)とレディー・ガガによる「Hold My Hand」(「トップガン マーヴェリック」)か。

作曲賞

◎フォルカー・バーテルマン『西部戦線異状なし』
○ジャスティン・ハーウィッツ『バビロン』
カーター・バーウェル『イニシェリン島の精霊』
サン・ラックス『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
ジョン・ウィリアムズ『フェイブルマンズ』

ここは「西部戦線異状なし」のフォルカー・バーテルマンを本命に。
戦場の雰囲気を演出するような音楽が効果的に使われているとの評判。
対抗は「バビロン」のジャスティン・ハーウィッツ。前哨戦ではこちらが抜けているものの、「ラ・ラ・ランド」で受賞済みでそのときの音楽と比べるとやや落ちるか。

衣装デザイン賞

メアリー・ゾフレス『バビロン』
○ルース・E・カーター『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
◎キャサリン・マーティン『エルヴィス』
シャーリー・クラタ『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
ジェニー・ビーヴァン『ミセス・ハリス、パリへ行く』

ここはキング・オブ・ロックンロール、エルヴィス・プレスリーの衣装で「エルヴィス」のキャサリン・マーティンが受賞するのではないか。
対抗は「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」のルース・E・カーター。

メイク・ヘアスタイリング賞

『西部戦線異状なし』
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
○『エルヴィス』
◎『ザ・ホエール』

ここはブレンダン・フレイザーを大巨漢に変身させた「ザ・ホエール」に受賞の目があるのではないでしょうか。
対抗は作品の力も考慮して「エルヴィス」に。

国際長編映画賞

◎『西部戦線異状なし』(ドイツ)
『アルゼンチン1985 ~歴史を変えた裁判~』(アルゼンチン)
『CLOSE/クロース』(ベルギー)
『EO イーオー』(ポーランド)
『ザ・クワイエット・ガール(原題) / The Quiet Girl』(アイルランド)

ここは候補作の中で唯一作品賞他他部門でノミネートされている「西部戦線異状なし」が順当に受賞するでしょう。
ここを受賞できないようでは作品賞うんぬんが議論できませんからね。

短編実写映画賞

『アイリッシュ・グッバイ』
『イヴァル(原題) / Ivalu』
◎『無垢の瞳』
『真冬のトラム運転手』
○『ザ・レッド・スーツケース(原題) / The Red Suitcase』

家族モノ2つ、人種差別問題2つ、そして少女たちを主人公に据えた作品という構成で、本命はその少女たちが主人公の『無垢の瞳』。他の作品と比較して特徴が出やすいでしょうしアルフォンソ・キュアロンがプロデュースにディズニーのプッシュがあれば受賞も十分考えられます。
対抗は人種問題を描いた「ザ・レッド・スーツケース」。

長編アニメ映画賞

◎『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』
『マーセル・ザ・シェル・ウィズ・シュー・オン(原題) / Marcel the Shell With Shoes On』
『ジェイコブと海の怪物』
『長ぐつをはいたネコと9つの命』
○『私ときどきレッサーパンダ』

ここは本命の「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」でしょう。
誰もが知っている普及の名作にギレルモ・デル・トロ監督らしいダークな要素も追加されていて、子どもだけでなく大人も楽しめる作品になっていました。
対抗としては「私ときどきレッサーパンダ」か。安定のディズニー/ピクサー作品ではありますが、ただ過去の受賞作と比べると見劣りもするのでここは本命で揺るがないか。

短編アニメ映画賞

▲『ぼく モグラ キツネ 馬』
『ザ・フライング・セーラー(原題) / The Flying Sailor』
◎『氷を売る親子』
『マイ・イヤー・オブ・ディックス(原題) / My Year of Dicks』
○『アン・オストリッチ・トールド・ミー・ザ・ワールド・イズ・フェイク・アンド・アイ・シンク・アイ・ビリーブ・イット(原題) / An Ostrich Told Me the World Is Fake and I Think I Believe It』

候補作は「氷を売る親子」以外はWebで鑑賞できたので見てみましたが、本命はあえてトレイラーしか見れていない「氷を売る親子」で。
優しいタッチの絵柄と親子愛という普遍的なテーマが評価されると考えました。
対抗は「アン・オストリッチ・トールド・ミー・ザ・ワールド・イズ・フェイク・アンド・アイ・シンク・アイ・ビリーブ・イット」。自分たちがクレイアニメのキャラクターであると知った男の運命やいかに?といった作品で創造性だけならこちらが上かも。ただ実写も混合なのでそのあたりがアニメ映画としての評価にどう影響するか。
3番手は「ぼく モグラ キツネ 馬」。人気の絵本が原作でそれを忠実にアニメ化しているというところが評価されれば。

長編ドキュメンタリー賞

『オール・ザット・ブリーズ』
◎『オール・ザ・ビューティー・アンド・ザ・ブラッドシェッド(原題) / All the Beauty and the Bloodshed』
▲『ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦』
『ア・ハウス・メイド・オブ・スプリンターズ(英題)/ A House Made of Splinters』
○『ナワリヌイ』

本命は、「オール・ザ・ビューティー・アンド・ザ・ブラッドシェッド」。写真家ナン・ゴールディンが自身も大きく関わることになった薬害訴訟問題を捉え、さらにその企業はグッゲンハイム美術館やメトロポリタン美術館への支援も行っているという、薬害訴訟、芸術の保護などの視点が含まれる点が評価のポイントで、ヴェネチア映画祭でも受賞した勢いそのままにオスカーもということは大いに考えられます。
対抗は、「ナワリヌイ」。プーチン大統領の対抗候補と言われたナワリヌイの暗殺未遂事件を描く衝撃作で前哨戦の成績ならばこちらに分があるかもしれませんが、このタイミングでロシアを刺激するような作品に評価が行くのかは微妙なところ。その配慮がなされると前者のほうが受賞可能性が高そうです。
3番手は「ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦」。火山の調査・研究にすべてを捧げた夫婦を追ったドキュメンタリーで、こだわりの強い、癖の強い人物を捉えた作品は評価されやすそうな気がします。

短編ドキュメンタリー賞

◎『エレファント・ウィスパラー:聖なる象との絆』
『ホールアウト(原題) / Haulout』
○『ハウ・ドゥ・ユー・メジャー・ア・イヤー?(原題) / How Do You Measure a Year?』
『マーサ・ミッチェル -誰も信じなかった告発-』
『ストレンジャー・アット・ザ・ゲート(原題) / Stranger at the Gate』

前哨戦成績を考えると「エレファント・ウィスパラー:聖なる象との絆」がリードか。対抗は「ハウ・ドゥ・ユー・メジャー・ア・イヤー?」。監督が自身の娘の17年間に密着したという点は評価されそう。

ということで全部門予想でした。
このとおりであれば、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」が作品賞、編集賞、助演男優賞の3部門、「エルヴィス」が主演男優賞、撮影賞、衣装デザイン賞の3部門、「TAR/ター」が監督賞、主演女優賞の2部門、「西部戦線異状なし」が作曲賞、国際長編映画賞の2部門と分け合う感じになりそうなのは良いかもしれませんね。

個人的には「イニシェリン島の精霊」も素晴らしい作品でしたので、これが総なめしたとしてもおかしくないとは思っているのですが。

13日の発表を楽しみに待ちましょう!

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