『痴人の愛』を読み終えて

『痴人の愛』
谷崎潤一郎

@性的誘惑と堕落

 Fの著書『いつか別れる。でもそれは今日ではない』に「谷崎潤一郎を読むともう変態でもいいと思う」と紹介されていたことをきっかけに、その心情が気になり読了。

 主人公譲治は、カフェのウェイトレスをしていた当時15歳のナオミに心を惹かれ、将来的にナオミを嫁にもらう目的のもと自身の手でナオミを育てることにする。最初は内気であったナオミが譲治が英語やダンスをナオミに習わせていく中で徐々に活発になっていき、次第に我も強くなっていく。ナオミの言いなりになっていく譲治。ナオミの奔放な行動をきっかけに、譲治もまた堕落していく。妖艶なナオミとそれに人生規模で翻弄されていく譲治。時の経過と共に移ろいゆく2人の関係性に惹き込まれる一冊。

 夢中になって読んだ。譲治とナオミの関係性の変遷が的確に記されていた。どんどんと我儘を極める恩知らずなナオミに対する嫌悪感を沸いても不思議ではないのに、譲治と同様に私もまた嫌悪感以上に、ナオミのその憎らしさを追いかけてしまう感覚に大変共感できた。結局自分の手に負えない異性というのはとてつもなく魅力的な存在である。そんな相手に冷淡に接され、思わぬ嘘をつかれ、にも関わらず時に甘い顔をされる。こんな苦しみ知ってるような知らないような?相手の容姿に惚れ込んでしまえばそれに屈するしかないのが私の悲しみ(男の悲しみであって欲しいとも思う。もしかしたら人間それ自体の。)また相手の要求に屈すればそれがデフォルトと化すことの恐ろしさを感じずにはいられない作品でもあった。

 以上のことを踏まえて、他人には惜しまず出し尽くすよりも、どこか相手方が届かない、手の内に収めきれない要素を多分に含んだ人間であることもまた他者から見た自分の魅力を引き立てるものになるのかもしれないと思った。

 そして、Fのいう「もう変態でもいい」という感想にも大変共感した。

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