【読書日記】世俗の世界から離れなかった小林一茶が好きだ
『小林一茶を読む』は一茶の俳句を、彼の生涯と共に紹介していく本です。一茶の本は結構読んで、彼の俳句はよく知っているつもりでしたが、ここで初めて読むものも多かったです。後書きによると、2万千句程度詠んだそうで、その多さに圧倒されます。
この本には、俗語を使った句が多く出てきます。俳句は言葉の芸術で俗の世界とは無縁のようにも感じます。でも一茶自身はそんなことは気にしなかったようで、俗っぽい作品も多いです。とは言え、詩情はみなぎっていて、印象に残ります。
俗の世界から離れずに、詩の世界を求め続けた一茶の生き方に共感します。芸術も人間が作り出すものなので、世俗的なものと無縁というわけにはいきません。詩人の中には向こう側の世界へ行ってしまう人もいますが、私は一茶のように地べたを這うように生きた人が好きです。
地車におっぴしがれし菫かな (60ページ)
この句では、おっぴしがれしという俗語が使われています。押し潰されたという意味ですが、おっぴしがれしと書くと滑稽味があります。二輪車に押し潰された菫だなあ、というある意味で平凡な句ですが、印象に残ります。滑稽味ともに、そんな無残なものに目をとめる優しさも感じます。
ふんどしに笛つっさして星迎
ここではつっさしてという俗語が使われています。星迎とは七夕のことです。江戸時代ののどかな夏の情景が目に浮かぶようです。ここに描かれた人は一茶自身かもしれません。
たのもしやてんつるてんの初袷
この本の中では、子供のことを書いた俳句が一番心に残りました。50歳を過ぎて結婚して、子供も生まれて幸せな日々だったのですが、全員病気で亡くしてしまいます。妻も失いました。
この句で書かれているのは、一茶の初めての子供千太郎です。袷の服からはみ出すぐらい体格の良い子供でした。この句からは子供に対する強い愛情を感じます。言い換えれば、親ばかの俳句です。
俗語をよく使うことと、親ばかになることはどこかでつながっています。自分の子供が可愛くてたまらないのは自然な感情で、それを俳句にするのをためらわないのが一茶の良さではないか、と思います。
これほど可愛く思った千太郎も生まれて一か月ほどで死んでしまいます。耐えがたい悲しみだったでしょう。
世俗の世界はきれいなものとは言えません。でも、人間はそこで生きていかなければなりません。一茶の俳句はこの世で生き抜く力を与えてくれます。
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