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追憶

アン・ブロンテ

そうです、あなたは逝ってしまい、
あの温かい笑顔が私を喜ばせることはありません
それでも古い教会のドアを通り、
あなたが眠っている床の上に足を運ぶことはできます

冷たく湿った石の上に立って
静かに眠るあなたを想うこともできます
あなたは、私の知っている誰よりも明るくて親切な人でした

あなたともう会うことはできないですが、
あなたに会えたことは慰めです
あなたの人生は終わってしまいましたが、
あなたが生きていたことを想うと優しい気持ちになれます

神様のように気高くて、人間なのに天使のように美しい人に、
心がつながっていたことは、
私のようにつまらない者を喜ばせます

ブロンテ三姉妹の三女アン・ブロンテの詩です。日本ではあまり知られていませんが、アンも素晴らしい文学者でした。二人のお姉さんたちにくらべて、細やかで繊細な作品を残しています。私は彼女の『アグネス・グレイ』を読んだのですが、家庭教師として自立して生きようとする主人公の気高い生き方を、美しい文章で描いた忘れがたい作品でした。

ここに載せた詩は彼女の詩の中でおそらく一番有名なものです。ブロンテ姉妹はすぐれた詩人でもあり、良い詩をたくさん残しています。三人とも小説家よりも詩人になりたかったそうです。悲しい詩ですが、胸に迫るものがあります。亡くなっても、その人との絆は途切れるわけではありません。死によってかえって、絆が深まることもあるでしょう。そんな心の機微を表現した詩です。元の詩は韻を踏んだ格調高いものなのですが、その香気を訳すことはできませんでした。(この訳詞は以前他のSNSにアップしたものを訂正したものです)


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