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病気VS笑い②

 「頼まれたので、来ました〜」
担当医師が「医院長に頼まれたので」診に来たようだ。

いつかに見た覚えがあるなと思ったら!!

この医師は私の大好きな祖父が亡くなる前日、もう意識がない状態の祖父を診た直後
「明日は美容室だから、その時に連絡が来たら困るなぁ」と言った天才的失言医師だった。

またこの人か…
そう思ったがなぜかそれ以来、彼は現れず担当は他の医師となった。

 医療のプロとは言え、人間は人間。
看護師も様々な人がいた。

最初の数日の日中を担当してくれた看護師は話好きな人だった。

「休みの日は、だいたい読書してるかなぁ〜」

!!!‥読書!共通の話題到来!
これは話が盛り上がるチャンス!入院生活が楽しくなるチャンス!

まだ息苦しかったが、力のない声で私は聞いてみた。
「どんな本読むんですか?」

「これ、言ってもいいのかなぁ‥(笑)
BLが好きなんだよね〜。BL漫画ばっかり読んでる」

そうだった。
 
読書といってもジャンルがとてつもなく幅広い事を忘れてはならない!!

幸いにも、病人で表情が乏しくなっているだろうから「やっちまった…」みたいな顔はしていないだろうけど、心の中ではかなり動揺していた。
 
この看護師さんは、時に優しく、時に厳しく、時にサボった。
 担当の看護師は朝ご飯の片付けの後に、私のいる部屋を掃除するのだが、入院から数日彼女の担当で驚いた事がある。

いつもは棚や食事のテーブルをさ〜っと、本当に撫でるようにささ〜っと消毒するだけですぐに去って行くのだが、その日は違った。

1度、病室を出て行った彼女が何かを手に戻ってきた。

「いいものがあったぁ〜♪」
と持ってきたのは、トイレ周りを掃除する使い捨てのシートだった。
「時々これでトイレを掃除しておいてね。元気になってきたみたいだし。」

私は個室なので、部屋にバスルームがあり、ビジネスホテルのようにバスタブとトイレが並んでいる。

彼女はフフッとご機嫌に笑いながら言って、去って行ったが、私には疑問が2つある。

まず第一に、自覚症状的にはまだ決して元気ではない。
少し会話ができただけで、酸素濃度は低いし苦しい、立ち上がるだけでふらふらとしている。食事も2口目で限界だ。

第二の疑問は、入院患者が掃除するのは通常のことなのかどうかだった。
初めての入院なので、全くわからない。
え?そういうものなの?
癌とか大病の人たちを見ているから、それに比べたら元気に見えてしまうだけなのだろうか。
コロナ患者だからなの?個室だから?
誰かに正解を教えて欲しかった。

体がしんどいと気持ちにも元気がない。
まだそんな元気ないです〜、という気力さえなかった。

しかし、わかってしまった!
次の日から、担当が変わったからだ。

とてもきびきびとした女性で、防護服とマスクの間から唯一見える目元からは力強い優しさが滲み出ている。あ〜、安心感。

彼女は部屋の隅々までモップをかけ、拭き掃除をして、消毒をして、換気もしてくれた。
もちろんトイレもだ!

そして次の担当の人も同じルーティンだった。
…もしや、これが通常だな?
そうか、やっぱり!!

もちろん、その後に別の看護師になった際にもルーティンは同じだった。

最初のあの人は、オリジナルルーティンにしていたのだ。
すごい、強い…マイペース…

もはやその堂々とゆったり、怠そうに、面倒くさそうに働く彼女にある種の頼もしさまで感じる。

私も日常に戻って仕事に復帰したなら、あのくらい堂々としていたい、そう思って少し笑った。
戻れるような気がして、窓の外を見ると途端に涙が溢れた。

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