「小脳性運動失調のリハビリテーション医療 ―体幹・下肢について―」まとめ

小脳性運動失調のリハビリテーション医療―体幹・下肢について―
著者:安東 範明
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 2019年56巻2号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/56/2/56_56.101/_pdf/-char/ja

要旨

小脳性運動失調を呈する代表的な神経変性疾患は脊髄小脳変性症である.理学療法は疾患 の初期から開始し,歩行がいまだ自立している軽症の時期,歩行が不安定になり移動に介助 を要する中等度障害の時期,転倒の危険が大きくなり全身の機能障害が進んだ重度の時期 と,ステージに応じて必要な訓練を選択して行う.エングラムの形成のため反復訓練を行う が,目標とする運動行為が達成困難な場合は部分法をとる.運動失調性歩行の改善に重錘負 荷は効果がある.歩行解析を手法として個々の症例に適切な重錘負荷を求め,さらに靴底の 形状を工夫した靴型装具の開発の試みについて紹介する.また,標準的と考える靴型装具の 形状についても紹介する



SCD に共通する徴候とその特徴

・小脳性運動失調
①四肢の測定異常と動揺
②2関節運動時の動作の分解
③ 運動パターンの切り替えの遅延
④姿勢保持困難など
発症初期から歩行障害,失調性歩行がみられ,歩行関連動作である立ち上が り,歩行中の方向転換,階段の昇降,座る動作なども不安定になる.
進行に伴い壁や手すり,あるい は杖や歩行器などの支持補助具や人による介助が 必要となる
転倒を予防するために患者がとる安全手段としての歩隔の拡大(widebased),歩幅の短縮(short step),遊脚期の顕著な短縮,足底接地期の延長である.また,歩行に合わせた上肢の振りも減少する.方向転換は困難となる.
歩行中の各種の指標は安定せず変動が大きい特徴がある.


小脳性運動失調に対する理学療法

歩行が自立している軽症の時期に行うべき理学療法
・フレンケル体操
・固有受容性神経筋促通手技(PNF)
・弾性緊縛帯
・重錘負荷
・筋力増強訓練

フレンケル体操

障害部位の代償のため感覚系の残存部位を利用するアプロー チで,視覚のフィードバックと運動学習を基本としている.視覚を用いて代償的にフィードバック能力を高め,協調性を改善しようとする.運動に集中し,繰り返しの訓練によって正常パターンに近づけていく.

PNF,弾性緊縛帯,重錘負荷

感覚入力を増強することで運動を矯正するアプローチ

歩行の不安定性が増し,上肢の巧緻性が損なわれ,移動に介助を有する中等度障害の時期に行うべき理学療法

・仰臥位,腹臥位から座位,膝立ち,立位歩行までの運動発達順序に従った姿勢,移動動作の反復訓練
・四つ這いバランス,立位バランス,片脚立位バラ ンスなどの維持,改善
・ADL を主目的とした上肢 の協調性,巧緻動作の促通
・筋力増加と筋緊張不均衡の改善
・運動動作パターンの再学習(視覚, 体性感覚の利用)

転倒の可能性が強くなり,上肢のADLも低下し,構音障害,嚥下障害が進んだ重度障害の時期に行うべき理学療法

・座位保持や下肢の支持力増強など
・主として介護者の介助量軽減を意図した運動機能維持
・他動運動による二次的合併症の予防
・手すり,風呂場の改善,階段の滑り止めなどの自宅の環境整備や自助具の検討

運動制御に影響する因子

①感覚入力の増強
②運動出力のコントロール
③運動学習
④覚醒状態
感覚入力の増強としては,重量負荷や,深部覚の増強を介して体幹から下肢の筋群の促通を図ることが有効と考えられる.
運動出力のコントロールとしては,重錘負荷や弾性緊縛帯が効果的と考えられる.


反復練習による運動学習

運動学習を意識して機能訓練を行うことが重要そのためには,個々の患者の能力を見極め,フィードバック機構によって短期学習効果が得られたと判断した訓練を長期的に根気よく行う.これによるフィードフォワード機構による再構築, すなわちエングラムの形成を図ることが大切

ポイント

・目的とする運動行為が訓練できない場合,いくつかの要素に分けて訓練し,各要素が達成された後にそれらを統合していく。例えば,歩行訓練が困難なとき,立位での平衡維持,下肢の歩行パターン,体重 移動の各要素を統合して歩行訓練に移行していく.
・日本神経学会の「脊髄小脳変性症・多系統萎縮 症診療ガイドラインによれば,小脳失調を主体とする脊髄小脳変性症に対して,バランスや歩行に対する理学療法を集中的に行うと,小脳失調や歩行が改善する(グレード 1B)
・そして,この集中的リハビリテーション治療の効果 について,4週間の短期集中的リハビリテーション治療による運動失調の有意な改善効果は12週間後まで持続していたことが報告されている
・すなわち,集中的なリハビリテーション治療によって長期的な進行予防につながる可能性が示唆され ている.


下肢末端へ重量負荷することで失調性歩行が改善するその機序として考えられること

・下肢への患者の集中力増加
・主動筋と拮抗筋の緊張が増加し、GIaのインパルスの発射頻度が高まる
・感覚入力・覚醒入力の増強とともに,重量による運動出力制限の効果
適切な下肢末端への重量負荷は歩行が自立している時期は800g
日常での長時間の使用で「重すぎる」と感じたり,使用後の筋肉痛を生じたりする場合は調整する

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