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義母ヴィヴィアン・ウエストウッドに勧められて、イギリス英語の発音を身につけるべく家庭教師をつけたてみたら

私の義母、ヴィヴィアン・ウエストウッドはイギリス人にしては珍しくとてもド直球な人だった。本人は天真爛漫という言葉がとてもお似合いなくらいの人だったので悪気もなく思ったことを口にして周りがドン引きすることもよくあったものだ。
息子が産まれてしばらくの間、たびたび私に、というか、息子に会いに来てくれていたのだが、電話口でどこにいるかを教えようとしている時に「あなた、何て言ってるか全然分からないわよ。私があなたなら英語の学校に行くけどどうなってるの?」と言われたことがあった。ちなみに、「忙しい」が口癖なくらい超多忙な義母がそこまでの時間を私と息子に割いてくれていたのは今思えば奇跡だ。

自分で言うのもなんだが、私は英語の発音には自信を持って生きてきたところがある。と言うのも、10歳上の英検1級、TOEICほぼ満点を持つ英語の翻訳通訳者の従姉妹が、私が高校生の頃英語の教科書読みを何度も一緒にしてくれ、発音矯正読み矯正をよくしてくれていたからだ。しかし現代の日本人が学校で学ぶ英語と言えばアメリカ英語。アメリカ英語はRの下巻きやTを発音しなかったり、トーンのアップダウンをアメリカ人っぽくうまくやれば、確かに立派な英語に聞こえる英語だと今になってみれば思う。イギリス英語はRで舌を巻かないし、基本的に一語一語漏れなく立派に発音する。そしてトーンは一定だが文章の終わり頃に上げに入ったりと、全く違うのだ。不思議なもので、イギリス英語に慣れると、書き起こししやすいほど綺麗に縦切り発音してくれるので、こもったように感じるアメリカ英語が聞き辛く感じることもある。

とにかく、アメリカ英語を学んできた私がイギリス英語を身につけなければ義母に言葉を理解してもらえないのだ。そこで当時早速gumtreeという広告サイトで見つけた英語の発音矯正の先生に自宅に来てもらった。来てもらってすぐ、何だこの違和感は?発音がイギリス英語と違う。そこで先生の出身を聞いてみたら何とスコットランドだった。スコットランド、ウェールズ、北アイルランドは英国に属するが、日本にも方言があるようにそれぞれ全然異なるアクセントを持つ。スコットランドのグラスゴーの発音は非常に聞き取りにくく、博多弁の私が津軽弁の人と会話をするような感じだと思ってもらえるといい。この話を義母の会社で働く義母に近しい人に話したら、「私とあなたが立派に会話ができるのに何でヴィヴィアンが分からないのかって。だって彼女耳が遠いじゃない。電話は私たちイギリス人でも至難の業よ」と大笑いされた。

それから年月が経ち、私の日本訛りのイギリス英語もマシになってきただろうと自信回復し出したロックダウン中に、次のド直球が私に投下された。「あなた本当に英語が上手くならないわね。」そこで次なる英語の発音矯正の先生をこれまたgumtreeで見つけることになった。そしてその先生は私にとってのゲームチェンジャーとなった。イングランドのグロースター出身の医者家系に育ったその先生は、イギリスで言うところのポッシュな(上流階級的な、気取った)アクセントを持つ先生で、日本や中国に住んだ期間があったため東アジア圏の人たちの癖に特化して発音矯正できる先生だったのだ。割高ではあったが、その先生から教わるレッスンは毎回目から鱗で、発音について気づいていない事がこんなにあったのかと思い知らされた。例えば人の苗字にGriffithsというのがある。カタカナで読むならグリフィスだろうが、カタカナではスの一文字で済ませるところを、イギリス英語読みはthもsも全部発音する。 adapt, adopt はカタカナで読むなら両方アダプトだが、単語の真ん中にあるaとoの発音が違って意味も全然違ってくる。home はカタカナではホームだが、実際はどちらかと言えばホウムだ。イギリス人が当たり前に発音していることを私は全くできていなかったのだと気付かされた。

結婚してWestwoodという苗字になった私は、無論ウエストウッドと発音していたのだが、自分の苗字くらいは正しく発音しろよと結婚後すぐ夫に発音矯正された。Wの発音が日本語にはないのでそこを何度も練習させられた。

ロンドンには英語を第一言語としない人たちがたくさん住んでいる。色んな国から来た人たちが自国の発声法で英語を発音する。耳慣れしないと聞き取りにくい英語も未だによくある。
義母は15歳の時にロンドンに家族で越したのに、生まれ故郷のイングランド北部ダービーのアクセントのままだった。夫はロンドンに住んでいる人たちも今ではなかなか聞けないとよく言われるロンドンのアクセントを持つ。発音矯正後の家族揃ってのクリスマスで、義母の弟に「お!英語が見違えるほど上手になったな。」と言われた。義母はすかさず「そうよ、ともかは発音矯正頑張ったんだから」と嬉しそうに言っていた。その時既に渡英10年が経っていたというのに、今さら英語の発音をどーのこーの言われて私は恥ずかしかったのだが、義母は私より嬉しそうで自慢気であった。

※写真は息子を産んで数時間で義母が自転車で駆けつけて来てくれた時の写真。

イギリスで仕事をする時、英語の発音が出世の道に繋がるまたは妨げると言われるくらいなので、もしどなたか発音矯正されたい場合は私の先生を紹介しますよー。
ただのお節介でステマじゃないですよー。

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