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2階で降りていく人も大らかに送り出したい

普段の生活の中で「この世界がもっと優しくなればいいのに」と思いながら暮らしている。僕だって誰かを悪く思ったり、この世にとってマイナスのオーラを放つ時もあるけれど世界の幸せの総量は多いほうが良いに決まってる。

この前、商店街を友人と歩いていると「広がって歩くな!」と後ろからおじさんが怒鳴りつけてきた。咄嗟に「ごめんなさい、すんません~」と謝って端に寄った。ただ僕たちは初めの時点で結構端の方を歩いていた。おじさんは奥さんと思われる人と二人で歩いていたのだけど、僕らを追い抜いたおじさんたちは僕たちの3倍くらい広がって歩いていた。一瞬「なんでやねん!」と土埃かぶった関西の血が騒ぎだしたが、指揮者のように両手をグーにして掲げて黙らせた。

おじさん達はおじさん達の考えがあり、そしておそらく彼らには何か嫌なことが直前に起きたのだろう。大好きなアーティストの解散ライブのチケットが当たらなかったとか、自販機で違う飲料が出てきたとか、何かしらの嫌なことがきっと。
こうやって大らかに過ごすことでこの世界はゆっくり優しくなっていく。

海外に出てみたらもっとひどいことが多い。壊れていない靴を指さし、「壊れているから直すよ」と訳わかんないことを言われたり、歩いている人のスマートフォンを単車に乗りながら奪い去ろうとされたこともある。ちょっと進めば犯罪の類だがそれも優しさで包むように努めてみる。世界を優しくするためにこれからも海外を見に行こうと思う。


自動ドアが僕を待っていたかのように丁寧に開く。5年も通っているバイト先とはいえ、8台もエレベーターがあるエレベーターホールはまだ自分の肌に馴染んでない。エレベーターに乗り込み、自分の行先の階を押すと隣の人が手を伸ばして2階のボタンを押した。分かってる、みんなが言いたいことは分かってる。
「階段の方が最早、早いよ。」分かってる、高く上げた両手をグーにする。
未だプライベートを知らない自動音声で2階に着いたことに気づく。僕はいつも以上の優しい指先で開くボタンを押し続けた。

2階で降りていく人も大らかに送り出したい。

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