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うつし世の乱歩

読了。

10代の頃に乱歩にハマり。その妖しい世界に大変に魅せられたものでした。

しかし現世に在りしご本人、平井太郎(本名)氏の写真をみると、毛のない普通のおじさまであったことに違和感をおぼえたものです。几帳面で事務的なことが好き、町内会の副会長を務めるなど、猟奇的な作品とはかけ離れたまっとうさ。

10代の頃はそれが理解できなかったけれど、いい歳になった今となっては、人ってそんなものかもな、と納得したりも致します。

たとえば町田康氏なんかも、あんなけったいな小説を朝っぱらから書いていると知った時(当時私は20代)は仰天したけれど、最近はお酒も止めて、めっちゃクリーン。

とんでもない作品を生みだすひとのなかには、ライフスタイルもとんでもないひともいるけれど、そういうタイプは大抵早めに死んでしまう。生き残り、長く活動するのは、生物学的な摂理に背いていては難しいのでしょう。

しかし猟奇やらに惹かれる性癖を持つひとというのは一定数いるわけで、現世では行動にうつさずとも、空想世界でそこに遊ぶこととなります。私にとっては、そんな遊び場を提供してくれたのが乱歩であったり、夢野久作であったり、大きく飛躍するけどドラマ『クリミナル・マインド』もそのひとつ。

乱歩のデビューした大正時代というのは、日清、日露戦争、第一次世界大戦で勝利を挙げたかと思えば、恐慌や関東大震災、スペイン風邪の流行など不安もあり、退廃の空気が流れた時代。当時のそんな空気感が好きで、『鬼滅の刃』を読んだときも、端々から大正愛を感じ、好感を持ったのでした。

乱歩のいちばんの自信作は『押絵と旅する男』(昭和4年)であったそう。この作品にはグロさはなくて、いくつものからくりが不思議な夢のような短編。エグいのは同好の士にしか薦められないけれど、これは多くの人に、なんなら自分の子にも読んでもらいたい傑作で御座います。

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