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やっくんにもらったMP-1

あまり車には興味のない方でも、アルファードやフリードやセレナなんていう名前は、テレビCMなどで耳にして、なんとなく馴染みがあるのではないのでしょうか。

いわゆるミニバンという車種です。1990年代にホンダがステップワゴンとオデッセイという車を大ヒットさせたことから火が点き、今となってはファミリーカーの半数以上のシェアを占めています。

しかしここで自分が書きたいのは、アルファードのことでもステップワゴンのことでもありません。ステップバンのことでもありませんが、ステップバンはある意味では近いかもしれません。

ステップバンというのはホンダステップバンという車のことでして、簡単にいえば軽トールワゴンの祖先みたいな感じです。ワゴンRやムーブが出てくるよりも20年くらい発売されたものの1代かぎりで生産を終えてしまった、出てくるのが早すぎて時代が追いついていなかった車。しかし、そのステップバンのことを書きたいわけではありません。

トヨタMP-1についてです。

MP-1とはMulti Purpose(多目的)-1の略で、1975年の東京モーターショーに出展されたものの、一般に販売されることはありませんでした。


トヨタ自動車の公式ページに当時の写真が載っています。 

古い写真なのでぼやけていますが、屋根を高めに取って居住空間を広くして、この時代に後部座席にスライドドアを採用して車椅子での乗降を想定、座席を回転させたり車内で移動できる機構があったりと、まさに現在のミニバンの先駆者といえる。

でありながら、実際にトヨタがミニバンを発売したのは1990年代に入ってからで、その頃にはライバル社の日産や三菱に先を越されてしまっていました。モーターショー開催時の10日間ほどしか衆目に触れることがなかったMP-1は、時代の向こうに忘れ去られた幻の車に。

なぜ自分がそんなマニアックな車を知っているかというと、そんな幻の車でありながらトミカが発売されており、さらにそのMP-1のトミカを、裏のアパートに住んでいたやっくんがくれたからです。

今でも電器屋さんのおもちゃコーナーで幼年男子の心を掴んで離さない、日本で最もメジャーなミニカーブランドであるトミカですが、かつてはやっくんも自分も、トミカが大好きなお子様でした。

ダンプカーに本物の砂を積ませたり、セルシオをシャコタン仕様にしようとしてタイヤを埋め込ませたり(昔のトミカは車軸がけっこう脆かった)、救急車仕様のハイエースを乗用車仕様にしたくてパトランプをもぎ取ろうとしたり(当時のトミカには乗用車のワゴンがほとんどなかった)していた自分とは違い、やっくんはただただ、並べたり手で軽く走らせたりする、実におしとやかな遊び方をしていました。

ていうか、それが本来の遊び方ですね。

ひとりで黙々とコンビニ前の歩道乗り上げ駐車の再現とかをやる未就学児のほうが歪んでいる。……トミカのカタログの写真に路駐がいっさい見られなかったのが、リアリティに欠けていて子供心にイヤだったのです。

今ではそんな余計なリアリティにこだわる昔の自分に対して、おもちゃの世界のことなんだからもうちょっと夢見とけよと大人心から言いたい。

いかに自分が幼少時に間違ったトミカの遊び方をしていたかについてはそれくらいにして話を戻すと、やっくんはどういうわけか、古いトミカをやたらとたくさん持っていました。

自分が住んていたところもそうでしたが、やっくんのアパートはお世辞にも広いとはいえなかったので、1台1台は手のひらサイズとはいえ、コレクションがどんどん増えていったら収納が大変なんじゃなかろうか……。

とまで当時は考えていなかったかもしれませんが、いっぱい持っていていいなあ……と指を咥えてはいたと思います。自分はハナクソを食べたことはありませんが、鉛筆と親指の爪はよく舐めて味わっていたので、確実に咥えてはいたはずです。

しばらくして、やっくんは引っ越すことになりました。どういうふうに別れたか、引っ越した日に見送ったのかすらも忘れましたが、そのちょっと前にくれたトミカが、トヨタMP-1でした。

見たことのない車で物珍しかったので、それはそれは気に入りました。

フロントガラスがなぜか緑色で、リアリティにこだわる自分としては本来は好みではなかったはずですが、その非現実っぽさもなんかMP-1に関しては許せました。恐竜運搬トラックとか水族館運搬トラックは許せなかったのに。

トミカのMP-1は1980年に絶版となっており、当時の時点で10年くらい昔のおもちゃをなぜやっくんが持っていたのかは、今となっては謎。

その後のやっくんがトミカコレクターになって森永卓郎さんみたいなガチな収集家になったのか、大抵の男児がそうであるように小学校に上がったあたりでトミカから離れてゲーム機やトレーディングカードで遊ぶようになったのか、それも全くわかりません。

彼と再会することはほとんど不可能でしょうが、本物のMP-1は見てみたいなあ。実はこっそりトヨタ博物館に保管されていたりしませんかね。

サウナはたのしい。