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ゴロワーズを吸ったことがある

またもやタバコが値上げをするそうですが、どうやら今回はアイコスなどの一部の加熱式タバコのみで、従来の紙巻きのタバコには適応されないようですね。

自分はもう生涯タバコは吸わないと決めているし、そもそも煙をプカプカと吹かす行為が好きだったので、もし今でも喫煙者だったとしても加熱式タバコには手を出していないと思いますが、タバコからばかり税金をたんまり取るというのもどうかなあという気にはなります。

かといってタバコの値段を据え置きにしたら、今度は酒税を上げられそうで、それはそれで困るのですが。

20代前半から半ばにかけては、自分も毎日のように1箱のタバコを消費する、立派なスモーカーでした。

もともとは興味がなく、むしろあんな煙たくて灰にしかならんものを口に含んで何が楽しいのか、全く理解できませんでした。

が、大学生の頃にバイトしていたコンビニで、銘柄を覚えたりレジを打ったりしている最中に、こんなにも多くの人が買って嗜んでいるのなら、もしかしたら本当は良いものなのかもしれない……と、ふと気の迷いが生じて、帰りにマイルドセブン(現在のメビウス)の3ミリを買って帰ったのが、自分のタバコデビュー。

最初は火の点け方すらよくわからず、口に咥えた後にどうしていいのかもよくわかりませんでしたが、試行錯誤を経て、なんとなくタバコの味のようなものがわかるようになってきました。

キャスターは甘くてバニラっぽい。キャビンは苦味がある。マルボロはなんかガツンと来る。バージニアは激甘。など……(※すべて当時の自分の個人的な解釈であり、現在もそのような味かどうかは知りません)。

バイト先に置いてある銘柄はほとんど吸い、さらには、タバコ屋にしか置いていない銘柄にも手を出すように。

確か280円とかでやたら安かったけど癖があるベーシック、逆にやたら高かったけど長く吸えるアメリカンスピリット(※今は置いてあるコンビニも多いけど、当時はそうでもなかった。現在はJTが国内で製造しているが、当時は輸入タバコだった)、GRAPEVINEというバンドのボーカルの田中さんという人が吸っていると知って真似しようとしたウィンストン(※現在のウィンストンとは別物で、かなり強いタバコだった。GRAPEVINEの『13/0.9』という曲はこのタバコのことを歌っており、タイトルの数字は当時のタール/ニコチンの量)、ヴォーグ(当時はまだ珍しかった細いタイプのタバコ)、……羅列していったらキリがないほどに試しました。

美味いと感じるタバコもあれば、自分には合わないと感じるタバコもありましたが、その中でもトラウマ級に合わなかったのがゴロワーズ。

かまやつひろしさんの曲『ゴロワーズを吸ったことがあるかい』の歌詞には「ジャン・ギャバンがシネマの中ですってるやつさ」「ひと口すえば君はパリまでひとっとび」とあります。 

しかし、実際に自分がひと口すったらまず軽く噎せ、部屋じゅうが煙だらけになり、あまりもの強烈な匂いに思わず窓を全開にしました。

当時のマルボロなんかもかなり匂いがきつかったのですが、その比にならないくらいヤバかった。閉め切った部屋で吸うものではない。

せっかく買ったのだから(しかもけっこう高かった)、ちゃんとひと箱ぶん吸うべきだと、頑張って根性で吸い続けましたが、最後までパリには行けませんでした。

ムッシュさんの嘘つき……などと言う気持ちはありませんが、その後にゴロワーズを買うことはなく、やがて禁煙したので、もうあの強烈な匂いに出会うことはないでしょう。

自分がタバコを辞めた理由はいくつかあるのですが、そのうちのひとつに、「銘柄に個性がなくなった」というものがあります。

先述のキャスターやキャビンはだんだんウィンストンに統一され、昔はアクアとかプライムとか種類が豊富だったマイルドセブンも名前がメビウスに代わってからは全部オプションなんとかという名称になり、昔は独立したブランドだったアイシーンやベヴェルもピアニッシモシリーズになった。

マイナーなタバコというのは言い換えれば売れないタバコでもあるので、どんどん統廃合されていきます。

ゴロワーズはフランス本国では絶大な人気があるらしく、日本での販売も継続されていますが、いつ輸入が断ち切られるかわかりません。

そのうち、国内産になって他のメジャーなブランドの商品のひとつになる可能性もなくはない。昨今の流れから考えると、リニューアルされたら、壁を覆い尽くすようなあのきっつい匂いはなくなりそう。

それはそれで、ちょっと寂しい気もする。ゴロワーズを吸ったことがある身としては……。

「君がたとえそれがすごく小さなことでも 何かにこったり狂ったりしたことがあるかい」

自分はあの時、いろんなタバコを吸うことに狂っていました。

ネット上の有名なネタで、「あなたが吸ったタバコのお金でベンツが買えたんですよ?」と煽るコピペがありますが、実際に自分も、ベンツまでは行かないけど、中古のタントくらいは買えていたかもしれません。

それでも後悔は不思議としていない。パリにひとっとびはできなかったけど、ゴロワーズを吸って確かに楽しかったから。めちゃくちゃ臭かったけど。

「そうさすべてのものがめずらしく 何を見ても何をやってもうれしいのさ」


サウナはたのしい。