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断片的にしかMVが観られなかったあのころ

音楽を聴いたり映画を観たりするのにSpotifyやAmazonプライムなどのサブスクを使うようになって、CDやDVDをレンタルをするということがなくなりました。

月額500円とか1000円でいっぱい楽しめるアプリがあるのならそっちの方がお得で便利だし、1週間以内に返却しなきゃいけないという縛りもないし、完全にストリーミングの方向へと流れていってしまいました。

返却期限のないTSUTAYAディスカスというのも一時期は使っていたのですが、期限がないと今度は返すのを忘れそうで怖い。

もちろん形のあるもので楽しめるレンタルのほうが好きだという人もいると思いますが、自分はそこまでこだわりがなかったというか。

ただ、かっこつけてよくわかんない洋楽のCDをジャケット借りしたワクワク感とか、18歳まで生きないとあのピンクのカーテンの向こうに入れねえのかちくしょう……と地団駄を踏んだ想い出なんかは、レンタルショップならではのものでした。

「レンタルショップのピンクのカーテンの向こう」という表現が自分よりどのくらい下の世代まで通じるのか不明ですが、いちおう注釈すると、つまり大人じゃないと視てはいけない類のDVDが置いてあるコーナーのことです。

詳しくは近所のお兄さんに訊いてみてください。お姉さんには訊かないほうがいいです。お母さんには絶対に訊いてはいけません。

中学生から高校生にかけての頃の毎週土曜日の楽しみといえば、自転車を駆ってTSUTAYA巡りをすることでした。

自宅から5分のところにまず1軒あり、そこから20分ほど漕げばまた1軒、さらに隣の市との境目あたりまで走ってラストの1軒。合計3軒のTSUTAYAを巡る、ということをしていました。

もちろんCDあるいはDVDを借りる目的で行くわけですが、長々と物色するも結局は何も借りずに帰るということもありました。物色している時間が楽しかったんですよね。

あと、アーティストのミュージックビデオ、いわゆるMVが観たいという理由もありました。

今では、大抵の人気アーティストは自身のYouTubeチャンネルを持っていて、新曲が出ればMVを投稿しているので、簡単に鑑賞することができますが、当時は流行っている曲のMVをフルで観るということは困難でした。

DVDで商品化されたものを買うという方法もありましたが、1本が6000~1万円くらいと、中高生には高額なものでした。そして、なぜか音楽系のそういったDVDはレンタルされていなかった。

それだけに、CDショップやTSUTAYAのモニターで流れるアーティストのMVというのはちょっと物珍しいもので、誰の曲のどんな内容でもかっこ良く見えました。

とりわけハマったのが宇多田ヒカルさんの『SAKURAドロップス』。

おそらく当時の最先端のCG技術を詰め込んだであろう凄い映像(語彙力)でして、特に宇多田さんのファンというわけではなかった自分も、この神秘性には圧倒されました。どういう世界を描いた映像なのかさっぱり掴めない。こんなの初めて観た。

いつかフルで観たい。あの目玉みたいなものの正体はなんなのか。なぜあの人たちは不思議な赤い衣装をまとっているのか。


それから長い長い年月が過ぎ、本当は14歳でありながら世を忍ぶ仮の姿では30代になった今、改めてこの曲のMVを観ました。今では思い立ったらすぐにフルで観られる。良い時代だ。

あの目玉みたいなものの正体も、不思議な赤い衣装の人たちが何者かも、改めてよくわかりませんでした。TSUTAYAのモニターで断片的にしか観られなかった頃の謎が解き明かされることはないまま。でもそれでいいような気もするなあ。

こんなに綺麗でオシャレな曲で、当時の時点で宇多田さんは大御所だったのにも関わらず、「秋のドラマ再放送」という庶民的すぎるフレーズがサラッと入っているのが好きです。

サウナはたのしい。