見出し画像

『ART OF LIFE』の思い出

自分が初めて買ったCDはB’zでしたが、その前後くらいには、ヴィジュアル系ブームというものがありました。

GLAYとL’Arc~en~Ciel(ラルクがV系か否かに関して語るとそれだけで1テキストを消費するのでここでは割愛させていただきます)を代表として、LUNA SEAやSOPHIAやPENICILLINがヒット曲を飛ばしまくっていたのです。

他にも、ゴリゴリな中世ヨーロッパの貴族の衣装をまとったMALICE MIZER(マリスミゼル)や、ポップな曲から11分超のプログレ曲まで作るLa’cryma Christi(ラクリマクリスティ)、髪色が赤・青・緑・金とカラフルなFANATIC◇CRISISなどが活躍していました。

その手の化粧をした派手なバンドが、普通にオリコンチャートの上位に入っていて、テレビ番組などで特集されていたのです。

色気づいてJ-POPなんぞを聴き始め、B’zの歌詞は実はエロいことにだんだん気付き始めた中坊が、次はその手のバンドに目覚めることは自然なことでした。

だからヴィジュアル系そのものが好きというよりも、その頃に覚えたロックバンドがたまたまヴィジュアル系だったという感じなのです。『SKET DANCE』のダンテくんみたいに、自分もああいう人になってみたいという願望があるわけでもなく。

今でいえば、米津さんは好きだけどボカロPのシーンにはそんなに興味はない、という感じでしょうか。

もう最近のヴィジュアル系にはとんと疎くて、己龍くらいしかわかんないし、逆に’80年代ジャパニーズメタルに遡ったところの知識もない。

ただ、X JAPANだけは、特別な存在だと思っていました。

その頃にはもう解散していて、hideさんも急逝されて、TOSHIさんは怪しい宗教団体に入って、YOSHIKIさんの印象はドラマーというよりピアニストでした。

だけど、その頃にハマったバンドの人たちのインタビュー記事などを読むと、誰しもが口を揃えて、「X JAPAN(当時はX)には衝撃を受けた」「Xに影響されてバンドを始めた」と言うのです。

とにかく昔めちゃくちゃ売れて、多くのヴィジュアル系バンドにとっての憧れで、もう復活する見込みのない、伝説のロックバンド、X JAPAN。

髪を立てて「『紅』だああああ!」と叫ぶTOSHIさんや、ドラムセットに倒れ込むYOSHIKIさんをリアルタイムで見ていない自分にとって、その存在はほとんど幻に近くて、妙な神秘性すら感じていました。


ふと自分が手に取ったCDケースの背中には、黒地に赤い文字で『アート・オブ・ライフ』と書かれていました。

ケースの表紙には、半分が骸骨で半分がなんかめっちゃくちゃ顔立ちが整った赤髪ロングの人の顔。一度こんなもん見たら忘れられない。


さっそくレンタルして、その夜に歌詞カードを見ました。当時の自分は、CDを再生する前にまず歌詞カードを開いて曲名や歌詞を下調べして、どんな曲なのかを想像してみる、ということをよくやっていたのです。

で、歌詞カードを見て初めてわかったのですが、このCD、『ART OF LIFE』1曲しか入っていないのです。でもこの『ART OF LIFE』、なんと約30分もある大曲で、長文のライナーノーツによると、YOSHIKIさんのそれまでの半生を曲として表現したものだとのこと。うわ、なんか凄そう。

再生してみたら、実際にまあ凄かったです(語彙力)。


そうこうしているうちに中学3年生になり、受験勉強というものをやらざるを得なくなりました。

自分は音楽を聴きながら勉強するタイプだったのですが、この『ART OF LIFE』はほぼ30分なので勉強時間を図るのに便利だったことや、全編が英語なのであまり歌詞に引っ張られることがない、などの利点があり、よく流していました。もちろん曲そのものを気に入っていたのもあります。


しかし、ここで難関だったのが、途中に挟まる長い長いピアノソロ。

30分の大曲ながら、基本的にアップテンポで疾走感があるので、退屈することなく聴けるのですが、しばらく静かになる部分があって、崩壊ぎみのピアノソロと単音のサブピアノが重なるのです。

今でこそ、この部分の美しさと、YOSHIKIさんの描いた混沌を楽しめるのですが、激しくて派手じゃないとロックじゃねえと思っていた青二才にはまだわからなかった。


深夜の0時付近という、ただでさえ眠気が襲ってくる時間帯に、これは拷問である。どうすればいいんだ。答えは簡単である。再生をやめるか、早送りすれば良い。

……のですが、いやあと30分は勉強すると決めたのだからここで途切れさせてはならぬと謎のこだわりを捨てられない自分もいたのです。

まあ結局、寝落ちすることも多かったのですが……。


そしてそれから10年ほどが過ぎて、絶対にあり得ないと思っていたX JAPANの再結成が実現しました。

2011年のサマーソニック大阪会場で、それまで伝説で幻だったX JAPANを観たときは、生きていて良かったと本気で思ったし、自分の半生をYOSHIKIさんと同じくART OF LIFEとか言ってしまうのはおこがまし過ぎるけど、確かに自分は大人になってしまったのだ、とも思いました。

自分にとっての伝説が、伝説じゃなくなった日。

それすらももう、10年前の夏の思い出です。
そして今後も定期的に『ART OF LIFE』が聴きたくなり、ピアノソロの混沌の部分で感動したり、うとうとしたりするのでしょう。

長い曲なので再現も難しいらしく、ほとんどライブで演奏されたことはありませんが、1993年の年末の東京ドームのライブでは披露されており、Spotifyで聴けます。


余談ですが、この東京ドーム公演はDVD化されており、当日の朝にメンバーがリハーサルにやってくるところが収録されているのですが、他のメンバーがみんな高級外車で乗り付ける中、PATAさんだけ普通のタクシーで来ているのが大好きです。

サウナはたのしい。