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ボールペンが合わない

いちおう自分は小学低学年から19歳ごろまで習字教室に通っていて、高校生の頃には我が半生で唯一のトロフィーをいただいたこともある書道有段者だったりします。といっても二段ですので、特段すごいと言えるわけでもないのですが。

とはいえ自分なりにプライド的ななにかもあったりもして、外に手書きの種類を提出するときや、署名するときなどは、できる限り美しい字をもって届けたいという気持ちがあります。

あるのですが、ここで厄介なことがひとつ。

書きにくいボールペンと、書きやすいボールペンがあるのです。他人に言ってもあまり理解されたことがないのですが。どうしても線がヨレてしまうボールペンと、会心の字が書けるボールペンとがあるのです。いや理解されないんだけどあるんだよ本当に。

道を極めし書道家ならば、どんなペンが渡されようとも芸術的な逸品を披露できるのかもしれませんが、あいにくながら自分は、地元のおばあちゃんの教室にただ長いあいだ習っていただけの不束者なので……。おいこら、さっき言っていたプライド的ななにかはどうした。

筆圧が強い自分としては、ゲルインクじゃないと書きづらいのです。そういえば小学校の頃はHBの鉛筆を使うとこれでもかとばかりにボキボキ折りまくっていたし、漫画を描こうとしたときもつけペンのペン先をすぐダメにしちゃうので、せっかく阪急百貨店の画材屋まで行って揃えた用具は仕舞って、近所の文房具屋ですぐに買えるミリペンに替えたんだった。

お気に入りというか、これ以上のボールペンは存在しないと勝手に思っているのは、ぺんてるのエナージェル0.7mmです。エナージェルシリーズには0.3mm・0.5mm・0.7mmの3種類がありますが、最も太い0.7mmこそ志向。これでこそ俺の理想とする字が書ける。

100円ショップによく置いてあるので、見つけたら3~4本は一気に買います。もっとコンビニやドラッグストアにも置いてほしい。

だけど、外で書類や署名を求められるときに渡されるのは、大概がゲルインクじゃない水性のボールペンなんですよね。水性だと書道二段のはずの自分の右手が本領発揮できません。顔が濡れると力が出ないアンパンマンのように、水に弱いのです。銭湯の水風呂は好きだけど。

今日は病院に行きまして、そこで問診票を渡されました。必要事項を記入してくださいと言われました。病院に行ったといっても特に具合が悪いわけでもなんでもなく、先日に受けた健康診断で1箇所だけ引っかかったところがあって、付属の総合病院に紹介状を書くから再検査してくださいとのこと。

ここ10年以上はおかげさまで健康でして、歯医者にしばらく通ったのとたまに皮膚科に行く以外はドクターのお世話になることもなく、自分の診察券で総合病院の中に入ったのなんて、もはや成人してからは初めてなんじゃないか?というくらいで。

どうもその間に文明は発達していたらしく、今は患者さんって名前ではなく番号で呼ばれるんですね。囚人のようだ。

そういえば最近になって薬局がやたら増えたなあとは思っていたけど、現代の総合病院は、お代と引き換えに薬をもらうわけじゃなくて、後で近所の薬局でもらうんですね。

自分はただの再検査なのでなんの薬ももらっていませんが、近くのおじいさんおばあさんの会話でその流れを知りました。

スマホ中毒の自分は普段なら周囲の人々の会話なんぞ拾わないのですが、なんせ待ち時間が長いし院内でスマホを弄って良いものかどうかわからんし(けっこうみんな弄っていたけど)、持ってこようと思っていた文庫本は忘れたし、マックの女子高生の会話からTwitterのネタを探す人のごとく、市井の方々のトークに耳をすましていました。

が、ほとんど病気のことばっかりで特に面白いことはなかった。そりゃそうだが。

どうにも病院にずっと居るのは気が滅入るものだなあと思いながら問診票に書き連ねていきました。僕の苦手な水性のボールペンは、全然いうことをきいてくれず、線がヨレるヨレる。台のないところで立ちながら書いているから余計にヨレる。

ぜんぜん満足できないクオリティのまま問診票を提出することになるのか俺は。エナージェル0.7mmで書きたい。エナージェル0.7mmで書かせろ。……ん?

よく考えたら、いま提げている鞄の中にあるのです、エナージェル0.7mm。仕事上の癖で、自分は常にボールペンを持ち歩いているので。

じゃあそれで書けばいい。受付のお姉さんに問診票と一緒に水性のボールペンを渡されたから、必ずしもそれで書かなければならないという既存の固定観念に囚われていた。もっと自由発想で、やわらかい生き方でいいんだ。

そう思い立つと自分は愛器のエナージェル0.7mmを取り出し、自己肯定感に満ち溢れた右手で渾身の美しい字(自画自賛)が並んだ問診票を完成させ、意気揚々と提出しようとするも、即座に突き返されました。

「2枚めも書いてください」

……え?2枚めもあったの問診票。確かに、めくるともう1枚、小さい紙片が。しかも、いちばん大事な項目だわこれ。

【症状をなるべく具体的に書いてください】

なるほど。うん。症状……。ないんだけど。再検査を受けろって言われたから来ただけなので、ないんだよ。なので、たいへん美しい字で「なし」と書きました。とめもはらいも完璧です。端からみたら、何しに来たんだおまえ?って感じですな。いや、再検査しに来たんだけども。

で、再検査の結果ですが、異常はありませんでした。もともと、数値が平均よりちょっと高いので、念のため受けてください、くらいの感じだったので、そこまで心配はしていませんでしたが。

ただ、引っかかったところが肝機能の系統なんですよね……。明確にやめろとか減らせとか言われたわけではないですが、そろそろアルコールとのつきあい方を考えないといけないんだろうなあ。昔みたいなアホ飲みはしていないはずなんだがなあ。

健康診断ではプリン体がどうこうと書いてあったので、糖質ゼロのビールも試してみたけど、薄くて物足りないんだよなあ……。うーん。

あ、書いたあとで調べたんですが、ゲルインクボールペンもいちおう水性ではあるらしいですね。どうやらここでも固定観念に囚われていたらしい……。

サウナはたのしい。