ChatGPT に知的障害者の行動支援をしてもらう

大規模言語モデルは知的障害者の支援のためにある

大規模言語モデルは、地球上のありとあらゆる文章を学習したうえで、「適切な」返答をするようチューンされているらしい。使い方によってはクリエイティブな使い方もできるようだが、やはり得意なのは調べ物だろう。

ただし、調べ物なら従来の Google 検索でもできる。言語モデルが可能にするのは、ニーズに応じた要約、言い換え、わかりやすい表現、それとインタラクティビティのように感じた。

これって、知的障害者の支援に使えるのでは?と思った。別に知的障害者じゃなくても良い。TPOを学び実践するのが苦手な人、他人のようにうまく部屋の片付けができない人、全く勝手の通じない外国で活動するようなときにも似たような支援が期待できる。
(逆にこれは、知的障害は様々な「困難」の集積でありグラデーションの中にいる、と捉えることもできることを意味している、、と思う)

念の為補足しておくと、うちにはダウン症の子供がいる。本記事中でこいつ表現が失礼だな、と感じられたら、この記事の対象は私の子だけ、のつもりで読んでもらっても構いません。主語は極力小さくしておきたい。

大規模言語モデルは、世界の知識を幅広く学習してくれている。それ自体の能力は限りなく統計的な1(=アベレージ)だ。利用者次第でそれを1以上のアウトプットのために活用できる。コーディングのアシストや、ブレストの手助けをするのはそういった利用法だ。利用者の工夫次第。

しかし1に満たない部分の多い人(多分語弊がありますが怒らないで、、、すみません…)にとって、ありとあらゆる1を適切に返してくれる大規模言語モデルは、直接的に非常に心強いパートナーになるはずである。
なにしろ、AIに対して遠慮はいらない。何回でも聞き返せるし、いくらでも待ってくれる。なんて素晴らしいことだろう。

2023年3月時点では「言語モデル」だし会話様のインタフェースなので「質問」になるわけだが、将来的には利用者が質問しているような感覚やUI操作がなくなり、自らシームレスに問題解決できるようになって欲しい。AIが利用者にインテグレートされ、知的障害により不足している能力を補完している状態だ。

果たしてAIは、知的障害者にとってのメガネや義足となりうるか。
以下は、知的障害を(おそらく)有する我が子の自立を、技術の進歩が実現してくれることを願ってやまない場末のエンジニアの妄想である。

トラブル解決システムを妄想してみる

行動中のトラブル解決支援のシナリオをざっくり考えてみる。何かしらの行動をする際に、手取り足取り次はなにせいと言ってくるシステムではなく、トラブルがあった際にその解決を手助けしてくれるようなものである。

  • コンテキスト理解 - 今何をしようとしているのか。ゴールはなにか。

  • 困難状況の検出 - ヘルプが必要な状態である、ということをシステムはどのように気がつくのか

  • 課題の理解 - 上記ゴールに対して解決すべき困難はなにか。

  • 具体的な支援 - 利用者に対して何をするのか。

なんとなくスマホアプリになるイメージで妄想を始めてみるけど、もしかしたら大きく押しやすいボタンがあり大音量で発話する専用デバイスとか、肩のせエージェントロボ、とかのほうが良い可能性もある。このへんはかっちりとは定めない。

コンテキスト理解

将来的には、ルーチンワークならシステムが自動的にコンテキストの同定をしてくれると良いが、正解があやふやな状態で的確な支援はできないので、コンテキスト…つまり今行っている行動のゴールは手入力のほうが確実だろう。
これは支援システムのインタラクションでカバーできる。例えば、利用者が単身で電車移動をするようなシナリオの場合、カーナビ的なUIでどこに行きますか?だけ誰かに入力してもらえば、最終ゴールは担保できる。さらに、一日のプランを定めておいて一つずつ進めていく、というのも良さそうだ。
実際は、利用者自身が間違ったコンテキストを入力する可能性を視野に入れる、、、などいろいろ考えることは出てくるだろう。

困難状況の検出法

これも現状の ChatGPT そのままでは実現できない。ただ、その他の技術やシステムとのインタラクションで補完できると考えられる。

  • 本人が自らシステムにアクセスして、困難状況を入力する

  • なにはともあれ「ヘルプ」ボタンを押して貰う(そこから次の支援対象の理解のための対話が始まる)

  • 何かしら情動を測定する手法を導入する - 落ち着かない、ウロウロしている、、など

  • 現状の行動コンテキストからシステムが異常状態を検出する(電車に乗るはずなのに電車に乗らない、など)

サポートが必要な状況ですか?ということを利用者に問うときの表現やインタラクションもデザインのしがいのあるテーマだ。

具体的な課題の理解

自分が何に困っているか、を表現するのは案外難しい。知的障害者の場合、思いがけないところに困難が待ち受けていたりする。
ここが難しいかも、と思ったが、Chat AI 自身に利用者に質問させるのが大規模言語モデルらしい利用法だろう。利用者の知的レベルに合わせた質問は得意なのでまずはそれらを利用するが、利用者の返答がちんぷんかんぷんであった場合に、別の質問に切り替えて再質問する、などの柔軟さも大規模言語モデルが有すると素敵そうだ。もしかすると、現在の大規模言語モデルでも、アプリレイヤーで工夫すればそのように振る舞わせることができるかもしれない。

具体的な支援

この段階に関しては大規模言語モデルはすでにかなりのレベルに来ていると感じた。自分の設定をさらけ出すと、ChatGPT はいい感じに返答をチューニングしてくれる。例えば、8歳程度の知能である、と予めインプットしておくと、8歳でわかるような言い回しで喋ってくれる。地図が読めないということを教えておくと、地図が読めない前提での道案内の仕方を提示してくれる。
苦手なことなどのプロファイルを事前にAIに覚えておいてもらえば、円滑なサポートが可能になると考えられる。

トラブル解決のシナリオで ChatGPT にいろいろ質問してみた

インタラクション面にいろいろ楽しそうなネタが出てきそうだな、と思いつつも、今回はとりあえず、利用者のことを理解している第3の支援者がいて、ChatGPTとの会話の仲介役に入ってもらう前提で会話を試みた。こうすることで、現状のChatGPTでも実際に支援するシナリオを実演できる。

GPT-4 を利用しています。

利用者のプロファイルを覚えてもらう

手始めにここから。実際の支援システムとしては、会話のためにいちいちプロファイルを教えていては大変なので、前提設定として覚えておいてもらうのが良いだろう。

すでにかなり頼もしい

コンテキスト理解・困難状況の検出

現在の行動のゴール等を理解してもらう。今回は文章でそれを伝えたが、行動支援システムとする場合、様々なインプット法があるだろう。この例では、トラブルはなにかまで ChatGPT に推測してもらった。
また、今回は困難状況の検出も第3の支援者(私)が行ったこととした。移動すべきところで移動できていない、という異常状態に気がついてシステムとのインタラクションが始まるようなシナリオである。

箇条書きで可能性のある状況を出してくれる。すごい。

課題の理解 - ChatGPT自身に質問させる

上の返答で十分「すげー」と思ったが、これでは第3の支援者がべったり張り付いて支援するのと変わらない。そこで、支援システム側から働きかけて、支援内容を特定することを試みてみる。
また、始めは堅い文章になっていたので、8歳に伝わる文章に書き直させた。これも事前のプロファイル設定でスムーズになるはず

この言い換えの能力にはホント感心する。

具体的な支援を求める

ここにはインタラクションのジャンプがあるので注意。上記の課題を特定する質問に対して選択肢で答えさせるなど、利用者との間でやり取りがないとここにはたどりつけない。ここも利用者次第で作法が変わる部分だろう。
今回はそこに一旦目をつぶって「駅で迷って困っている」という困難が特定できたとして話をすすめる。

すごい。いろんな助け方がある。たしかーに。

追加のトラブル発生

課題解決の具体的な手段の中に細かい課題が発生するのは当然で、ここでは「駅員に相談したいができない」という状況が発生したとする。先程と同様で、ここでは一旦その課題が抽出できたとして話を進める。

いちいち温かい。

最終的な支援の具体的なアクション

利用者が支援の指示を受けて行動できる人なら良いが、そうじゃない場合もある。ここではChatGPTに対して文章を生成するよう質問をしたが、支援システムとしてはインタラクションの仕方が様々考えられそう。

支援システムの作成した文章を提示する方法まで考えてくれた。

振り返り

はじめに書いたとおり、コンテキスト理解・課題の特定・利用者とのインタラクションには課題…というか妄想が残りますが、それらができた前提で ChatGPT としては適切な返答を返してくれていると感じました。具体的な支援の部分については基本的な性能は十分にある。

文章や音声で返されても理解が難しい利用者に対しては、わかりやすい図とかんたんな補足文で説明する、などバリエーションも考えられます。このへんは生成系AIが当然進む方向だと思うので、進化に期待したいところ。

本記事の最大のツッコミどころは、、、実は今回の支援シナリオが私の妄想で書かれていて、実際の知的障害者がどのようなところで困難を感じるかのインタビューや実体験に基づいていないことです。今後障害を持つ子の親としてもっと積極的に人と接して学んでいきたいところです。全く異なるアプローチも見えてくるかもしれません。


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