夢を見る彼

息子が最近、仮面ライダー何某になりたい、と言い出した。
ついにこの日が来たか、という感じ。
息子はいわゆるやんちゃなタイプなので(タンクトップと虫取り網がデフォルトかと思うほど似合う)、特撮ものやら戦隊ものからなるべく遠ざけていた。出会ってしまったら最後、どうしたって、抗いようもなく、間違いなく、確実に、全身全霊をかけて戦うのが目に見えているのだ。
親としてはできれば戦わないでいただきたい。だって痛いから。私が。
なるべくなら巻き込まれたくない。
さて、どこでどう覚えてきたのか、知らいないうちに、仮面ライダー何某になりたいと言う息子。なれるかなー?と無邪気に訊く。
きらきらしたはじける笑顔に「もちろん」と答えてしまう。だって、ねぇ、なれるかもしれないじゃない。ある程度大きくなって、しかるべきオーディションを受けて、見事に勝ちとるかもしれないじゃない。夢を見たっていいじゃない。勝手に遠ざけておいて、母親って現金なもんです。
すると、睦まじい母と息子のひと時に夫が水をさす。
「いやぁ、無理だろう」
なんてこと。なんて残酷。
どどどどうして、彼にも夢を見させてやってよ。夢は無限と教えておあげなさいよ。夢は大きく、それでいいじゃないの。と言うようなことを夫に伝えた。ら。
「特撮ヒーローの照準が大きく変わらない限り無理」とのこと。
いまいち理解しかねる私に夫が続ける。
「照準が渥美清とかにならない限り無理」
ががん。
親ばかフィルターが作用してすっかり忘れていたけれど、そうでした、息子ってばはっきりとしたずんぐりむっくりなのでした。(対する姉はすらりとした現代っ子体型。小顔)
加えてお顔も少し大きめなのでして。笑うと目が一本になるのでして。(対する姉はぱっちり二重の大きな目)
ああそうか、特撮ヒーローたちは皆一様に小さなお顔にすらりとした体躯。ひらりひらりと戦う様はそれは格好いいいことだろう。短い手足でどすんどすんと戦っていては子供たちの焦がれるようなまなざしも、スポンサーである保護者の協賛も得られない。万事休すだ。
息子よ、君が進むべくは人情派の下町コメディだ。
渥美清さんは日本を代表するそれは素晴らしい役者だけれど、残念だが特撮ヒーローにはなれそうにない。
がしかし、そんなことは胸に秘め、今日も朝から
「大きくなったら何になりたいですかー?」
「仮面ライダーです!」
なんて能天気なインタビューごっこを繰り広げていたのでした。
めでたし。

また読みにきてくれたらそれでもう。