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連れ去られた男

2023年9月22日 02:37

10年振りの友達に再会した
最後にマハムードに会ったのはナハダだった

30年間続いた軍部独裁のムバラク政権を革命で打倒し
初の民間人大統領が誕生した
とはいえムスリム同胞団の政治部トップだけれども

甘い汁を吸ってきた軍、警察、裁判所、官僚は彼に従わず
「モルシが大統領でいる限り、警察は仕事しない」
と被害を訴えにきた市民を警官が追い返す始末だった

国は機能不全に陥った
「国民を救う」と軍部がクーデターを起こし大統領を逮捕
1953年に王政が廃止されてから
ずっと軍人が大統領として独裁政権を築いてきた
2011年ようやく始まった民主政権は
わずか2年で幕を閉じた

軍の支配に抵抗した人々が集まってデモをしたのが
ラバア・アダウィーヤとナハダだった
「国民のために」と立ち上がった軍部は
彼らをテロリストと断定し
数千人の大人と子どもを虐殺した

ナハダにいた友人は
虐殺からは逃れたものの
約一年間監視と尾行がついた
ある日の午前3時新婚だった彼の家に
パトカー20台が来て瞬く間に彼を連れ去った

拘束され、尋問を繰り返される毎日
突如行方不明になったマハムードを多くの人が探した
警察署に行ってもここにはいないと追い返された

拘束から10日後署内ですれ違った人に
奥さんの連絡先をこっそり渡し
居場所が明らかになった

様々な伝手を辿り心臓病を理由に釈放された
以降SNSをやめ、政治的な発言をやめた

「4人の子どもと奥さんがいる。失うものが多すぎる」
革命やデモに参加し、取材に答えてくれた人たちは
みんな「テロリスト」として国外へ逃げていった

「ムバラクも悪かったがこんなに市民が殺されはしなかった」
とマハムードは声をひそめる

現政権に楯突いた人は叩き潰されてるか、国を追われている
一度辛酸をなめた軍の締め付けは強く
銃よりも金銭的に市民を圧迫することで
生気を搾り取っている

「百姓と胡麻のの油は絞れば絞るほどでるものなり」
とはよく言ったものだ

「開けゴマは千夜一夜物語に出てくるアラビア語の台詞だ
アラビア語でゴマはシムシム
「エフタハ・ヤー・シムシム」とアラビア語で言う

その呪文でパンドラの箱が開いても
革命という最後の手段を持ってしても変えられなかったこの国に
きっともう希望は残されていない

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