見出し画像

共創を導くパーパスの理想と現実:吉備友理恵さん『パーパスモデル:人を巻き込む共創のつくりかた』創刊イベント 

こんにちは、公共とデザインです。2022年9月5日に吉備友理恵さんの著書『パーパスモデル:人を巻き込む共創のつくりかた』刊行記念を兼ねて、公共とデザインおよび学芸出版社さんの共催で、イベントを行いました。この記事では、公共とデザインの3人と吉備さんで「パーパスモデルとはなにか」「パーパスの生まれ方とは?」といった問いについてディスカッションした後半のパートをまとめています。

ゲストプロフィール

吉備友理恵

吉備友理恵さん

株式会社日建設計イノベーションセンタープロジェクトデザイナー。1993年生まれ。神戸大学工学部建築学科卒業。東京大学大学院新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻修士課程修了。株式会社日建設計NAD室(Nikken Activity Design Lab)に入社し、一般社団法人Future Center Alliance Japanへの出向を経て現職。都市におけるマルチステークホルダーの共創、場を通じたイノベーションについて研究実践を行う。共創を概念ではなく、誰もが取り組めるものにするために「パーパスモデル」を考案。

モデレーター

公共とデザイン 石塚・川地・富樫

パーパスモデルは、「誰に対してコミュニケーションをしたいか」に応じて用いる

富樫:最初の入り口として僕が思ったことから始めると、パーパスモデルは、各ステークホルダーの想いがもとになってプロジェクトが形成されていることが可視化されるツールですよね。一方で事例として紹介してくれたハイラインBONUS TRACKなどがパーパスモデルを使ってできたのかといえばそうではなく、活動の中で自然とパーパスのようなものが作り上げられてきたと思います。その過程の中で吉備さんなりに感じる成功の鍵や、あるいは普段パーパスモデルを用いたプロジェクトにおいてのインパクトなど伺えたらと思います。

The High Line, New York, NY, USA

吉備: ハイラインもBONUS TRACKももちろんパーパスモデルを用いて作られたわけではありません。 これらのケースでは、既にあるプロジェクトでは何が起こり、どんな使われ方をしていたのかを振り返って書いてもらったり、既存事例を分析的に見るために活用しています。

加えて、実際にプロジェクトのスタート段階で使っていただいた事例もあります。 最近、市民・大学・企業など、いろんな立場の人を巻き込みたいと思っているプロジェクトのキックオフのタイミングで呼ばれ、ワークショップをしてきました。そのプロジェクトではこれまでも同じように多くのステークホルダーとプロジェクトを行っていましたが、いつも問題になるのはあまり関係性が出来上がっていない最初の段階で「本当はこう思ってる」を互いに言い出せずに、すり合わせができないまま進んだ後に、「実は、どうしてもこれをしなければいけない…」「やっぱり辞めておく」 といった進めた先にズレが生じる問題がありました。一緒にやること、つまり共創自体が目的化し 、何のためにやるのかを見失ってしまうという話がありました。

この時のワークショップでは、一番最初のコミュニケーションツールとしてパーパスモデルを使い参加したそれぞれのステークホルダーに一人ずつパーパスモデルを書いてもらいました。 自分のプロジェクトにおける役割と「なぜこのプロジェクトに関わるのか?」という目的を共有してもらい、さらにそれに対して他の人から期待していることを聞いてもらったんですね。面白かったのが「実はあなたにはこんな事をして欲しいと思っていて・・・」と自分では思ってもみなかった要望や期待が出てきたりする。そうすると立場が違うので、できないと思っていたから発言を控えていたことも、「それなら一緒にできますよ」 と案外すんなりと受け入れられたり。立場の違いからちょっとした遠慮や建前もありますが、固定概念を外していくことができたのかなと感じました。

富樫:特にキックオフのタイミングなど要所でツールを使い、「この人にこういうことを頼みたい」のきっかけとして使われるのが今の段階なんですね。僕たちもプロジェクトの”真ん中”に何を置くのか?ということがデザインの役割として重要だと考えていますが、そういう場面でも使えるものなのですね。

石塚:わたしから聞いてみたいと思ったこととして一つ。 パーパスモデルは、個人や活動の目的や想いがある前提で作られていますね。 例えば市民活動のような主体が曖昧な活動をしていると「なんかこっちの方がいいから活動しているけど、強く掲げるほどの目的はないんだよね」という場合も少なくない。このような状態から始まる場合も、活動や実験をやっていく中で目的が形づくられていく感覚が私たちにもあります。一方で、なんとなくの思いのベクトルが近いかもしれないけど必ずすべてが同じ方向を向いている必要もないですよね。どんなタイミングで共通の目的が生まれるのか、どうやって共通の目的を持てるのかのさじ加減が、日々難しいなと感じています。パーパスモデルを使った分析や本を書くための取材のなかで、ヒントになるようなことが吉備さんの中にあれば伺いたいです。

吉備:パーパスモデルは、全部を網羅的に、というよりは「誰に対してコミュニケーションをしたいか」と目的があるモデルです。前半のレクチャーで、BONUS TRACKの話も、シモキタ園藝部のプロジェクトをモデルの真ん中に置くと全く変わったものが出来上がると思います。巻き込まれ方も、もやもやしている人と課題意識がある人で違ってくる。BONUS TRACKのときも初期段階で出会っている人たちは課題意識が強い人達で、徐々に場所ができて体験が産まれて、人が集まってきた光景を見て、そこでやっとコミュニケーションが始まった人たちもいました。手触り感というワードがトーク冒頭で出てきましたが、すごく大事だなと思っています。有名所だと、アルスエレクトロニカもドナウ川でまちの人が同じタイミングでラジオを流すという参加型のインスタレーション(SOUND CLOUD)という体験の共有があったことで、市民に広く一体感が生まれたのだと思います。ハイラインも、巻き込もうとしている人をその場所(廃線)につれていき、そこから見える景色の特別感を共有したり、目を引くような写真をプロのカメラマンに撮ってもらい、広く発信したのもそういうことですよね。この景色を残したいという、まだ言葉にもなっていない感覚が、実際は共通のパーパスをつくっていく「きっかけ」になるのではないでしょうか。

石塚:体験・モノ・場所がバウンダリーオブジェクト(*1)として、みんなで共有できるものとして機能していく。そこで「こっちのほうがいいよね」が見つかっていく感じなんですかね。

※1 バウンダリーオブジェクト(boundary object)…異なるコミュニティやシステムの境界に存在するものや言葉、シンボルなどを意味する。共通言語として異なるコミュニティをつなぐ、あるいはあらたなコミュニティを形成するための作用をもつ。

吉備:そうかもしれません、わたしも探り探りなのですが、いろいろな事例を見ながらそう感じています。

パーパスをチームで言語化するタイミングを”待つ”

川地:今のと少し関連するのですが 、どのタイミングでパーパスを言語化すればいいのかというのが気になってるポイントです。自治体さんと一緒にプロジェクトをやっていると、大企業や住民など、異なる複数の立場の人達と協働していくわけですが、主体となる自治体の中の人たちが「何のためにやっているのか」が重要になってきます。 世間的には、ビジョンやパーパスの重要性が説かれている一方、チームを立ち上げたその瞬間からいきなり全員が明確な像を描けるわけがないですよね。「重要って言われているから」と形式的に作ったとしても、そのパーパスの強度はめちゃくちゃ弱いし一度作ったことで安心してしまう。

渋谷ラボでは1年半ぐらい一緒にプロジェクトを行なっていますが、最近チームを三つに分割するようにしました。チームでいきなりそのパーパスやビジョンを作りましょう、と僕が言うことは簡単ですが、そこに本当に意味があるのかと迷いました。 2ヶ月ぐらい曖昧さの中に身を置き、みんなで探索していくプロセスを経た後に、振り返りのタイミングで初めて、メンバーから「このチームは何のためにあるんでしたっけ」という言葉が出てきて。共通でパーパスやビジョンを作っていくべきタイミングは今だ!とわかりました。 そこに行き着くまで多くの議論や対話を重ねたり、 体験を共有したり、というプロセスがあって初めて必然性が浮かび上がってきたのだと思います。

吉備:とても大切ですね。 私自身も社内のいろんな部署が関わるプロジェクトをしている中で、新しいことを始める時に、同じ会社なのである程度共通言語がありそうだなと思っていても、部署ごとに求めるものや、もやもやしていることが全く異なります。そこで「特定のコンセプトでいきましょう」と決めることはデッドラインが決まっているので可能だけども、なんとなくみんなエンジンが掛かっていない。そこで、長いと言われながらも3ヶ月ぐらい色々な場所に視察ツアーに連れていったんですが、インプットが溜まると事前に自分の言葉で話し始めるタイミングがあるなと感じます。
ある程度すでにもう課題意識がある、または明らかに顕在化している課題、例えば「大気汚染がひどい」とか「何かにすごい悩まされている」とか、そういう人たちが集まると課題を軸にドライブすることがあると思います。でも、そうではないときに、まずはいっぱいインプットすることや体験を通じて自分の中から想いが出てくる瞬間がある。このタイミングでもう1回問いかける。そういうことができるといいのではと思います。

川地:形式的に 「このタイミングでやるんだ」と決めきれるものではない。 だからそこは状況判断していくしかないですね。

石塚:タイミングによっては、うまくいかない場合もあると経験から感じています。そこは見極め時と言うかタイミングを待つしかなかったりするのかな。

富樫:難しいのは、 ビジョン・パーパスが必要だよねとわかっている人が最初のメンバーになったりしますよね。リーダーが必要だと感じていても、メンバーは自分事化できていない場合も少なくありません。 行政のプロジェクトの中で、 一緒に失敗した時に「 みんなでちゃんと考えなきゃいけないね」という瞬間がありました。何ヶ月か、 誰か一人がビジョンやパーパスのたたきを作ってきて、そこにフィードバックをする形でやってみようとしていましたが、結局一人一人のマイボール感が落ちてしまい、議論自体も深まりませんでした。 3ヶ月やって失敗して初めて、一人一人が同じ熱量でパーパスやビジョンをつくらないとだめだよね、と仕切り直しとなりました。そういう失敗体験が一つ、メンバーの間にあって、まとまっていくこともある気がしています。とはいえ、必ず失敗しなければいけないのか、というとそうでもないので難しいですね。

吉備:たしかに、今のはすごく面白いですね。共通の体験や失敗によって「これじゃないよね」がわかるのはいいですね。一番最初に、挑戦することが共創の一つのキーではないかと冒頭で話しましたが、挑戦には失敗というステップがありますよね。それをきっかけに共創が一歩進んでいくというのは非常に納得感があります。

富樫:とはいえ、分かっているひとにとっては「はじめから正しくやりたい」みたな思いもある。パーパスモデル自体がきれいな円になっているので、モデルを使えば、「正しくスマートにやれそう」という欲望を僕は感じました。

吉備:よく言われます笑。実際に書いてみたら全然埋まらないことがワークショップでも起こるんですが、図の中の言葉を全部埋めないといけないわけではありません。「全部埋まってないと正解じゃない、だめだ」と思ってしまう方も少なくないので、そこはワークショップ内でも丁寧なコミュニケーションを心がけています。全部埋めなくてもいいんです、埋まらないことがわかることが一つの気づきであり、正解をつくるためのツールではないんだよ、と。

時系列で見るパーパスモデル(BONUS TRACK)

石塚:時系列でパーパスモデルを見せてもらいましたが、実際は常に状況は変化するものだから、作って書き直していくことがプロセスの中で重要そうですね。 ただ作った物がいい感じに見えてしまうから、「どんどん書き直して捨ててね!」というコミュニケーションが必要そうですね。

吉備:図を埋めると安心しちゃうじゃないですか笑。描いたら安心してまうという気持ちもよくわかるので、そこは私が伝えていかないと行けないんと思っているところです。「描いたから終わり、完成!」 ではないということを、今日この場で話せてよかったです。

ゆるやかなステークホルダーとのつながりをはぐくむ中で、関係性と役割が変わり続ける

川地:とりわけこのパーパスモデルでは、主体性で上下のエリアを分けていることが印象的です。下半分は共創パートナー、上半分は関与するステークホルダー。ここが特徴的だし、難しいなと感じています。

川地:BONUS TRACKの初期のパーパスモデルを見ると、明確なパーパスが何もなかったように見えます。これは、考え方によっては目的すら決まっていないから可能性が無限大。誰でも関わりうる、めちゃくちゃかかわりしろがある状態だ、ということですよね。逆にハイラインの場合、最初の二人の明確に「ハイラインを残したい」という想いが前提にある。想いの輪郭が強ければ強いほど、関わりしろを排除することにもつながるので、立ち振舞が難しいと思っています。

共創の言葉の取り扱い方次第でもありますが、ここで取り扱われている多くの事例は、プロジェクトとはいえ、エコシステム的な側面も持っています。共創パートナーだけがいれば成り立つわけでもなく、関与するステークホルダーの緩やかなつながりが、エコシステムが成立する上で重要だと思っています。

すでに、単体の事業・サービスだけを考えればいいという時代ではないですよね。単純な例でアパレル企業を挙げると、服を大量生産して短いスパンで売っていけばおわり、というわけではない。売った後に廃棄された服をどうするかもそうだし、そもそも素材の製造方法でいうとコットンは水質・土壌汚染の原因にもなっている。いわゆるサーキュラーエコノミーを成り立たせるには、全体で気候変動に対して対峙していかなければいけない。でも、服を買った人がそのまま捨てずにわざわざ店舗まで返しにいくモチベーションがあるのか、というところで、じゃあ身近にあるコンビニに回収ボックスを設置しよう、という話も必要になりうる。このように消費者にもゆるい関与を求めなければエコシステムは成り立ちません。

この緩やかなステークホルダーのつながりがどうつくられるのかと考えたときに、この人達はパーパスに依存しないんじゃないかな。むしろ、ファジーな状態でなんとなく関わりたい人たちが、強い目的を掲げられたときに、ウッと引いてしまい兼ねない。吉備さんはこういうパーパスの強度と緩やかな関わりのグラデーションをどう捉えてますか?

吉備:言ってくれている通りで、下半分の「共創パートナー」は、この人達がいなければプロジェクトが持続しない人たち。一方で上半分の「関与するステークホルダー」は、この人達がいなくてもプロジェクトが成り立つ人たちでもあるけど、プロジェクトを広げていく上で関わってきて欲しい人達です。

パーパスモデルで描かれる上半分の「関与するステークホルダー」の中にはいくつかパターンがあると思っています。一つは、プロジェクトの収益として、対価を払ってくれる人たち。例えば、BONUS TRACKでは一部を駐車場にして利用してます。ここで関わる人達はパーパスには関係ないけれど、プロジェクトにおいて収益の安定化を担保するために関わってもらう必要がありますね。2つ目は、「もっと関わってほしい、この人達の関わりがあったらプロジェクトが変化しそう」とか「活動が変化していく上でここがネックになりそうだ」という人が巻き込む対象として入っている。3つ目が、ファジーな関わり方。下北のなかだと「沿線の住民」としてくくられていた、このエリアに近いところで暮らしていたり、利用者としてBONUS TRACKに訪れたりする人。「共創パートナー」が増えているタイミングでは、新たに誰かが参加しているのではなくて、ファジーな人が役割を見つけて「共創パートナー」として明確化するので増えているように見える。例えば、「近隣の住民」だったひとが植栽を管理するボランティアの人たちになって、シモキタ園藝部という活動の形に変化したり、地主さんで、「ここの場所も使えるよ」と話を持ってきてくれたり。主さんで、「ここの場所も使えるよ」と話を持ってきてくれたり。

関係性の中で自分ができることを提案してくれる場合もあるし、逆に課題をぶつけたり、場所に通うことで関係性ができてくる中でその人たちの「役割」が明確になっていくパターンもあります。ファジーな関わり、つまり、緩い関わりから「関与するステークホルダー」が「共創パートナー」に変化することもあるのかなと思います。

つくりかけのパーパスモデルが、多層的な視点と可能性を生みだす対話を導く

川地:そういう緩やかな関わりは全体のシステムを成り立たせるためには必要ですね。本に掲載されているモデルは、リバースエンジニアリング的に関係性を紐解いているので「関与するステークホルダー」を描ける一方で、実際に進行形のプロジェクトでは難しそうだと思いました。というのも、プロジェクトをつくる側としてはパーパスモデルで可視化したい欲求は理解できるのですが、パーパスに共感して参画しましたというよりも前にネットワーク的に関係者が拡がっている状態では、網羅的にモデル上にのせる意味性が気になります。

吉備:鋭い質問ですね笑
先ほどもどんどん書き直すことが大事と伝えましたが、実際のプロジェクトで使用していただく際は、正解を書くものではなく、プロジェクトを動かしていく上で一旦可視化してみるものと捉えて頂くのが良いと思います。
先日行政や、企業、大学が関わる共創プロジェクトのキックオフで使って頂いたときには、この立場の人が関係者になるのではないか?という人たちをそれぞれの立場から一回すべて書き出し、全部盛りのモデルを作りました。そこから、誰にどうアプローチしていくのかをコミュニケーションして、可能性全部盛りの理想から、これからアプローチしていくための戦略的なモデルをつくっていきました。

今回は最初にパーパスモデルを描く時点で、いろいろな人たちが参加してくれたので、ある程度網羅性のあるモデルが作れたと思いますが、これを1企業の1人の担当者だけでつくってしまうと抜け落ちてしまう視点が出てしまいます。その視点が足りていないモデルをベースに要件定義をスタートしてしまうと、グダグダになる可能性はあると思います。初期段階や関与するステークホルダーを考えていくときは、視点の抜けがないかを意識していくのが大事だと思っています。

石塚:パーパスモデルを作る段階でだれが巻き込まれているかが重要ですね。視点の偏りや数、見えているものがだいぶ変わってきそうだなと感じました。

吉備:たしかに!実際にモデルを書いてもらうと、想定するステークホルダーは書けたとしても、「〇〇したい」の欄が埋められない人が結構います。なんでこのプロジェクトに関わってくれてるかはわからないけど参加してくれている、みたいな。そんなときは、作りかけのモデルをベースに一度話してもらうことをおすすめしていますが、モデル自体がその人がどう思っているのかを聞きにいくきっかけにもなるということを、今改めて気付かされました。今日は対話イベントなのでわたしたちも対話の中で探索的な話し方をしていますね笑。

富樫:パーパスモデルにはオブジェクトがあるがゆえのきっかけとしての役割があると思っています。ただ、同時に、目的化・言語化することで取りこぼしてしまうことも多いので、どんな補助線を引くのかが大事だなと。また、最初に問いかけのツールとしてパーパスモデルがあることでの考えやすさにつながるけれども、「埋めなきゃいけない」という点から形式的な答えになってしまうことも少なくない。僕たちもプロジェクトのはじめには、プロジェクトメンバー全員にヒアリングを行うことが多いのですが、大体みんなきれいなことを言うんですよね笑。  その人自身の生々しい言葉や想いが出てこなかったり、抽象度の高いものだったり。パーパスモデルの作成をきっかけにして、個々人の体験やエピソードにやどる生々しさを、チームに対して共有できるといいのかなと想いました。

吉備:一回、パーパスモデルを使ったワークショップでちょっと失敗したなと思ったことがあります。行政の人たちと一緒に行ったワークショップでしたが、行政の人たちが欲しいもの(=プロジェクトにみんなが能動的に関わっている理想のパーパスモデル)をアウトプットのゴールとしました。そのWSでは大学の先生や学生、市議の方たちなど含め、いろんな立場の人達が集まってくれて、「この場所があったらこんなことがしたい」「今こんなことにもやもやしているんだよね」と話をする機会ができたのですが、最後に抽象化してモデルをいきなり共有してしまったため、。"わたし"の生々しい"想い"が乗っかっていないように見えてしまったのはプロセスの設計ミスだったなと…。ワークショップの成果物ではなく、対話のためのツールとしてのパーパスモデルにできればよかったのですが、先のプロジェクトのために一旦まとめたものをその場で共有してしまったのが良くなかったと後から気が付きました。そこから、「その場で生まれるあったかいものをみんなで持ち帰ること」と「最終的な提出物」とは別の物だなということを感じました。これは、これからパーパスモデルを使ってワークショップをする人がいれば大事にしないといけないポイントだと思います。

石塚:「目的はなんですか?」「何がしたいんですか?」と直接聞いたときに、本当に自分の想いかどうかは怪しいなと思う瞬間はありますね。まちを良くしたいねとか、みんなで共創したいね、とか一般的に社会でよいと言われていることをそのまま口にしている。でも、その人が何も考えていないわけではなく、解像度が荒かったり、言葉にできていないけどまだ輪郭がないものを持っていたり。「なんでやってるの?」と聞かれたときに一旦答えることはできるけどたぶん正確ではない。言語で固めすぎずファジーであることにも、逆にいちど外部化して言語化すること、どちらにも価値があるように思います。

曖昧な想いから<わたしの言葉>の発露を促すために、感情を触発し続ける

吉備:公共とデザインの3人で実践している中で、生々しさが浮き彫りになるような会話の作り方や環境、質問のしかたなど、記憶に残るタイミングはありましたか?

川地:現在、産むにまつわる価値観を問い直すプロジェクトを日本財団から助成金を頂いて実施しています。昨日東京で行った1回目のワークショップを行いましたが、不妊治療や特別養子縁組の経験者・アーティストやクリエーター・今後こどもを持つことを考えている人たち、たとえば就活をきっかけにもやもやしている大学生や子どもを持つことに対してもやもやを抱えているカップルなどと一緒に、それぞれ子どもを持つことにたいして自分たちで物語をどう紡いでいくか、ということに向き合っています。このプロジェクトに参加してくれている人たちは、何かしらの言葉として明確化していなくても産むことに関してひっかかりを感じているので参加してくれている。こういう人たちとのプロジェクトでは、感情を素直に他者に伝えることが必要だけど、それだけできればワークショップは流れていくような感覚がある。なにか押し付けたりする必要はなく、感情を外に出すための後押しとか、その始まりをつくることしか僕たちにはできない。例えば、アイスブレイクとして、いろいろなテクスチャを持つモノを入れて、モノをみせながら自分の感情を説明してもらうとか。

公共とデザイン「産む」にまつわるワークショプ

一方で、なかなか自分の感情を内省する機会が日々の業務にないようなパターンのときには、「どんな意味を感じて仕事をしているんですか?」「何がしたいんですか?」と最初の段階で直接的に聞いてもあまり出てこないですよね。ただ。聞き方やタイミングはありますが、なにかしら刺激するような機会自体は繰り返し必要だなと感じています。

石塚:川地くんの発言にも繋がりますが、内省のタイミングをプロジェクト内に入れ込むことは意識的に行っていますね。ワークショップの当日もみんなで話すような場はもちろんありましたが、初回に向けた宿題を用意し1人で改めて立ち止まって考えてみる機会をつくりました。長期的なプロジェクトでも、3ヶ月立ってから振り返りの時間を作って個人で考えたものをチームで共有するような時間をつくったりしています。逆に、ここに関していうと、わたしたちができるようなことはそれくらいしかないですね。

吉備:わたしも、アクティビティデザインの仕事をしていたときに、「何のための場所にするのか?」をひたすら問いかけていましたね。インプットするためにいろんな場所に見学するツアーや話してもらう機会をたくさんつくっていましたが、意識的に内省の機会や役割を渡していました。見学に行ったときに「あなたはカメラ担当です!」とカメラをわたしてその人の視点で写真を撮ってもらったり、視察後は参加者それぞれの視点からの感想をその場でおくってもらったり。自分の言葉にする瞬間を大事にしていたので、すごく共感できます。

富樫:問いや仕掛け・場づくりという言葉がトーク中にも出てきましたが、産むプロジェクトでも普段の仕事の中でも、究極コントロールはできない、ということをよく感じています。コントロールでどうにでもなる割合はかなり少ない。そんなにすぐできるのであれば、それはもう超能力者笑。 結局、その場に来る内発的なものはひとりひとり全く異なるので、ちょっと突っついたり、きっかけをつくることくらいしかできない。だから、失敗する経験とか、何ヶ月か苦しい時期が経験が礎になっていくのですが、全てをコントロールできるものだと捉えてしまうとその期間が起こり得ない。最初の1・2回ワークショップをやってみて、成果でなかったから辞めよう、というところにもつながってしまう。人ってそんなにコントロールできないということを自覚した上で、どうプロジェクトを作っていくのかが大事ですよね。

「こうしたい」や「没入体験」がはじまりとなり、活動の中でパーパスの輪郭を捉える

川地:今もやもやしていることを雑談的に話してもいいですか。共創するためとかは別の話になるので一旦おいておいて、パーパスとか目的とか本当に必要なのか、という自分の問題があります。自分で好きだから始めた活動も、社会化していくと苦しくなる瞬間が出てくるなと感じています。

たとえば、公共とデザインでも本を書いている最中なのです。パーパスモデルの執筆も苦労されたと思いますが、本を書くことはやっぱり大変ですよね。本を書いていても、最初に想定していたところから、関係のない方向に流れて書いて逸脱していくときのほうが楽しい。でもそうすると書く量も考える時間も2倍3倍になっていく笑

本を書く目的は、自分たちの思想をよりシャープにしていくことや団体としての知名度を挙げていくことかもしれないけど、関係のないところに流れているほうが楽しい。書いてることに没入している瞬間は、目的はどうでもよくなってしまう。ただ、ふと目的の話が出てくるときに、目的自体が内発的なものと必ずしも紐付かないかもしれない。その付き合い方が結構難しいと感じていて、自分の中のテーマとしても、「流れ」をつかむことに興味があるので、もやもやポイントになってます。

吉備:流れとパーパスは違うんですか?

川地:やってる瞬間には目的地のことを意識できない、その行為自体が目的化する。でもそれでいいやとなると、本は出せませんよね笑。

吉備:出せないね笑。本の出版やプロジェクトに限らず、何かしらのアウトプットを出さなくてはいけないときに、自分がモチベートされる瞬間とのせめぎあいは私も抱えています。とはいえ、「パーパス必要なの?」という話は難しいかな。何を大事にしているのか、という個人のパーパスはここが根っこにあって、ここを自分で見つけているかどうかが一番大事な気もしています。自分がいいと思えるのか、嫌だと思うのか、そういうことがわからなかったりすると心が動かせなかったり行動を起こせなかったりするので、何を大事にしているのかを持っておくのは必要なんじゃないかなと思いました。

川地:それはすごいわかる!

石塚:入り口にパーパスがあって、没頭している瞬間はそこに入り込んでいる、というのもあるんじゃないかな、昨日のワークショップ、すごく良かったと感じていますが、わたしはファシリテーターとして介入しつつ場自体は流れていったので、各グループのいろんな人の対話を聞いていました。さっきの話にもありましたが、産むことや子どもを持つことに対してもやもやしている人たちが何かきっかけを見つけられたらいいなという理由で参加してくれている人も多いのですが、実際にワークショップ中はそれぞれの目的がどうこうというよりも、その場の対話に夢中になっていました。当事者の方のお話を聞いて質問したり、自分の思ったことを素直に伝えたり、ディスカッションがうまれたり、みなさん、「今ここ」にいることに対しての経験に没入していたように感じました。自分の目的が入り口ではあるれども、「今ここ」を大事にするような関係性。たまに立ち止まって引いて見るときに、目的と合っていても合っていなくても良い、とは個人として思います。

川地:冒頭の会話で出ていた体験の共有の話ともつながってきますね。没入体験ややること自体がいいじゃんということが、パーパスと呼ばれるものを立ち上げて行くために必要だし、それがないと成り立たない。

富樫:そうですね、自分の「こうしたい」を発見しないと、そもそも活動に参加しようと思いませんね。僕たち公共とデザインもそれぞれ3人が「こうしたい」があって集まっているので。活動していくうちに徐々に涵養されていく部分もありますが、パーパスモデルに落とす前段階で必要なプロセスなのかもしれません。そういうところを育めるようなところを個人的にはやっていきたいと思っています。

イベントを振り返って

オンライン・オフラインで参加していただいた方、記事を読んでいただいたた、いかがでしたでしょうか。もやもやと育まれていく個人・チームの思いを言語化するタイミング、ファジーなかかり合いから関係性の中で担う役割の変化、個々人の体験や想いがパーパスへつながる。今回のイベントでは特に、”パーパス以前の話”にフォーカスを当てた話をすることができました。公共とデザインで大切にしている個人の想いやもやもやが組織やチーム、社会での共創へとつながっていくヒントを、パーパスモデルの実例と吉備さんのお話から得ることができました。

今回のイベントのきっかけとなった、吉備さんのパーパスモデルの本はこちらから購入することができます。

また、イベントアーカイブは学芸出版社さまのまち座で視聴ができるので、本イベント前半のレクチャーパートからじっくり見たい方はぜひこちらからご覧になってください。


今回のようなイベントや、クリエイティブ視点で共創・ガバナンス、民主主義、市民参加、ソーシャルイノベーションなどの理論と実践例について興味をもっていただけたら、本マガジンのフォローをお願いします。また、このようなコミュニティ活動の支援、その他なにかご一緒に模索していきたい行政・自治体関係者の方がいらっしゃいましたら、お気軽にTwitterDMまたはWEBサイトのコンタクトページよりご連絡ください。

一般社団法人公共とデザイン
https://publicanddesign.studio/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?