見出し画像

ネズミ型ロボットの話

ものづくり新聞編集長の伊藤です。

ものづくり新聞は製造業の方々向けにインタビュー記事を掲載しているWebメディアです。ソリューションやサービスの提供元へのインタビューはもちろん、実際に製品やサービスを導入した側へもインタビューしています。ものづくり企業に勤める皆さんにとって本当の意味で役に立つ情報を提供したいという思いで、ただ情報を羅列するのではなくより具体的なイメージができる情報発信を目指しています。

私伊藤は大学院時代、ロボットを研究しておりまして、ネズミ型ロボットを作っておりました。

人間とロボットが直接コミュニケーションする未来がすぐそこに来ているという1990年代のことですが、さすがにまだロボットの二足歩行さえも十分ではなかった時代ですので、人間とロボットでは難しいだろう、という発想で、まずは小動物とロボットならもう少しコミュニケーションが研究できるだろう、ということで思いついたのが、ネズミとロボットのコミュニケーションというテーマでした。

指導教授の先生とご相談し、ネズミと言っても飼育しやすいラットをターゲットにネズミとロボットのコミュニケーションを研究してみることにしました。

まずはネズミ(ラット)を飼育しなければなりません。しかし機械工学科の研究室に飼育できるような設備はありません。調べると同じ大学の教育学部理学科生物学専攻と文学部心理学専攻の研究室に実験用のネズミ小屋があるということを知りました。教育学部と文学部にお願いしたところ、そちらが利用されているネズミ小屋の一部を使わせていただけることになりました。

ラットは、医学生物学用の実験用生物ということで何週齢のラットを何匹と指定するとすぐ配達してもらえるということがわかりました。すぐに手配し、数匹の白い小さなラットを入手することができました。

ラットを飼育してみたのですが、これが結構大変。カゴで飼育すると人間に慣れていないので手を差し出すとすぐに噛みつかれます。これではロボットとコミュニケーションする前に人間の手に噛み付いてしまい実験になりません。日々ネズミ小屋に通い、毎日ネズミを慣らす日々が続きました。

一方、ロボットを作るといってもネズミ型というのはかなり小さい大きさです。相手の動きを見てこちらの動きを変化させるようにしたかったのですが、ロボットに目をつけるのは厳しかったので、天井にカメラを設置し、ラットとロボットの位置を検出するようにしました。その位置をもとにロボットの位置を自動で指示する仕組みにしました。通信は赤外線でなんとかなったのですが、その当時最も苦しかったのは、電源の問題でした。今でこそスマホなど高性能な充電池が開発されましたが、その当時そのようなものはありませんでしたので、どうしても電源をケーブルで接続しなければなりませんでした。

しかし、ラットは齧歯類です。ケーブルがあれば、噛み切ってしまいます。一生懸命開発したロボットも電源ケーブルを齧られると終了です。何度も齧られてロボットが停止してしまいました。今から思えばあたりまえですよね。

そうこうしているうちに修士論文の時期を迎え、ろくな成果もあがらないまま修士論文を仕上げました。私は卒業し就職しました。

しかし、実はその後後輩たちがずっと同じ研究を続けてくれていました。ネズミ型ロボットは20年を経て、どんどん進化し続けています。

その後20年以上経過した今も、私が思いつきで始めた研究を続けていただいていることに本当に頭が下がります。

数年前、現役の修士課程の方とお会いする機会がありました。彼女はもう一度この面白い研究を盛り上げてみたいとおっしゃっていました。それからどうされているのかはわからないのですが、心の中で、ぜひ何かご支援できればと思っています。ぜひこんど取材させてほしいです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?