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自分のお産は自分で決める

助産師×アロマセラピストをしています。
プアケリといいます。
ご縁のあった方、はじめまして。
よかったらのんびりと読んでいってください。

先日担当させてもらったお産について
思うことがあり、綴ってみようと思います。

その方は無痛分娩の方でした。
夜勤スタッフから引き継ぎ、
担当することとなりました。

初対面でまず驚いたことは、
とてつもなく具合が悪そうなこと。
なんで?と思い担当してたスタッフに尋ねると
「気持ちが悪いんだそうです」と。

無痛分娩では使うお薬の副作用で
吐き気を訴える人は少なくない。
お産の時間がかかればかかるほど
お薬を投与する時間は長くなるから、
その副作用も出やすくなっているように感じる。

痛みは取れているからそこはよしとしても、
気持ち悪さと闘い、少しでも動けば吐く。
そんなお産の経過を過ごす彼女に
何ができるのか…。
ひたすら励まし続け、嘔吐の処理をし…。
という援助。
ちょっとでも、と思い、レモンとオレンジの
精油で芳香浴を。

とにかくぐったりで、無痛の効果と相まって
いきむ力も弱い。
医師と相談した結果、吸引分娩となりました。
赤ちゃんが元気な産声をあげる中、
気持ち悪さが癒えない彼女は
赤ちゃんをチラリと見るのみで
声も出さずに目を閉じてひたすら
吐き気に耐えていた

なんとも静かなお産直後で、ちょっといつもと
違う違和感を抱きながらケアしました。
お産後も彼女の気持ち悪さはなかなか回復せず、ぐったりは変わらず…。
もちろん赤ちゃんのお世話なんてできず、
一旦帰ったご主人が再来院した時も
面会を断る始末。

数日後、すっかり元気になってくれた彼女を
担当させてもらう機会があって、
ゆっくりお産のことを話してみました。

プアケリ(以下プ)
「お産はどうでしたか?」
産婦さん(以下さ)
「いやー、大変でした」
プ「痛みは取れてましたよね?」
さ「はい、痛みは大丈夫でした」
プ「なにが大変でしたか?」
さ「あの気持ち悪さです。同意書にも
副作用のことが書いてあったから、
知ってはいたんです。
だけど、私に当てはまるなんて思わなかったと いうか、自分のこととして考えてなかったん
ですね。人生でいちばん具合が悪かった
時間でした…」
プ「なぜ無痛分娩を選択したんですか?」
さ「体力がないから、その方がいいのかなって
思って。消耗するって聞いたし、痛みがなくて 快適だったっていろんな人に聞いたので…。
誰も副作用のことは言ってませんでした。
体験してみないと分からないものですね。」

そこまで話したあと数秒の沈黙があり、

さ「私、後悔してることがあるんです」と。

さ「頑張って産まれてきてくれたこの子に、
産まれてきたらすぐ『ありがとう』って
言ってあげたかったんです。たくさん撫でて
話しかけて、おっぱいだってすぐに
吸わせてあげたかった。
でも自分の具合が悪過ぎて何もできなくて。 
産まれてきて嬉しいよ,幸せだよってすぐに
言ってあげたかった。

正直、気持ち悪くなってからのことを
憶えてないんです。産んだんだー…みたいなのは分かりましたが、誰とどんな会話をしたのか
とかば全部曖昧で。無痛分娩を選んでいなきゃ
よかったのかな。

夫も困ってたと思います。話しかけても
私が返事もしないから。この子が産まれたとき、夫はなにをしてましたか?産まれてすぐ、
夫が何も言ってくれなかったことがすごく
悲しくて、孤独を感じていました。
子供が産まれて嬉しいのは分かるけど、
私が無視しまくってたから、私のことは
どうでも良くなったのかなと思ったら、
なんなんだろうと思って。」

なんと悲しい想いだろう。
彼女には思い描いたお産への夢があって、
愛しい我が子と過ごしたい時間があったのに、 それができなかったことへの悲しみ。
でも、それを招いたことが他ならぬ
自分であることも分かってる。
だからこそやるせない。

でも私は見ていた。

ちゃんと彼女が必死に頑張っていたこと。
十分な力ではなかったけど、
いきんで産もうとしていたこと。
赤ちゃんが生まれたあと、目を閉じて
涙を流していてこと。
付き添っていただんなさんは、それはそれは
心配そうにされていたけど、どうしていいか
分からない様子だったこと。
彼女から弱々しい声で
「産まれたら動画を撮って」と頼まれてたから、
それを必死に遂行していらしたこと。

それらを伝えたら彼女は声をあげて泣いていた。
「私、この子が生まれたとき喜べていて
よかった」って。
旦那さんのことを伝えたときは、苦笑いを
浮かべながら
「あの人、一つのことしかできないからな。
じゃあ仕方ないか。すごく優しい人なんです」
と教えてくれた。

自分のお産のことは自分しか決められません。
無痛分娩を選択することが悪いことだとは
全く思わないけど、
無痛分娩だからといって体力が温存されるとは
限らない。
痛みがによる気持ちの消耗が減るだけで、
からだはお産をしている。
だから、自然分娩とまったく同じ体力の
消耗からは逃れられない。

薬を使う以上、副作用はつきもの。
それはどんな薬もあります。
他の人が「いいよ」と言ったら、自分にも
それが当てはまるとも限らない。

初産婦さんにとってお産は未知の経験だから、
他人の発信してくれた情報を頼りにするのも
当然だと思います。
でも、それはあくまでも、よく見るアレですよ。

「個人の感想であり、効果を保証するものでは
ありません」

ってヤツ。

自分はどんなお産がしたいのかな
それを叶えるためにはなにをしたらいいのかな
何をしていいかわからない時は
誰に相談すればいいのかな

ひとつひとつ考えて,向き合って。

命のことは簡単ではないけど、
臨んだ分だけ喜びが待ってると思います。

だからどうか。
自分を信じて、助産師を信じて、
一緒に臨んでくれる家族を信じて。
怖がらずに『自分で決める』をやってみてほしい。

そのためのお手伝いは、いくらでもしますよ。

今回関わった産婦さんは、
こういうお産を経験したからといって
赤ちゃんへの愛情が減ったとか夫のことが嫌いになったとかそんなことはなくて、一生懸命に
赤ちゃんのお世話に勤しんでいます。
毎日笑顔でたくさん話しかけて、愛おしそうに
赤ちゃんを見つめています。

どんなお産も尊い。
尊いからこそ、自分にとっての
宝物の経験になりますように。

これからもそばにいます。

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