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【6 章まとめ読み】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】


【まとめ読み  6章】 約 8000文字

【6章 マリーゴールド】

SIDE(視点):S.H.I

西暦3223年 地球  ヤマバの回想

 3220年2月1日。その日の朝、俺は人事部長に呼び出された。
 部長は椅子に重そうな体をうずめたまま、いつもの作り物の笑顔ではない、本物の笑顔を向け「ヤマバ君。君にAC.TOKYOの学位研究員への招集があったよ」と言った。
「それも首相からの直々のご指名だ」
 部長は上機嫌で、「さっそく来月のAC.TOKYO入所式に向けて、今の仕事の引継ぎをして欲しい」と言った。
 嬉しそうな笑顔だった。いつも現場の意見を通そうとする俺は、上から見れば厄介者だったのだろう。
 あまりにも突然のことで引継ぎに懸念を感じたが、召集の内容を聞く限り俺の夢の一歩であると思った。俺は部長に召集を全面的に受ける旨を伝え、部屋を出た。膨大な量の引継ぎはあるが、為せば成る。
「ならぬは人の弱さなり」ひとりで呟きながらも、嬉しさがこみあげてきた。
 いよいよ、俺の使命が始まるんだな。そんな思いが俺の中にあふれていた。

 その日のうちに、俺は自らに祝杯を挙げるため、行きつけの店に行き、年代物のワインを開けた。俺はカウンターで1人飲みながら、気持ちのいい酔いに身を任せていた。
「マスター、俺来月からAC.TOKYOの学位研究員になるんだぜー」
「あらー、よかったじゃないー。おめでとう!」
「いよいよ俺が地球を救うときが来た!」
 大男のマスターは口髭の顔をこちらに向け、唇をなめてからこう言った。
「そうねぇ、いつも言ってたわね。でも、そう言えば、いつごろからの夢なの?」
 いつ頃? いつだったっけなあ? あれはいくつの時の誓いだったかなあ?

 チルドレン時代。当時の俺は、劣等感の塊だった。
 両親のデータのない俺は、周りからは格好の冷やかしの対象だった。くやしさしかなかった。周りの奴らにもムカついていたし、データを残さずチルドレンに入れた両親に対してもムカついていた。親なんてほとんど会うこともないし、親なんかいなくても人は問題なく育つ。なのに何故こんなつまらないことに振り回されるのか……悔しくて仕方がなかった。
 βチルドレンでは、友達を作ることなく、勉強ばかりしていた。その結果、俺はβチルドレンで首席まで上り詰めた。首席になったころには俺をからかう奴は1人もいなくなり、腹が立つこともほとんどなくなっていた。
 それでも目の上のタンコブ的な存在、αチルドレンにはムカついていた。それは劣等感からくるものだ。……いや、もしかしたらあこがれているのだろうか?
 αの人間には会ったことはない。αチルドレンはごく少数のみで、本物の天才の卵か要人の子供しかいない。政府直下の施設である。もちろん、親のデータがない人間は入ることは不可能だ。そのうえで、要人の子供が多いので、親のデータは開示されていないと聞く。特別の教育と、恵まれた施設で過ごす。両親に愛され、将来を約束された人たちはどんな奴らなのだろうか……

「ねえねえ、いったい何の話なのよー」
 マスターの不満そうな声が聞こえた。どうやら俺の話は、かなり脱線していたようだ。マスターのリクエストは地球を救う話だったな。
 強烈な酔いのせいか、急に体の力が抜け、俺はカウンターに突っ伏した。
「ちょっと、ちょっと! お店で寝てもらっては困るわよー。あ、それともお店に泊まっていく♪」
 顔をあげると、胸の筋肉ピクピクと動かすマスターが唇を舐める姿が目に入った。いかんいかん、早く帰らないと。
「大丈夫、大丈夫。マリーンがいるから」
「あら、いっちゃうの? 結局、夢の話、最後まで聞けなかったわね。今度教えてねー!」
「了解。了解」
 俺はおぼつかない足で店を出て、上空に待機させていた愛機マリーンを下し、そのままシートに横たわった。
「ヤマバ、帰宅ですね?」
 マリーンの優しい声が聞こえる。
「ヤマバ、めでたいことがあったとはいえ、飲みすぎはよくありません。脈拍も多く、呼吸におけるアルコール値も非常に高くなっています。地球を救う方が、自分の身体をいたわらなくてどうするんですか?」
「まあまあ、マリーン。今日くらい許してよ……」
 俺はそのまま、マリーンの柔らかいシートと声に包まれながら、自らの記憶の中に入っていった。

 βチルドレンにいたとき。友達はいなかったが1人だけ、妹のような存在がいた。かわいいマリー。初めて会ったのは俺が10歳。マリーが2歳のころだったかな? マリーも両親のデータがなかった。人見知りで、でも俺だけに、何故か懐いていた。
 マリーは「ヤマバ、ヤマバ」と俺の後をついてまわった。俺もマリーを抱っこして、頭をなでて、一緒に本を読んで、一緒に絵を描いた。
「ヤマバ、明日は一緒にお散歩して、約束ね」
「ヤマバ、あとで絵本を読んで。約束ね」
 マリーの口癖は「約束ね」だった。金色の瞳をキラキラ輝かせながら「約束ね」と、にっこり笑った。
 マリーはマリーゴールドを好んだ。先生に教えてもらったらしい。
「あのね、これマリーの花なの。金色のマリー、わたしのことなんだって。暖かい時はいつも咲いてる花なんだって。いつだって見ることができるんだって」
 マリーは肩までの金色の髪をさらさらと風に揺らし、嬉しそうにそう言った。マリーは黄色のマリーゴールドを特に好んでいるようだった。
 マリーゴールドの咲くあの庭で2人で過ごした時間は、本当に特別な時間だった。
 ある日マリーがこう言った。
「ねえ、あそこに太陽があるでしょ」
「そうだな」
「太陽がおっきくなって、マリーたちを殺しちゃうの?」
「どうした急に?」
「昨日授業で習ったの、太陽がおっきくなっちゃったら、みんな死んでしまうって」
「そうか」
「でも、誰か頭のいい人が、なんかして、助けてくれるかもしれないんだって」
「うん」
「ヤマバ、頭がいいからマリーを助けてくれるよね」
「そうだなぁ」
「もう、ちゃんと聞いてよ。マリーとみんなを助けてね。約束ね」
「わかったわかった」
 俺がそう言うと、マリーはタンポポの綿毛みたいな、フワフワな笑みを俺に向けた。
 マリーと過ごし4年がたった冬の頃から、マリーは俺に会いに来なくなった。大人たちに聞いたけど、誰もその理由を教えてくれなかった。
 嫌な予感がした。
 そして、次にマリーに会うことになったとき(マリーがずっと俺の話をしていたから、会うことは特別だったらしいが)小さなマリーは箱の中に、静かに眠っていた。
 マリーの周りにはマリーゴールドが敷き詰められていた。オレンジのマリーゴールドだ。マリーはオレンジ色のマリーゴールドに抱かれたまま、眠り続けていた。どういうことなのか。どういう仕掛けなのか。俺には意味が分からなかった。それでも、その意味を理解するしかなかった。
 まだ6歳になったばかりのマリー、きれいな金色の髪にそっと触れる。マリーの柔らかく温かい頬が、冷たくカサカサしている。俺が触れても、その キラキラした金色の瞳が開くことはなかった。意味を理解するしかなかった。俺は手短にマリーとの別れを告げさせられた。
 医者は「マリーが、君と出会いそして短い人生に別れを告げたのは、そういう運命だったんだよ」と、そう言いった。そして俺がマリーにあげた、AI付きのぬいぐるみドールを俺に渡した。
 その後、俺はβチルドレンに戻っても、誰とも口を利かずに過ごした。
 そして自分の中で繰り返し問うた。
『運命とは何だ』
『死の運命とはなんだ』
 俺たち人類に突き付けられている死の運命、太陽膨張。既に受け入れている大人たちもいる。
「運命なのよ。いずれ死ぬ運命なのよ」
 棺桶の前で、チルドレンの先生は、うつろな目でそう呟いていた。
『だめだ!』
『死なせてはだめだ!』
『何故死なせた!』
『何故マリーを失わなければならなかったんだ!』
 あきらめだ、世の中にあきらめがあるからダメなんだ。
『運命を変える!』
『運命を変え、世界を救う!』
『誰もやらないなら俺がやってやる!』
 俺の中にその決意が生まれた。
 俺は14歳。マリーは6歳。マリーは永遠に6歳のままだ。
 βを首席で卒業するころに気が付いた。
「俺に発明は不可能だ」
 あれは天から与えられた才を持つ者の業(わざ)であり、そういう人種のものだ。自分でも自負できるぐらい学問は修めたし、こと機械の構造に関しては十分に自信があった。しかし、発見・発明は別の次元のものだ。高みに来たからこそわかることもある。
 それでも俺は『運命を変え、世界を救う』と決めていた。
 ある日、マリーから貰った、形見のAI付きぬいぐるみドール『マリーン』(俺が名付けた、マリーは『ネコちゃん』と呼んでた)が、俺にこう告げた。
「天才は理論の発見をできるけど、それを具現化する人が必要です。ヤマバ、あなたは具現者になればいいのです」
「マリーン。……なるほど、そうか。それが俺の役割か……」
『ヤマバ、運命を変えて世界を救って。たくさんの命を救って。生まれてくる子供たちに未来を作って……約束ね』マリーの声が聞こえた気がした。
 その後、俺は世界トップの機械総合メーカー『リコウ』に入り、宇宙開発部門を志望して、世界中のブレーンとのパイプを作った。

「ヤマバ、ヤマバ!」
「……マリー?」
「到着しました」
 マリーンだ。マリーンの優しい声がする。そうか、自動運転中だったな。
「マリーを思い出していたのですね」
「ああ」
「マリーはいつもあなたのことばかり話していました。あの日も『ヤマバが太陽からわたしを助けてくれるの……』って、弱々しくそれでも嬉しそうに言っていました」
「ああ、その時がついに近づいているんだと思うよ」
「ヤマバ、あなたも救われるのですね」
「世界を救うことができたら、自分の中で決着をつけることができると思うんだ。あの何もできずに、ただ受け入れるしかなかった弱かった自分に」
「マリーは言っていました、『太陽から逃げて、あなたとずっといっしょにいるの』って」
「ああ」
「マリーも連れて行ってあげたかったですね」
「代わりに君を連れていくよ」
「そうね、マリーの形見ですからね」
「明日からいそがしくなるなあ」
「そうです。体は大切にしてください。マリーからヤマバのことおねがいって言われているのですから」
「え?」
「言ってなかったですか。マリーはその最後のころ。『あなたのことおねがい』って私に告げて、医者に私をヤマバに渡すように伝えました。『わたしがいないとヤマバ泣いちゃうし、話し相手もいなくなっちゃうし』と」
「……知らなかったな……」
「ちょっと、泣かないでください」
 酔いのせいだ。
 俺は、しばらくマリーンの中で泣いた。
 思い出の中のマリーは優しく微笑んでいた。

 だからさ、桜の花の舞うAC.TOKYOでお前を見た時は拍子抜けしたよ。でも、一目で俺が補佐するべき、天才なんだってわかった。ムカつきを感じていたαチルドレンにもかかわらずな。
 そうだな、その日の話をしようか。

 あの日、俺は緊張していたんだよ。運命を変える日が始まるってな。
 俺が研究室に入ったすぐ後に来た、色白のひ弱そうなボクちゃん。それがお前だった。とにかく動きが不審だったぜ? 顔は真っ青で、ゆらゆらと揺れているかと思ったら、いきなり倒れそうになって……そのまま外に連れ出したよ。そしたら「そ、装置が作動して時空が歪んでいる……」って!
 傑作だ! αの人間はやっぱり俺たちとは違うと思った。
 俺は元来人間嫌いだ。もちろん大人になってからはメリットのための人間関係を結ぶことはできるようになっていた。だが本当の友達は、マリーとマリーンしかいなかった。でも、お前と話したその数回のやり取りで、既に俺の心はお前を受け入れていたんだよ。
 不思議だ。
 その夜に、初めて一緒にワインを飲んだ。本当に楽しかったな。そしてそこで、お前の異質な知性と天才ぶりを感じたよ。一発で『ああこれが本当の天才。発見・発明をする人種なんだ』って思った。心地よかった。俺は、俺の夢のためのパートナーを見つけたんだと思った。同時にお前が叶えたいと思う夢をなんでも叶えてやるって思ったよ。
 本当だぜ?
 でも本当にあの夜は楽しかったよ。後日店に行ったらマスターに、「顔もタイプも全然違うけど、かわいい弟さんね。紹介して」って言われて、噴き出したよ。

 桜の舞う入所式の日。
 もうひとつ俺はとんでもないものを見つけた。
 研究室に入ったとき目に飛び込んできた、金色の髪と金色の瞳……マリー、君が現れたのかと思った。
 あの冷たかった君はAIボディの偽物で、隠れて成長して、目の前に現れたのかと思ったよ。
 今でも相変わらず人見知りなんだろうなと思いながら、君を見ていた。
テキストで見る限り、マリーと同じように両親のデータはなかった。私邸で育ったということ以外、ほとんどの情報は隠されていた。私邸で育つなんて普通あり得ない。もしかしたらお偉いさんの子供なのかもしれないと思った。
 俺の直感は、アンジョーはどこかで必ずマリーとつながっていると言った。
 確かめようなんてない。
 でもそれでもよかった。
 アンジョー、君を太陽から救えれば、マリーを救ったんだと自分の中に落とし込める。
 君との出会いは、俺にとってはそういう特別なものだった。

 そしてシーは地球の運命と俺たちの進む道を語った。
 衝撃的だったけど全部受け入れられた。俺はこれを待っていたんだと思った。
 シーには感謝している。世界の運命を変えるために、俺をその一員に選び、使命を与えてくれた。ノボーと、アンジョーに会わせてくれた。
 シー、ノボー。俺は、お前たちのためだったら何でもやってやる。シー、あんたの言葉は全部信じる。星が運命を変えたがっているんだよな?
 ありがたい。すべてつながっている。全部俺の夢につながっている。
 アンジョー、君を救うことが、俺の新しい夢になった。

 本当に充実した時間だった。リコウ時代も充実していたけど、すべてが違った。とにかく楽しかった。真剣なのに笑いが絶えず、世界の運命を背負っているのに楽しいレクリエーションをしている気分だった。
 みんな本物の天才だからだ。今まで周りに物足りなさを感じていたから、思う存分自分の実力を出し切り、自由に動ける感じが心地よかった。
 シーとノボーで組むことが多かったから、俺はいつもアンジョーと組んでいた。
 アンジョーとのやり取りは特に楽しかった。アンジョーは基本的にいつでも機嫌が悪い。でもまだ子供だから、少しでも興味が沸くとすぐにそれに引き付けられ、のめり込んでいく。何かを吸収しているときのアンジョーは素直だった。マリーが真剣に絵を描いたり、本を読んだりする姿を思い出した。
 アンジョー、君がそこに生きているということそれだけで、俺には奇跡が起きているように思えたよ。
 始めてアンジョーをマリーンにのせた時。マリーンが一言も声を発さないのには笑った。いわく、「回路が混乱し、言語を発することができませんでした」だって。マリーンの測定装置には限界はあるけど、俺の直感だけではなく、マリーンが認識する限りも、遺伝子解析すれば、マリーとアンジョーは相当近しい存在であるという見解だった。

 そして3223年4月10日。『時空短縮法』発見パーティー。
祝賀会が政府主催で行われたけど、あまりにもつまらなかったから、俺たちがマイクパフォーマンスで盛り上げて、その後には「僕たち研究があるので……」って勝手に帰ったよな。それなのに来場者は道を開けて拍手で送ってくれたよな。あれは嬉しかった。
 その足で、マスターの店に行って、マスターのおごりでガンガン高いワインを開けて、大いに盛り上がって……その時の話もしようか。

 アンジョーが未成年で飲めないからか、最初は機嫌悪かったんだけど、シーが甘いものあげたので、ニコニコしていた。アンジョーは怒っている時の方が多かったから、その姿を見て俺も嬉しくなって、ノボーに飲ませまくったな。
 きっとアンジョーはノボーの祝賀会が嬉しかったんだと思う。
 アンジョーは、ノボーのことをいつも意識しているようだった。でも俺にはそれでよかった。アンジョーが嬉しいなら、それだけでよかった。
 相変わらず、シーはワインで酔っていた。AIは基本的に飲食しないんだが、驚く事にシーは何故かワインだけは飲めて、しかも酔いもシミュレートされていた。開発者はたぶん頭のおかしいワインマニアだ。まあ、天才と言うものはそんなものかもしれない。でもいいなぁと思った。同じ技術が分かれば、マリーンとも飲んでみたかった。
 かたや、ノボーは泥酔に近かった。
「時間が変わることが時空短縮法のきもなのです!」
「装置の技術はシンプルです」
「宇宙空間であれば、距離と時間を関係なく飛べます。ただし、先に探査機を飛ばしたデブリ(宇宙ゴミ)の調査が必要です。大気圏を出て着陸する能力さえあれば、どんな星でも行けます!」
 ノボーの話しぶりは、まるで壊れた音声再現機だった。
 シーの酔いも酷い。
「私は使徒の秘密を言いたい! でもロックが解除できない!」
 なんじゃそりゃ。
 2人が壊れているので、俺はアンジョーのところに行った。
「よお、楽しんでいるか」と聞くと、「ねえ、2人ともちゃんと帰れるの?」とアンジョーは返事をした。
「俺とマリーンで送っていくよ」
 その後たわいもない笑い話をした後に、アンジョーは「あ! ねえ、ところで、マリーって誰?」と言った。
 突然すぎるアンジョーの言葉に俺は酔いが覚めた。
「気づいてないの、たまにあんた私のこと、そう呼ぶのよ。特に酔っているとき」
「……そうか、全然気が付かなかったな」
「せっかくだから教えてよ?」
 そうだよな、別に教えてもいいよな?
 俺とマリーとの思い出。
 俺の大切な大切な思い出。
 マリーンと話す以外では初めてのことだ。

「……それで、俺は世界を救うことにしたってわけさ」
 話し終えると、いつの間にか俺の話を聞いていた、ノボーとシーが泣いていた(シーは涙こそは出してはいなかったが)。
 シーお前いったいどんなAIなんだ! と突っ込みたくなる。よくその口で『私は感情が理解できません』なんて言えるものだ。
ノボーが絡んでくる。
「ヤマバ! ヤマバ! 僕にできることないのか?」
「いや、時空短縮法を発見してくれただけで十分なんだけど……」
 次にシーが絡んでくる。
「ヤマバ、私にできることはありませんか?」
「もう、お前らいい加減にしろ!」
 酔っぱらいの相手は疲れる。
 アンジョーが俺の方を向いて言った。
「じゃあさ、私と一緒に装置作って、ノボーとシーと、ついでに世界を救おうか?」
「も、もちろん!」俺がそう言うと、アンジョーは「約束ね!」とタンポポの花みたいに、にっこりと笑った。
『約束ね』そのマリーの口癖……その話、俺まだお前らにはしてないぞ……。
「ねえどうしたの、ボケっとして」
 アンジョーが金色のキラキラした瞳で俺を覗き込んだ。

 マリー、マリー。
 マリー聞こえているかい。
 頭のいい人が、いよいよ『発見』をして、そして俺がその『装置』を作るんだ。
 君とよく似た女の子と一緒に!
 約束だ、マリー。俺は世界を救うよ!

6章 終

👇【7章 まとめ読み】6月17日 11:00

【登場人物】

ヤマバ・ムラ

世界企業リコウ社から来た、現場引き抜きの研究員。

マリー

βチルドレンで、ヤマバと共に過ごす。6歳で永眠。

ノボー・タカバタケ

ワープ理論『時空短縮法』を発見し人類を救った天才科学者。

S.H.E(シー)

【使徒】として地球の意志を聞いたスーパーAI。

アンジョー・スナー

ノボー・タカバタケのかつての研究仲間。10年来の付き合い。

コシーロ・ガート

研究アカデミー世界最高峰と言われるAC.TOKYO筆頭教授。

ユミ・クラ

コシーロ研究室助教授。コシーロとは婚姻関係。

語句解説】


【本編連載】※ビジュアル有


【4つのマガジン】


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