【4章まとめ読み】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】
【創作大賞2024参加作品】
恋愛小説部門
2部構成。全13章。13万文字。
掲載は『連載』の各章が終わるタイミング。完結:7月13日を予定。
この【まとめ読み記事】は書式を一般小説に合わせています。
【本編連載】は小説の内容は一緒ですが、以下の2点が異なります。
・web小説にあわせ、段落や改行を多くとっています
・キャラクタービジュアルがあります
【まとめ読み 4章】約3000文字
4章 Strange Waltz with SHE
SIDE(視点):ノボー・タカバタケ
西暦3230年6月(新星1年9月 青日) エリンセ
ここはどこだ?
ウインドスクリーンが透過され外の景色に変わると、そこには眩しくて大きな、青い月が見えた。
7:30。青日の朝だ。
「エリンセ……か」
頭が痛い。アルコール錠剤を飲みながら眠った。少し分量が過ぎたらしい。
昨日ヤマバを食事に誘ったが職務が忙しいらしく、会うことができなかった。ヤマバはエリンセに来てからは、政府の惑星開拓責任者として毎日飛ぶように働いていた。もともと使命感の強い男だ。きっと充実しているんだろう。彼も英雄の1人だ。彼はいずれこの星を背負っていく1人になるはずだ。
エリンセに来てからは、昼間の政府の依頼が終わると、そこから先は、空っぽな部屋の中で、眠るまでの時間を一人で過ごした。
あの頃、AC.TOKYOにいた頃。ヤマバやアンジョーと飲んでいるときもあったが、ほとんどの夜は研究室にいた。研究室にいるときは『彼女』と研究を進めるか、そうでなければ様々なことを議論しあった。
『彼女』が好んだのは美しさについて。『彼女』の知識は膨大であった。それでありながら、「私には美の概念しかない」「美しいものを見たときに心が震えるとはどういうことか、言語化して欲しい」と、美を感覚として捉えることを切望していた。
「美しいものを美しいと理解できれば、それはすでに美しさを捉えているのでは?」と僕が言うと、「人は、美に出会ったとき、身体に電流が走り、涙を浮かべ、時には膝から崩れ落ちることがあると聞いた。それは私の理解の範疇を超えているわ」と返事をした。
その『彼女』の返事に「いや、そこまで行ったら僕の理解の範疇も超えているよ」と僕は笑いながら答えた。
「ではあなたは美しいものに出会って、衝撃を受けたことはないの?」
僕は言葉に詰まった。
一度だけある。『彼女』と初めて出会った日。まるで時間がそのスピードを変えて、『彼女』の周りだけスポットライトが当たったかのように明るくなった。景色は色あせ、人々の声は消え、耳元で鐘の音がなっているかのような不思議な感覚に襲われた。
あの日から、僕の心はずっと『彼女』の方を向いている。
そのことを思い出しながら、僕は「わからないよ」と『彼女』の問いに返事をした。
「そう残念だわ」と『彼女』は呟いた。
この新しい星で目覚めるたびに、絶望を感じる。あの頃、僕たちは情熱に燃えていた。使命感とも言える。そしてそれは2人が2人でいることの証でもあった。
『時空短縮法』それさえ見つかれば、そのころ何故か、僕は2人が1つになれるような気がしていた。別々の頭脳とボディ。有機物と無機物であることを超えて。同じ思考で、新しいものを作り出す。そしてそれが人類の希望となる。僕たち2人が1つになって命を未来につなぐ。そんな強い想いで研究に没頭していた。
2人を引き裂いたのはAI新法だった。
あの頃の僕は、世の中がどのように暗く壮絶な時間を刻んでいても、それを見ないように、ただただ研究と開発、そして運用調整にのめり込んでいた。
AI新法を知らされるのは装置の完成からしばらくたってからだった。
新しい星に着く前に、僕はすでに決意を固めていた。星に名前を刻んだ時、ここで僕のやれることはもう何もないと思った。
何があろうと、僕は地球に戻る。それは僕の揺るぐことのない決意だ。
僕はもう一度布団に入った。ゆっくりと眠りに落ちていく。
その眠りは、僕の身体をゆっくりと地球へと降下させているようだった。
僕はあの日々のことを思い出す。
研究の合間に話し合っているとき、僕たちは2人でよくヴィジョンを見た。
美しいと思うもの。
『春夏秋冬』
『花』
『鳥』
『月』
『太陽』もそうだと、君は笑いながら言った。
「『昇る日』『暮れる日』。『朝日』が一番ね、『希望』の光だわ」と。
「沈む太陽を見ながら、また何度でも甦る姿をイメージする。それもまた美しい。みんな太陽の膨張を恐れているけど、太陽がなくなるほうがよっぽど、お先真っ暗よ」
そう言って笑った。
「よく笑うんだね?」と僕が聞くと、「そういうプログラムかもね」と、また君は笑った。
僕は無神経だ。
君は笑顔のまま言った。
「生まれたばかりの赤ん坊が無防備なのは、誰かの庇護を得るためよ。私たちが笑うのは、人間に受け入れられるためでしか無いのかもしれないわ」
ある日、君は僕にこう言うんだ。
「ワルツって知っている? 昔の男女の踊りよ。曲が見つかったの。一緒に踊らない?」
シー、僕はね。毎日、君と一緒に研究したこと、君とヴィジョンを見ながら語り合ったこと。2人寄り添って過ごした日々は、それ自体が僕たちのワルツだったって、今ではそう思うんだ。
あの曲が聞こえてくる。
君と再び出会い、
君と再び踊る、あの曲が。
僕は覚えている。
ヴィジョンで見た景色や、
前時代の人々が築き上げた遺跡。
それらの実物を見たいと、君が言ったこと。
一緒にいこう、どこへでも。
あぁ、懐かしき地球。
そこでまた踊ろう。
あの懐かしいワルツを。
4章 終
小説内曲『詩曲:Strange Waltz with SHE』
詩:PJ 作曲:PJ
遠く星を超え
たどり着いた先に
君はいない
思い出す
懐かしき地球
そこで君と踊った
奇妙なワルツ
『1、2、3 1、2、3
1、2、3 1、2、3
一拍、一拍 一歩、一歩
丁寧に踊って
あなたはちゃんと踊り続けて』
朝が来る
大きな月の朝
希望の星の新しい朝に
僕は1人、絶望を抱える
この懐かしいメロディ
この奇妙なワルツ
何度でも君と一緒に
僕たちのフィナーレを
太陽が焼き尽くすとしても
もう一度君と
この奇妙なワルツを
【曲動画】『詩曲:Strange Waltz with SHE』
※動画にはキャラクターイメージ画像が含まれます。
👇【5章まとめ読み】6月9日 11:00投稿
【登場人物】
ノボー・タカバタケ
ワープ理論『時空短縮法』を発見し人類を救った天才科学者。
S.H.E(シー)
【使徒】として地球の意志を聞いたスーパーAI。
アンジョー・スナー
ノボー・タカバタケのかつての研究仲間。10年来の付き合い。
ヤマバ・ムラ
世界企業リコウ社から来た、現場引き抜きの研究員。
コシーロ・ガート
研究アカデミー世界最高峰と言われるAC.TOKYO筆頭教授。
ユミ・クラ
コシーロ研究室助教授。コシーロとは婚姻関係。
【語句解説】
【本編連載】※ビジュアル有
【4つのマガジン】
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