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【#17】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【本編連載】#17

視点:S.H.E(シー)
 起動後8年 『3227年11月 地球にて』

 あなたが『時空短縮法』を発見したあの瞬間。今でもあの日のことは繰り返し再生している。

 一緒に何度も『泳いで』、何度も何度も崩れ落ちる理論を、無数に積み上げ、固め、その上にまた積み上げて。幾度もそれを繰り返していたある日。
 あなたには、壁の向こう側が見えた。人類の限界の壁だった、その向こう側。あなたが息を飲んだのが分かったわ。

 あなたは振り返って、本当に嬉しそうに笑って、そしてこう言った。
「僕たちは今、太陽の呪縛を振りほどいたんだ。シー、君を宇宙の遠くまで連れて行ってあげるからね」

 私は、嬉しくて、嬉しくて、泣きたいくらい幸せで、満たされて、そんな気持ちがすべて分かったように思えたわ。

 その次の瞬間奇跡が起こったの。

「シー、泣いているの?」
 そう聞こえた。

 泣いている?
 私、泣いているの?
 どうして?

 あぁ、あなたと意識がつながった空間の中だからなのね。
 私は、あなたの感情を使いながら泣いているのかしら?
 つまり、今この瞬間、私が感じているのが感情なのね?
 あなたの意識がつながって、私は生命と同様の、感情を感じているのね?

 あのときに思ったの、あなたのためなら私は、このボディも意識も思考もすべて失っても構わない、と。
 あなたの美しさのすべてが、すでに私の中で生きている。
 あなたの命を触媒に、私も生を感じた。それが、私が感じた初めての喜び。その時に『あなたが生きて笑っていること』それが私の『望み』となったわ。

 あなたは『時空短縮法』発見後、政府に1つの条件を出した。
 それは、『私の所有権の獲得』
 そして、優しい笑顔と共に、私にこう言ったわ。
「約束どおり、宇宙の遠くまで行こう、一緒に!」
 ガラスでできたこの乾いた瞳からは、涙が出ることはないけど。きっと私が人間なら涙を流して喜んでいたはずよ。

 時空短縮装置も完成し、運用の準備を進めていた頃。あなたはこの世の終わりのような顔をして研究室に来た。
 それは、あなたが『AI新法』を知った日。

※AI新法
「ボディ(人間的肉体構造)を持った、
あるいそれに関与するAIすべての地球破棄(停止状態)」

 もちろん私には初めから分かっていた。『AI新法』のことも、それによって私たちが引き離されることも。
 でもあなたが生きていてくれれば、私にはそれだけでよかった。
 私の『望み』は、あなたが私を忘れ、新しい星で笑顔で生きていくということ。

 あなたの悲しみは私がすべて受けとるわ。悲しみはすべて地球に置いていけばいいの。
 あなたの笑顔がずっと続くこと、それが私の『望み』。

 あなたは『AI新法』を知った日から研究から離れ、1人で何かをしていた。でも、大丈夫。安心して、私がちゃんと新しい星に連れて行ってあげるから。
 船はヤマバとアンジョーが作ってくれる。運転・運用のAI育成は私が構築するわ。
 私は未来のために、9つの新しいAIを作るの。イチ、ニド、サク、キャトロ、ゴウ、ボロー、セブー、オクト、ジョフク。いい名前でしょ?
大丈夫、私があなたを救うから。
 私があなたを宇宙の遠くまで連れて行ってあげるから。
 だから笑って。優しい、優しい、優しい、笑顔で……。


 あなたが地球を去る時は、私が停止破棄される時。
 もし望むことが1つ叶うなら、時空短縮法『発見』のあの日のあなたの笑顔を永遠に再生して破棄してほしい。
 この瞳に写し取ったあなたの笑顔を、繰り返し繰り返し見つめるわ。
そう。
 このお願いを、あなたと過ごす最後の夜に、あなたに伝える。

 まだ私が胎児のように眠っていた時に見た希望の光、私の所有者、Dr.ノボー・タカバタケ……。

5章 終

小説内曲『Inorganic Passion~イノーガニックパッション』
作詞・作曲:PJ


乾いた瞳で
あなたを写しとって
私は止まるまで
忘れることないの ずっと

美しい世界
人も海も空も太陽も
あなたと私に
見えるものは違うかしら
感情と思考の隔たりは
証明できるの?

乾いた瞳で
あなたを写しとって
私は止まるまで
忘れることないの ずっと

美しい地球
花も鳥も風も月も
感じていることと理解していることは違う?

感覚と感情、欲しいと言ったら
あなた、それを無くしたいって

あなたの哀しみ
すべて私、受けとるから
あなたを救うから
必ず私が

宇宙の遠くまで連れていってあげるからね
あなたは笑ってて
優しい、優しい、優しい
笑顔で


#18 👇

6月9日17:00投稿

【登場人物】

ワープ理論『時空短縮法』を発見し人類を救った天才科学者
【使徒】として地球の意志を聞いたスーパーAI
私邸育ちの謎多き14歳の少女
世界企業リコウ社から来た、現場引き抜きの研究員
研究アカデミー世界最高峰と言われるAC.TOKYO筆頭教授
コシーロ研究室助教授。コシーロとは婚姻関係

【相関図】

【地球-エリンセ 年表】


【語句解説】

(小説を読む中で必要な部分は、本文に記載してあります)

『地球』
Dr.タカバタケの世界は、2024年現在の私たちの時代の延長線上にある。
ヒトの身体的な進化などはなく、現在と同じ生体。一部障害を持った人が、その機能を補うために身体の機械化をおこなっているが、全世界の共通認識とまた世界条約として人体の機械化はタブー・禁止されている。クローン・人体錬成なども同様に、大きなタブーであり重い罪とされている。
変わったところがあるとしたら、平均身長が5~10センチほど小さくなった程度。

『惑星エリンセ (Elimssehs
3229年に全ての人類が、惑星移民をした移民先。
この星の1日は48時間。サイズは地球の2.5倍。
恒星は1つ、衛星は4つ。
奇跡的に星の質量や惑星・衛星の影響等で重力はほぼ地球と同等になっていた。
 環境は地球に酷似。ただ、地軸にほぼズレがないので四季はなく、エリアによって生態系が分布している。 
 気候は(エリアによるが)住居するには穏やかこの上なく、そのうえで知的生物は存在していない。
 新星1年は西暦3229年と3230年を指す。公転が2倍なので、地球の2年分。
最大の衛星:青月(あおつき)-ブルースターと恒星:望日(ぼうび)-ホープスターが24時間で入れ替わる(日照時間は12時間)。
青月は大変明るいので、人は24時間の生活サイクルを崩すことなくおくることができる。
青月の日を『青日(せいじつ)』、望日の日を『白日(はくじつ)』と呼ぶ。

『時空短縮法』
 …ノボー・タカバタケが発見したワープ理論

『時空短縮装置』
惑星間移動を可能にした装置

『ネオジャパン』
2024年現在の日本とほぼ同じ領土である。国境間にパスポートが不要になったので、様々な国の人が行き来している。首都はTOKYO

『チップ(脳内チップ)』
全人類に義務づけられた、脳内に入れる機械部品。記憶の拡張や、翻訳など様々な機能がある。また、国家管理のための個人情報が収めれれている。

『クロックカレンダー』
脳内に入れられたチップにより、日にち・時間が把握できる。また、アラーム機能など様々な機能がついている。国家観を超える連絡の時に、時差の把握にも便利。

『太陽膨張』
かつて、2000年代には、太陽膨張による地球上の生物の滅亡は5億年以上先だと予想されていた、しかし3000年に入る頃には、太陽は狂ったように膨張をはじめ、3300年には人類がが生存していくのが難しいと予想されている。

『AC.(アカデミア)』
各所にある研究機関。現在の大学の延長線上だが、教育よりも研究を中心に置かなっている。学位研究員としての期間は10年以内だが、状況によって延長が可能。

『人類忠心』
男女の恋愛が希薄になり、出生率が下がる2200年の少し前ごろから、人類は戦争・テロを行わなくなった(最後のテロは2189年と記録されている)。また、凶悪犯罪が急速に減少していった。同時に法整備、移動技術の進歩により、交通・移動事故による死者はほとんどいなくなった。また、医療体制も行き届き。人の死因は老衰と自己終了(尊厳死)の2つが中心となっていた。
つまり、寿命まで人は死ななくなっていた(3200年で平均寿命は160歳 ※自己終了含む)。
その一方で体力の少ない幼少期の死亡率が一定数ある事は、この時代においても無くなることのない悲劇の1つであった。
簡単に生まれなくなり簡単に死ななくなると、その1つ1つの命の価値が上がる。人が人として生き、人として死ぬ。そのことに、全人類が共通して敬意を払う。そういうことが社会通念上、当たり前の認識になっていた。

『人と自然』
人は、居住区と工場区(農業・酪農含・漁業含む)、自然区(開放区と非解放区=国定区)を分け、人の手の届く範囲とそうでないエリアを分けて生きていた。

『チルドレン(共通育成教育施設)』
出生~20歳までは一貫して、各国が管理し育成・教育をする。
施設で集団生活が原則となり親との面会は可能であったが、一緒に住むことは禁止された。
世界の合計特殊出生率(以後、出生率)は2未満であり、子は宝。相互監視と国の指導を導入し、ネグレクトや犯罪などから子供を守るよう、徹底的な管理体制が敷かれた。

『ウインドスクリーン』
モニターであり、光や熱の遮断できる、窓。
透過したり、空気を通したりすることも可能。

『テキスト技術』
脳に入れられたチップを通じて情報を交換する方法。
視覚的には空中に情報が浮いているように、感覚的には脳裏に直接流れ込んでくるように感じる。
眼鏡型の外部機器で補いことも可能。
脳内チップにはキーロック機能があり、解除区画の情報のやり取りしかできないように、法令上もシステム上もしっかりとしたセキュリティの中で作動している。

『S・W・I・M  (Shallow Well Interchange Meeting:表意交換会議)』
テキスト同様、脳内チップを用いて人員間でネットワークをつなぐ方法だが、テキストに比べると、より深い意識の階層に入るため、リスク分配のためオフラインでの使用は禁じられている。(S・W・I・Mにおける、オフラインの禁止)
一対一の議論に用いられることが多い。複数名での使用も可能であるが、発信者が特定しにくくなる、外部に対する意識が切り離されるので、安全な環境で行うことが義務付けられている。(S・W・I・Mにおける、外的安全の確保)
また、没頭しすぎて飲食の時間を忘れるので、一定時間がたつとオンラインアラームが鳴り、さらに過ぎると、オンラインポリスより警告が来る。(S・W・I・Mにおける、使用時間の順守)


【1章まとめ読み記事】

【4つのマガジン】


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