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【#58】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】
【本編連載】#58
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西暦3231年4月(新星2年2月)地球
僕たちが地上に降りたころ、到着したばかりの船は急冷却を済ませ、入り口を開き始めていた。その扉の向こうに、ヤマバが見えた。
「ヤマバ!」
僕が声をかけるとヤマバは手を高く上げ、「おう、みんな元気にやってるかー」と、いつもと変わらない、明るい声を聞かせてくれた。
暫く聞いていないだけなのにヤマバの声がすごく懐かしかった。
「ようこそ地球へ」シーがぺこりと頭を下げた。
「ヤマバどうして!」とアンジョーが怒鳴るように言った。
「アンジョー、俺は大統領から直々に君たちのお目付け役を仰せつかったのさ。といっても自分も地球に行くと言ったときに、交換条件として受けただけだけどな」
「われわれもいまっせー」
「博士!」
「ボロー、ジョフク!」
「あぁ、あなたたち!」
僕たちは手を取り合い、4人で再会を確認した。
「アンジョー、伝言があるんだ」そう言うと、ヤマバはアンジョーの方に体を向けた。
「ユミさんからメモを預かっている。テキストを開いて」
僕たちも回線を繋ぎ、一緒にテキストを見た。
『アンジョー、体に気を付けて。いつも笑顔で健やかに。【変わらぬ愛】をこめて。 ユミより』
隣のアンジョーを見ると、その金色の目から、大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「ノボーは知らないと思うから言っとくけど、アンジョーが出発するとき、ユミさんに向かって『お母さん』って言って抱きついたんだ。
ユミさんはびっくりして、何故か一瞬大統領を見たけど、そのあとはうなずきながら、アンジョーを抱きしめたんだよ。
わかるこれ? 俺、びっくりしたよ。と言うよりも、未だによく分かってないんだけど」
ヤマバのその言葉に、僕の頭は混乱した。
「え、アンジョーとユミさんは親子だったの? ……で、昨日言っていたように、お父さんは……大統領?」
「ああ、大統領はちがうの、育ての親というか、なんか複雑な話で……
あ! でもシーはみんなの頭の中に入ったからいろいろ知っているんでしょ?」
アンジョーのその言葉に、シーは当たり前の事実を伝えるように、平坦な声で言った。
「あ、はい、アンジョーはユミさんの娘。正確にはユミさんの娘であるマリーさんのクローンです」
「」
「」
「」
僕たちの時間が止まる。
時空が歪んでいるかもしれない。
初めてシーを見たときのようだった。
たっぷり20秒は沈黙があっただろう。
その沈黙を破るように、ヤマバが口を開いた。
「もしかしてマリーって、あのβチルドレンで俺の後にくっついていた……」
「はい、マリーゴールドのマリー。6歳でその生涯を閉じますが、ゼン、つまり大統領がクローンとして生き返らせました。その使命を果たすために。ユミさんもそれを知っています。口止めされていましたけど。
お父上は残念ですがすでに亡くなられていますね。
そして、クローン作りをしたそのまま、大統領が自分の館でアンジョーを育てました」
混乱だけが、その場を占領していた。
「そして、ノボーのお父さんは……」
シーがそこで言ったとき、ボローが割り込んできて「まあまあ、シーはん、もっとゆっくりと話さんと、みんな頭の処理が間に合いまへんがな」と言った。
ヤマバとアンジョーはお互いを見つめ合いながら、言葉を探しているようだった。
「ほな、伝言タイムの続き行きますさかい」とボローが言った。
「わしは大統領からの伝言ですー。……んん、んんん!」
何やら声の調整をしているかと思ったら、ボローは大統領の声で話し始めた。
「やあ、お前たち、ゼンだ。ノボー、ヤマバ、アンジョー、そしてシー。みんな、そろっているな。
お前たちに言いたいことが1つある。お前たちはまだまだ始まったばかりだ。新しい未来を作れる。
シー、もう一度星の声を聞くんだ。死の運命は既に変わった、新しい使命がお前たちに生まれるはずだ。地球は何も禁止していないし、何も否定していない。自分たちの思うように生きるんだ。
えー、なおエリンセの全星民に対して、こう宣言した。
『英雄たちは新たな使命のために旅立った! 新たなる挑戦の中、ふとエリンセに立ち寄ることもあるだろう。その時は温かく迎えてほしい!』と。
ヤマバの乗っていった船は万能型だ。……つまり、たまには俺に顔を見せに来いってことだ。以上!」
しばらく僕たちは、その場に立ち尽くしていた。
夕焼けがすべてを赤く染め始めた。
その真っ赤な炎の塊をまぶしそうに見つめながら、ヤマバが呟いた。
「おっさん、俺も確かにご褒美受け取ったぜ……」
それから大きな声で「さて、ノボー! 号令かけてくれないか?」と言った。
ヤマバの突然の振りに、僕はどうすればいいかわからずオロオロしていると、「私、決めました!」とシーが大きな声で言った。
「ん? どうしたんだ、シー」と、ヤマバが尋ねる。
「あのダイブの後、私自分の身体のロックが解けていることに気が付いて、いろいろ調べてみたの。そしたら私の中に人の遺伝子があった」
「え?!」とアンジョーが声を上げた。
「つまり、私は子供を作れるの。私たち子供を作るのよ。そしてその子供のための未来を作るの」
そう言って、シーはまっすぐ僕を見つめた。
アンジョーは腕を組み、顎に手をやって、目を瞑った。そして目をあけるとシーを見て呟いた。
「遺伝子培養からの再現、外部受精、人工子宮に少し手を加えれば……可能だわ」
「そいつはすげーや!」
ヤマバは嬉しそうに大きな声を上げ、僕の背中を叩いた。
「さあ、ノボー。あとはお前しだいだ」
そう、あとは僕しだい……。
僕は、一度大きく深呼吸をしてから、夕焼けに染まる3人を見つめ、誓いを立てた。
「みんな、結婚しよう。そして僕らの子供たちに、未来を創ろう!」
大きな声でそう宣言した。
僕たち以外誰もいない地球中に、その声が響いているようだった。
「もう一度あの研究室からはじめましょう」とシーが言った。
「うおおおおおおーー燃えてきたー」とヤマバは両腕をつきだして吠えるように言った。
アンジョーは声を出して泣いていた。
実はこの日のために改造していたんだと、ヤマバがマリーンを船からおろし「さて、皆さん。俺のマリーンXでしばし夢のクルーズに出発だ!」と言った。
「シャンパンも持っていこう!」と楽しそうに言うアンジョーの涙は、もうすでに乾いているようだった。
「あんさん、わしらも忘れんといてなー」
「ボローさんはいつも、いい時にうるさいんですよ」
ヤマバは思いついたように「そうだ、落ち着いたらお前らにもボディを作ってやるよ」と言った。
一瞬間が空いて、ボローとジョフクから歓喜の声が上がった。
僕らはみんなで笑った。シーが僕の笑顔を見て笑っている。
にぎやかな声が、誰もいない夕焼けの地球に響いている。
僕たちは、地平線に沈んでいく太陽を見つめながら、明日も太陽が昇ることを、心から望んでいた。
12章 終
#59👇
7月19日17:00投稿
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【語句解説】
(別途記事にしていますが、初回登場語句は本文に注釈してあります)
【1章まとめ読み記事】
【4つのマガジン】
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