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【PTOT国試対策】パーキンソン病

パーキンソン病の概要

パーキンソン病は、神経変性疾患の一種で、特に黒質ドパミン神経細胞の変性によって引き起こされる錐体外路系の代表的な疾患です。進行性のこの病気は、主に孤発性と家族性(遺伝性)の二つに分けられ、大部分は孤発性に分類されます。孤発性の原因はまだ完全には解明されていませんが、神経毒説やフリーラジカル説などが提案されています。一方、家族性の原因遺伝子は既に特定されています。通常、好発年齢は50歳から60歳ですが、40歳未満で発症する場合は若年性パーキンソン病と呼ばれます。

治療方法としては、薬物療法が主流ですが、手術療法や磁気刺激療法、リハビリテーションも行われています。将来的には、幹細胞移植や遺伝子治療による治療が期待されています。進行速度は個人によって異なりますが、平均寿命には一般の人々との差は見られません。しかしながら、長期にわたる治療、リハビリテーション、およびケアが必要であり、病状が進行すると、運動障害、認知機能や精神機能の障害、薬の副作用などにより、在宅での生活が困難になることがあります。

病態

パーキンソン病やパーキンソン症候群を理解するには皮質基底核ループなどの基礎知識が必要になります

akira magazineから引用
医歯薬出版社 病気が見えるvol.7より引用

中脳黒質緻密部の変性によりドーパミンが不足し基底核の機能不全が起きてしまいます。

パーキンソニズムとは

パーキンソン病症状を呈する状態をいいます。原因によって3つに大別されます。

  • パーキンソン病によるもの

  • 他の疾患によるもの(脳血管性、薬物性、中毒性)

  • パーキンソン病以外の変性疾患

症候性パーキンソニズム

  1. 脳血管性パーキンソニズム:脳血管障害によって、線条体などの大脳基底核ループが障害されることで生じます

  2. 薬物性パーキンソニズム:降圧剤、胃腸薬、抗精神病薬を長期間、かつ大量服用することでドパミン受容体機能を遮断し生じます

  3. 中毒性パーキンソニズム:マンガン、一酸化炭素、二硫化炭素、メチルアルコールなどで線条体ニューロンが障害を受けて生じます

  4. パーキンソン病以外の変性疾患

    • 多系統萎縮症

      1. 線条体黒質変性症:パーキンソニズムが主体

      2. オリーブ橋小脳萎縮症:小脳症状が主体

      3. シャイ・ドレーガー症候群:自律神経症状が主体

    • 進行性核上性麻痺

    • びまん性レビー小体病

    • ハンチントン舞踏病

  5. その他

    • 正常圧水頭症

    • 慢性硬膜下血腫

症状

運動症状【四大症状】

  • 安静時振戦:初発症状として最も見られやすい。左右差があり、N字型もしくは、逆N字型に拡大する。左上肢→左下肢→右上肢→右下肢など。上肢では丸薬まるめ運動(pill rolling tremor)が代表的で1秒間に4~6回のふるえが起こる。下肢ではタッピング様振戦がおこる。何か動作をしようとする(企図する)と振戦は抑制され、精神的緊張が伴う場合は増強されます。

  • 筋固縮:大脳基底核の運動制御機構が障害され、筋緊張が亢進する。筋の収縮と弛緩のバランスが崩れ、同時収縮を起こして関節が受動運動に対して抵抗するようになる。筋固縮は、動作時にも同時収縮によってエネルギー消費を増大させ、運動後の疲労感を増強させます。

    • 鉛管現象:関節の動かし始めから終わりまで一様に硬い

    • 歯車現象:安静時振戦リズムが加わり、抵抗が断続的にみられる

    • 頭部落下徴候:背臥位で他動的に頭部を持ち上げた後に手を離すと、頭部がすぐに落下せずに、徐々に落下する。

    • フロマンの手首の固化徴候:固縮の程度が軽度でわかりにくい時は、非検査側で指折りをしてもらったり、計算問題などをさせつつ検査側の手関節を他動的に動かします。その時に抵抗を感じれば陽性です。ジェンドラシック法に似てますね。

    • 腕木信号現象:肘を机につけて前腕を立てたときに、手関節の力を抜くと、正常だと90°屈曲しますが、固縮があると、屈曲せずに手が上向きのままとどまります。

    • 逆説性収縮:正常だと筋を他動的に短縮させると、筋は弛緩するはずですが、逆に反射性に筋が収縮することをいいます。

    • ウェストファル現象:逆説性収縮を利用した検査法で、足関節を他動的に内返し、背屈させると、前脛骨筋腱が隆起し、手を離してもそのままになる現象です。

  • 無動・寡動

    • 仮面様顔貌:無表情になり、眼が一点を見つめるようになる

    • 声が小さくなる

    • 動作緩慢

    • 小字症

    • dual taskの障害

    • 左右で別々の課題ができない(缶をあけるときに、左手で缶を抑えて、右でプルを上げるなど)

  • 姿勢反射障害(国試では立ち直り反応低下と書かれることも)

    • 立位姿勢は前傾姿勢を示します

    • 彫像現象:立位から後ろに引く(pull test)と、そのまま棒のように後ろに倒れてしまう現象

    • 無動寡動と並んでADLに大きく影響を及ぼす障害で、ヤールの分類Ⅲに入るかの基準になります

    • 原因:無動寡動や固縮など相互の影響、網様体脊髄路による姿勢筋緊張制御困難などが考えれられています。

感覚障害

  • 痛み

    • 筋肉、骨関節、ジストニア、脊髄や末梢神経の圧迫、中枢神経異常などが原因で起こりやすい。

  • 嗅覚障害

精神系障害

  • 抑うつ

    • 縫線核の障害、セロトニン系の異常により起こると考えられています

    • パーキンソン病において縫線核は黒質よりも先に障害されるため、抑うつはパーキンソン病の前駆症状と考えられています。

  • 認知機能障害

    • レビー小体型認知症との鑑別が臨床的に難しいです。

    • 認知機能障害が、パーキンソン症状が出てから1年以内であれば、レビー小体型認知症、それ以外は認知症を伴うパーキンソン病とする「one year rule」が用いられます。

  • 幻覚・妄想

    • 幻視が最も多く、虫がみえることが多いようです。

  • 睡眠障害

    • 不眠

    • 覚醒リズム障害

    • REM睡眠行動異常

    • 日中過眠

    • レストレスレッグス症候群

自律神経系障害

  • 便秘

    • しばしばイレウスなどを生じることもある

  • 排尿障害・神経因性膀胱

    • 蓄尿障害(尿意切迫感、頻尿・夜間頻尿、切迫性尿失禁)が主体になります。

  • 起立性低血圧

    • 原因にはパーキンソン病によるものと、抗パーキンソン病薬によるものどちらもあります。

  • 食事性低血圧

  • 脂漏性皮膚・脂顔・網状青斑

  • 性機能障害

  • 発汗障害

    • 下半身の発汗機能の低下に対する代償性の上半身の発汗亢進が起こりやすいが、症状は一様ではありません。

  • 嚥下障害

    • 先行期から食道期のすべての段階で障害が起こります。

    • 舌のすくみが問題になることが多く、食塊形成と送り込みが上手くいかないようになります。

ADL

  • 歩行障害

    • すくみ足

      • スタートヒジテーション:歩行開始時

      • リーチングヒジテーション:目標の直前

      • ターニングヒジテーション:方向転換時

      • ナロースペースフリージング:狭いところ

      • spontaneous sudden transient freezingスポンテニアスサドゥントランジェントフリージング:突然おこる

    • 小刻み歩行

    • 突進様現象

    • 方向転換困難

その他

  • Myersonマイアーソン徴候:眉間を繰り返しトントンすると、正常だと慣れて瞬目をしなくなるが、パーキンソン病患者の場合長時間継続する

評価尺度

Hoehn-Yahrホーエン・ヤール重症度分類

  1. 片側のみの障害で、機能低下はあっても軽微

  2. 両側性または体幹の障害で、平衡障害はない

  3. 姿勢反射障害が出現、ADLの介助は必要としない

  4. ADL障害が高度になり、介護を必要とする。歩行と起立保持は自立する

  5. 寝たきりもしくは、車椅子生活で、全面的に要介助

UPDRS

  • 四部で構成されている

    • Ⅰ部「精神機能、行動および気分」

    • Ⅱ部「日常生活動作」

    • Ⅲ「運動能力検査」

    • Ⅳ「治療の合併症」

  • 項目数は42項目

  • 各項目は0-4の5段階、一部は0-1の2段階

  • Ⅱ部の日常生活動作は薬の効果on時、off時両方を評価する、Ⅲ部の運動能力検査はon時に検査する 

診断基準

  1. パーキンソニズムがある

  2. 脳CT又はMRIに特異的異常がない

  3. パーキンソニズムを起こす薬物・毒物への暴露がない

  4. 抗パーキンソン病薬にてパーキンソニズムに改善がみられる

以上の4項目を満たすとパーキンソン病と診断します
2,3ではほかのパーキンソニズムを示す疾患との鑑別のために行われます
また、4ではほかのパーキンソニズムを呈する疾患では、パーキンソン病に比べて、抗パーキン薬が効きにくいことが根拠にあげられます。

治療

薬物療法

国試において、薬物はジスキネジアなどの副作用、またはLdopaの長期投与による問題点について問われることが多いです。

  • L-dopa(レボドパ)

    • 作用:黒質ドパミンニューロンへのドパミン前駆物質の補充

    • 副作用:悪心・嘔吐、不随意運動、精神症状(幻覚、妄想)

  • ドパミンアゴニスト(ドパミン受容体刺激薬)

    • 作用:線条体ドパミン受容体に結合し、ドパミン様作用を示す

    • 副作用:吐き気、精神症状(幻覚、妄想)

  • 抗コリン薬

    • 作用:ドパミン枯渇により相対的に優位になっているアセチルコリン系機構を遮断する

    • 副作用:高齢者でときに精神症状

  • アマンタジン(ドパミン遊離促進薬)

    • 作用:線条体に結合したシナプスからのドパミンの放出を促進   ジスキネジア対策に用いられることがある

    • 副作用:精神症状(幻覚、妄想)

  • MAO-B阻害薬(モノアミン酸化酵素阻害薬)

  • COMT阻害薬(カテコールアミンメチルトランスフェラーゼ)

    • 作用:ニューロン末端から放出されたドパミン代謝を抑制する

  • DCI合剤(デカルボキシラーゼ阻害薬)

    • 作用:Ldopaが脳内に移行する前に代謝されるのを防ぎ、Ldopaのままで血液脳関門を通過させる

Ldopa長期服用の問題点

  1. wearing offウェアリングオフ現象:Ldopaの効果時間が短縮し、Ldopaの血中濃度の変動に伴い、症状の日内変動が起こる現象です。

  2. on-off現象:Ldopaの血中濃度とは無関係にパーキンソニズムが出現する現象です。

  3. delay onディレイオン現象:通常、Ldopa服用から効果が出るまでに一時間かかると言われています。受容体の感受性低下や消化管機能低下により効果を発揮するまでの時間が延長することをdelay onといいます。

  4. up and down現象:症状が服薬の足袋に軽快、増悪を繰り返すことをいいます。

  5. ジスキネジア:不随意運動の一つ。身体各部位に出現し、舞踏病様運動や、ミオクローヌスなどの比較的速い運動や、ジストニアやアテトーゼのようなゆっくりした運動までさまざま。

  6. 悪性症候群:Ldopaの急な中断、あるいは抗精神病薬の服用、脱水などでおこる。高熱、精神症状、自律神経症状、錐体外路症状が出現。治療が遅れるとDIC、腎不全、ミオグロビン尿が出て重症例では死亡することがある。

リハビリテーション

  1. すくみ足:外部刺激を増やすことで歩行リズムが整う(逆説歩行)

    • 視覚的工夫:目印になるものをまたぐようにする。歩行の動線にテープなどをはる。最近は目印をレーザー光線で地面に照射する杖などが販売されています。

    • 聴覚的工夫:メトロノームや掛け声を聞きながら歩く方法です。

  2. 注意点:前方から引くように介助をすると突進やすくみを助長します。

国家試験において誤りになる選択肢

  • 企図振戦、失調などの小脳症状、病的反射などの錐体路障害が誤りとして出題される傾向があります。

  • 左右対称性に発症

  • 反張膝、大殿筋歩行、はさみ足歩行などの他疾患の異常姿勢、異常歩行

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