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【ネタバレなし】鳥好きな30代主婦が「君たちはどう生きるか」を見た感想

今日は、11か月の娘を旦那に預けて、一人映画を見てきた。
宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」。
とてもよかったので、感想を書き残したい。

事前の宣伝は一切なかったし、前情報も一切入れずに見に行った。
見終わった感想は、「すごい」。
そしてこの興奮を的確に伝えられる言葉が見つからない(笑)

言葉にしようとすればするほど陳腐な感想となってしまうのだが、感想をどうしても残しておきたい。今、2023年の夏に生きる自分がこの映画を見てどう思ったのかを書き残したい。

いったいどんな映画なのか?

映画を見る前、正直そこまで期待していなかった。
ジブリ映画はほぼ全て見ているので、数年ぶりの新作だし、監督はこれをもって引退だと言っているし、見ておくか、くらいの感じだった。

「君たちはどう生きるか」なんてタイトルからして、説教くさい映画だといやだな…という懸念があった。

たとえば、戦争中を生き抜く少年のいきざまや、発展途上の国の少年が困難にも負けず生き抜く姿を描いて、「我々世代はこんな困難にも負けずたくましく生き抜きましたけど、さあ君たちはどう生きますか?!」と投げかける系の映画なら見たくないな…と思っていた(私はゆとり世代である)。

しかし、その懸念は開始数分でなくなった。

確かに、時代設定は戦時中~戦後数年の日本なのだが、戦争映画でも、ドキュメンタリー的映画でもない。

ジブリがトトロの時代から作ってきた、ファンタジー映画に違いなかった。

設定的に言うと、千と千尋の神隠しに似ている構造で、現実とそうでない世界が出てきて、千と千尋ではトンネルがその境界線だったが、この映画は現実と向こうの世界との境界がよりあいまいだ。

どこからが現実で、どこからがあちらの世界なのか、単なる夢なのか、とてもあいまいに描かれている。
しかも、あちらの世界も何層か分かれていて、「一体ここはなんやねん」「どないなってんねん」と言いたくなるシーンがたくさんあった。

宣伝ゼロだったこの映画の唯一の事前情報は、ポスターのドアップの鳥である。正体はアオサギ。わりと日本のどこにでもいて、一年中見られる鳥だ。
この映画には鳥がとにかくたくさん出てくる。
しかし、愛鳥家が喜ぶような多種多様な野鳥が出てくるわけではない。
出てくる鳥はせいぜい数種類。それが何百羽と出てくる。
何かの象徴なのかもしれないが、映画の中で重要な要素のようでいて、そうでもない。
この映画で描かれる鳥は、まさに「鳥頭」と言いたくなるようなバカで、時々恐竜時代の面影を見せるように不気味で、でもいなくなるときは「飛ぶ鳥後を濁さず」を体現するかのように、あっさり、何も残さない奴らだ。

自由に飛び回る鳥が多く出てくるのも、現実とあちらの世界との境界をあいまいにしている要因だと感じた。

この説明を聞いても、訳がわからないだろう。
一体、どんな話なんだと。

あらすじの説明がとても難しいのだ。
無理にでも説明しようとするととても陳腐になる。

それほど言葉を超えた表現、まさにアニメーションにしかできない表現がつまった映画なのだ。

こんなおそろしい映画をドンと置いて引退する宮崎駿監督はかっこよすぎる。

今の時代は「コスパ」「タイパ」なんて言葉が重宝される時代。
曲も、イントロが長い曲は聞いてもらえないからとどんどん削られ、
動画さえも、数秒で明瞭な結果がわかる短い動画がもてはやされる時代。

その時代にこの明言された説明のないが示唆に富む物語を創り出すエネルギーに経緯を表したい。

確かに従来のジブリ作品を期待して行くとかなりのわかりにくさはある。といっても全く意味不明な話でなく、一応筋書きというかストーリーはあるのだが、象徴性がとても高いので、見る人によって抱く感想は異なるかもしれない。
私が理解した、受け取った感想を記したい。

私が理解した「君たちはどう生きるか」のテーマ

私が感じた映画のテーマは「生と死」である。

(ほらね…言葉にした途端ありきたりでつまんなくなったーーー笑)

このクソみたいな汚い世界に、それでも生きるのか。
桃源郷のような理想を追い求めて亡霊のようにさまようのか。

そもそも生きるって何なのか。
長い地球規模のスパンで見れば、先祖からの命を引き継いで一生を終える生きものの一つにすぎないのに、なぜ人は生きることに意味を求めてしまうのか。

結局は人は人の中で生きていくしかないのだ。

生きることには常に「喪失」がつきまとう。
大事な人やものを亡くすことの喪失はもちろん、この世のすべては諸行無常であり、この目の前の1秒が過ぎるごとに全ては過去のものになり、二度と戻らない。それは若さであり、過去の栄光でもあるだろう。

喪失はかなしく、つらいため、真正面から向き合っていると、そのかなしみの大きさに圧倒されて生きることが嫌になってしまう。

でもやりようはあるのではないか。
冒険について来てくれる「トモダチ」や、
お地蔵さんみたいに見守ってくれているご先祖様がいるから。

これからの時代を生きていくヒントをくれた映画に感じた。

全然説教臭くなくて、でも励ましてくれるんでもなくて、
次世代に対する同じ目線のエールを感じた。

主題歌が米津玄師の意味

この映画が従来のジブリ映画と違うのは主題歌の人選である。

私は特に米津さんの曲を普段から聴くわけではないが、”ボカロ”出身で今の流行の曲の潮流を生み出した才能あふれるアーティストの一人と言ってよいだろう。

これまでのジブリ作品の音楽と言えば、久石穣さんが作曲して、声優さんや知る人ぞ知るクラシカルな歌手の方が歌うことが多かった。

ポップスが主題歌になったこともあったが、「風立ちぬ」では宮崎駿監督の世代にもなじみのあるユーミンの名曲が使われた。

今回はユーミンではなく、米津玄師である必要性があった。
若く才能あふれる人に主題歌をやってほしかったのだろう。

これまで築いてきた叡智を次世代に託すためにも。

映画を見終わったあとのエンドロールで伏線の大回収。
鳥肌が立った。

で、結局どんな映画?

しかし、この私が理解したテーマも、伏線も、映画ではセリフや説明で明言されているわけではない。

そのため、見る人によっては「意味がわからない」という感想で終わってしまうのもそれはそうだと思う。

何度も言うが、このコスパ一辺倒の超合理的時代に、この一見不合理でわかりにくい物語をぶっこんで引退する(と宣言しているが本当かわからないけど)宮崎駿監督はすごい。

「君たちはどう生きるか」は、言葉を超えた感動を味わうことができ、人が生きることの普遍的なテーマへの重要な示唆を与えてくれる映画だ。


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