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年を食ってから心理職にキャリアチェンジして食べていけるのか

 直球ですが,大切かつ切実な問題について投稿します。
 日本でキャリアチェンジが難しい理由は,「長時間労働で勉強する時間が取りにくいから」など様々あると思いますが,筆頭は「食っていけないから」「食っていけるか不安だから」になるのではないでしょうか。
 従来型の教育・雇用体系はこうした転職を想定していませんでした。

 しかし,放送大学の心理系講座の活況や受講者層を見ても,一度社会に出てから心理学を勉強したい,あるいは勉強した心理学を活かして仕事をしたい,という方はそれなりの数おられるものと推測します。そこで,今回は標題について私なりの考えを書いてみたいと思います。

1.そもそも心理職は食っていける職種なのか

 ネットで「心理職」というワードで検索を掛けようとすると「心理職 食えない」などがサジェストされます。これについては私の考えるザックリとした結論だけを示したいと思います。想定は指定大学院修了の公認心理師・臨床心理士です。

(1) 「食える」か「食えない」かで言うと「食える」
  より正確には「食っては行ける」
(2) 有期雇用・非常勤掛け持ちは当たり前の世界で安定は求めにくい
(3) 高年収を目指すには他職種よりもスキルと戦略が重要

 公認心理師という国家資格が創設されて状況が改善されていく可能性はありますが,そうは言っても名称独占資格に過ぎません。業務独占資格ですら,産児制限をかけて需給バランスを取らないと資格そのものの価値は漸減していきます。このことは公認会計士・社労士あたりの現状を見れば明らかです。
 長年の供給過剰が是正されずに来た当業界は尚の事厳しいと言わざるを得ません。

2.年を食った未経験者の場合

 さて,本題です。
 どのような業界であれ,高齢未経験者の就職は難しい訳ですが,心理職の世界においてもそれは同様です。私が仕事で関与している官公庁のカウンセリング委託業務などにおいても

「公認心理師・臨床心理士もしくは産業カウンセラーの資格を保有する者で,3年 (5年) 以上 の臨床経験を持つ者」

といった資格要件がついていることが多いです。では,その3年なり5年に至るまでの経験をどこで積むんだという話になる訳ですが,まあこれが本当にないのです。

 臨床心理系の大学院生の場合,世の「シューカツ」や転職活動と異なり,市中の求人や一般の募集に応募することは少なく,大学院に求人元から募集が来たり,前任者が離職に際して大学院の後輩に後任を依頼してきたりということが多いので,多少探しやすくはありますが,好条件の場合には希望者が重複し,基本的に若い方の方が有利です。

3.で,結局食えるのか食えないのか

 では,高齢未経験者に望みはないのかというと,必ずしもそうではありません。以下にいくつかの選択肢を示したいと思います。

(1) 公務員
 「心理職」としての枠がある自治体が多く,年齢制限に掛かりにくい30代前半くらいまでなら有力な選択肢かと思います。ただし,中には東京都のように59歳までとしている自治体もあります。また,昨今は就職氷河期世代へのフォローとして比較的高齢の人への求人枠を設ける自治体も出てきています。ただしいずれも高倍率です。
(2) 研究者
 もともと大学院に行くだけの探究心のある方なら博士課程も一選択肢かと思います。博士課程在学中は奨学金(博士課程は比較的返済免除になりやすい)や,SC・講師などのバイトで食いつなぐことは可能です。ただ,研究実績を上げて就職することの難度は極めて高いです。
(3) フリーランス・経営者
 心理職に求められるのは心理学に関する高度な専門的知識・スキルばかりとは限りません。私が関わる領域で言えば,職場のメンタルヘルスに関する研修などは,内容自体は比較的平易ですが,それをいかに分かり易く,実践可能な形で,相手に響くように伝えるか,の方が重要になってきます。フリーとしてこうした仕事をしている方も一定数おられます。
 また,自分一人でできないことをやるために自らが事業所を開設するという選択肢も考えられるでしょう。理想の放課後デイサービスを作るんだ,といような。
 これらについても資金面や営業能力等々クリアしなければならない問題が多くあり,軌道に乗せるまでの道のりは平坦でないことが予想されます。

(4) その他
 ここまで読まれて「それは無理ゲーでしょう」と思われた方も多いかと思います。割合的にはこの「その他」に属する方が大半で,どうすればいいんだということになりますが,大きく分けると以下の三つのやり方があろうかと思います。
①これまでの専門性を活かす
 「これまでのキャリアにおける強み」+「心理」。自らの強みは一般的な転職でも必ず考える事かと思います。「心理に関わりの薄い業界・職種から来たからそんなのないよ」という方もおられようかと思います。しかし,強みは必ずしも心理の近接領域にある必要はありません。
 一例として,英語スキルを挙げます。現在,英語で心理検査が取れる人手を欲しがっている所は多く,引く手あまたです。他にも「ITスキル」+「心理」,「ライティングスキル」+「心理」,「営業スキル」+「心理」など色々あるでしょう。
②コネの活用
 人脈と言い換えても良いかと思います。心理職の求人の結構な割合は表に出てこずに大学の先輩後輩などで引き継がれており,雇用側として「信頼できる人に任せる」ことを採用ポイントの上位に置いていることが窺えます。
 年嵩の方の場合は待ちの姿勢でなく,例えば実習先・バイト先などに自分から売り込んでいくような積極性が必要になるでしょう。もとより実習生を受け入れてくれる先は理解のある所が多く,信頼関係は築きやすいのではないかと思います。
③自分で需要を掘り起こす
 一例ですが,SCの配置事業は公立校から先行しておこなわれましたが,こういった状況になった場合,自ら私立学校に売り込んでいくような積極性や良い意味の図々しさ,フットワークの軽さを持っていることは仕事に直結しやすいです。
 私が働いている産業領域にせよ,各職場にメンタルヘルスの問題がないから仕事がないのではなく,そこに投資したり制度化したりする文化が浸透していないから仕事がないのです。鉱脈があることは多くの人が知っていますが,様々な理由で手が付いていないのが現状です。
 こうした需要の掘り起こしは年齢関係なく力を発揮しやすく,相手も聞く耳を持ってくれる事が多いのではないでしょうか。私の大学院の同級生でも心理職採用の枠のない地元の施設に自ら売り込んで就職した非ストレートの方がおられました。

 上記①~③はそれぞれに独立でなく,「知り合いが独立するのに自分から○○要員として売り込んで参画する」といった合わせ技も考えられます。

4.まとめ

 ここまで述べてきたことをまとめると,年を食ってから心理職にキャリアチェンジしてそれ一本で食べていくことは非常に厳しいという事実は動かし難いと思います。ただ,以下の2点を心掛けることで道が開ける可能性はあります。

・自らの強みを活用する,あるいは積極的に売り込んでいく
・「心理」という枠に囚われず,できることがないか少し幅広く考えてみる

 「真面目にカリキュラムをこなせばどこかの相談室でカウンセリングの仕事に就ける・病院に雇ってもらえる」ということはまずありません。
 あと,自戒を込めてですが,人生経験を積んだ人の方が若い人より心理職に向いているとか就職に有利ということも決してありません。

 ただ,必ずしも心理一本でやっていく必要もなければ自分一人の稼ぎで食っていく必要もない訳で,生活基盤は別の仕事や配偶者の収入,不労所得に頼りながらも,焦らず非常勤・アルバイトなどから経験を積んでいく,というのも心理職として立派なキャリア形成だと思います。

 この世界を志される方が年齢に関係なく活躍されることを祈ってやみません。

※とりあえず考え中心で一旦投稿しますが,データなども用いてもう少し記事をブラッシュアップしたいと思っています


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