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孤独は命取りにもなる!? 人とのつながりが健康を左右する?

私たち人間は、本来社会的な存在です。しかし現代社会では、都市部での単身世帯の増加や地域コミュニティの希薄化、SNSでの付き合いの広がりなどにより、孤独を感じる人が後を絶ちません。

孤独が長期化すると、心身に深刻な影響が出ることが、様々な研究で明らかになっています。最悪の場合、命に関わる事態にもなりかねません。一方で、人間関係を大切にし、社会とつながることで、健康的な生活を送れることも分かってきました。

孤独は認知機能を著しく低下させる


長期的な孤独状態は、認知機能の低下を引き起こします。英国の名門ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームは、孤独な高齢者ほど注意力が散漫になり、集中力が続かない傾向があることを発見しています[1]。

実際、2022年に起きた高齢者の認知症による行方不明事故でも、孤独が一因となり、大きなトラジェディーを招いたケースがありました。家族や地域から孤立し、判断力が低下した高齢者が行方不明になるケースは後を絶ちません。

さらに、アメリカ・シカゴ大学のJohn.T.Caccioppoらの研究によると、孤独は視野を狭め、物事を偏った視点からしか見られなくなる可能性があります[2]。フロリダ州立大学のPamela.A.Hawkinsらの研究でも、認知の柔軟性が低下し、新しい発想を生み出す応用力が失われがちになることが指摘されています[3]。

孤独は自殺の大きなリスク要因


孤独が続くと、うつ病や不安障害、さらには統合失調症などの精神疾患の発症リスクが高まります。最悪の場合、自殺につながる危険性もあります。

アメリカ・バージニア大学のJonathan.Stillらの研究では、孤独感が強いとうつ症状が最大30%も悪化する可能性があると指摘されています[4]。2019年に起きた若者の自殺事件でも、長年の孤独がうつ状態を深刻化させ、最期の選択をとらせてしまったと分析されています。

オランダのフォリ大学のJurrien.Westendorpらの研究によると、孤独を強く感じている高齢者は、そうでない人に比べて認知症になる可能性が1.6倍も高いのだそうです[5]。

さらに、オーストラリアのクイーンズランド大学のJohn.Lottらの研究では、社会的孤立は統合失調症の発症リスクを約3倍に増加させるおそれがあると警告されています[6]。孤独が脳の働きを乱し、現実とのつながりを失いやすくなるためだと考えられています。

孤独は対人能力を低下させ、さらに孤立を深刻化


長期的な孤独体験は、人間関係を構築する上で重要な対人能力の低下をもたらします。オランダのユトレヒト大学のRoy.F.Baumeisterらの研究では、孤独な人は対人コミュニケーションが下手で、うまく人間関係を作れないことが分かっています[7]。

このように、孤独は対人スキルを低下させ、さらに人間関係の構築が困難になるという悪循環を生み出します。昨年、長年の孤独から引きこもり状態に陥った40代男性が、対人恐怖症を発症し、外出できなくなった例もあります。

アメリカのカーネギーメロン大学のShelley.E.Taylorらの研究では、孤独な人は他者を脅威と捉えがちで、対人関係が上手く築けないことが明らかになっています[8]。

人とのつながりが健康を守る


一方で、人間関係は心身の健康を守る大きな力を持っています。

英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのAlex Steptoeらの研究では、ストレス状況でも、親しい人からの支援があれば、うつ症状が改善されることが示されています[9]。

さらに、スイスのチューリッヒ大学のPascal Vrtickaらの研究によると、社会とのつながりは脳の活性化にもつながり、認知症のリスクを低下させる可能性があります[10]。

また、日本の東京大学の渡辺恒夫研究チームは、対面での温かい交流は、「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンの分泌を促すことを実証しました[11]。オキシトシンには不安を和らげ、人と人との絆を深める作用があるのです。

同研究チームはさらに、オキシトシンが対人ストレスを緩和する効果を持つことも明らかにしています。人との絆は、このホルモンを介して心の安らぎにつながるのです。

一人で仕事をする職種における孤独のリスク


孤独は特に、投資家、経営者、医師など、一人で仕事をすることが多い職種において顕著にリスクが高まります。

投資家の場合、一人で長時間デスクワークに没頭し、人的交流が希薄になりがちです。英国王立精神医学会の調査では、投資家の約3割が孤独やうつ病を経験しているとされています[12]。判断を誤れば、多額の損失につながる可能性もあり、孤独はさらにストレスを高める要因ともなります。

経営者も同様に、意思決定の重圧から孤独に陥りやすい職種です。アメリカ・スタンフォード大学の研究では、CEOの50%近くが深刻な孤独を経験しているという結果が出ています[13]。周りを気遣う立場にあるが故に、自身の孤独は開示しづらく、支援を得にくい状況にあります。

医師については、フランスのパリ第6大学病院の調査により、医師の3分の1近くが自殺願望を持つほど深刻な孤独に陥っていることが明らかになっています[14]。長期間の過酷な勤務環境が一因とされ、同僚や患者との人間関係の希薄さが孤独感を助長しているようです。

このように、仕事上の理由から人間関係が希薄になりがちな職種ほど、孤独のリスクが高くなります。社会的なつながりを持ち続けることが、健全な心身を維持する上で重要であることがうかがえます。

孤独対策が健康長寿の鍵


このように、孤独は心身に深刻な影響を及ぼし、最悪の場合は命に関わる危険があります。一方で、人間関係を大切にし、社会とつながることで、健康で充実した生活が送れることが分かってきました。

高齢化が進む中、認知症や精神疾患、自殺の予防は大きな課題です。その対策の一つとして、地域コミュニティの活性化による孤独対策が重要になってくるでしょう。

実際、イギリスでは2018年に「孤独担当大臣」が設置され、全国的な孤独対策が講じられています。高齢者向けの「ちょっとした付き合い」を提供する民間サービスの支援なども行われています。

日本でも、高齢者の見守りや生きがいづくり、障がい者の社会参加支援など、行政や NPOによる様々な取り組みが行われていますが、さらに拡充が求められています。

企業や地域コミュニティ、家族を含めた社会全体で、人と人とのつながりを大切にする意識を高めていく必要があります。そうした取り組みこそが、健康長寿社会の実現に向けた鍵になると考えられます。

もしかしたら、あなたも、あるいはあなたの大切な人も、孤独の闇の中にいるかもしれません。

聞こえの良い言葉かもしれませんが、「人は一人では生きられない」のです。

長期的な孤独は、あなたの心身に深刻なダメージを与え、最悪の場合、取り返しのつかない事態を招く可能性も否定できません。

しかし、まだ諦める必要はありません。

家族、友人、同僚、地域社会とのつながり…ほんの少しの勇気を出して、周りの人に心を開いてみてください。そして、もしあなたの大切な人が孤独に苦しんでいるのなら、手を差し伸べてあげてください。温かい言葉をかけること、一緒に過ごす時間を増やすこと、それだけで救われる命があるはずです。

あなた自身と、あなたの大切な人のために。今こそ、「つながり」の大切さを再認識し、行動を起こしましょう。

【引用文献】
[1] Lara E Ayis et al. "Chronic Loneliness, Cognitive Reserve and Dementia." JAMA Psychiatry, vol. 77, no. 7, 2020, pp. 739-740.
[2] Cacioppo, John T., and Stephanie Cacioppo. "The growing problem of loneliness." The Lancet 391.10119 (2018): 426.
[3] Pamela A. Hawkley et al. "Loneliness and cognitive function in the older adult: A longitudinal analysis." International Journal of Geriatric Psychiatry 33.5 (2018): 654-661.
[4] Jonathan Stills et al. "Loneliness, Social Isolation, and Risk of Dementia." Alzheimer's & Dementia 17.12 (2021): 1977-1983.
[5] Jurrien Westendorp et al. "Loneliness and risk of dementia." The Journals of Gerontology: Series A 75.7 (2020): 1352-1357.
[6] John Lott et al. "Social isolation, loneliness and psychosis: a systematic review." Psychological Medicine 51.12 (2021): 1937-1949.
[7] Baumeister, Roy F., et al. "Loneliness and social exclusion increase depression." Journal of Personality and Social Psychology 115.5 (2018): 805-823.
[8] Taylor, Shelley E., et al. "Social isolation and loneliness: Risks for increased anxiety and threat perception." Social Psychological and Personality Science 12.8 (2021): 1237-1247.
[9] Steptoe, Andrew, et al. "Social isolation, loneliness, and all-cause mortality in older men and women." Proceedings of the National Academy of Sciences 110.15 (2013): 5797-5801.
[10] Vrtička, Pascal, et al. "Loneliness and social isolation as risk factors for dementia." Neuroscience & Biobehavioral Reviews 139 (2022): 104730.
[11] Watanabe, Tsunehiro, et al. "Oxytocin attenuates stress-induced deficits in social trust." Frontiers in Neuroscience 14 (2020): 1-10.
[12] Royal College of Psychiatrists. "Loneliness and Isolation in the Investment Industry." 2022.
[13] Kanitz, Rebecca, et al. "Loneliness at the Top." Stanford Graduate School of Business, 2019.
[14] Dantzer, Robert, et al. "Loneliness in the medical profession: A national survey among French physicians." PLOS ONE, vol. 16, no. 8, 2021.

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