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免疫とCOVID-19 其の四 T細胞免疫のお話 獲得免疫③

こんにちは。今回も拙文をお読み頂き本当に恐縮です。改めて免疫とCOVID-19のお話ですが、今回は特にT細胞による細胞性免疫に焦点を当ててゆきます。

COVID-19に対する全体的な免疫を考える上で、恐らくこの細胞性免疫が前回解説した抗体による液性免疫より、より本質的に最も重要で

「肝の中のキモ」

ではないかと個人的には考えています

なので今回はより一層気合を入れて専門的にゴリゴリ、でも、できるだけわかりやすく、科学的本質を説明していきたいと思います。

この分野だけでも教科書一冊書けるくらいの夥しい科学的知見がありますが、本質的に重要な部分をともあれ、読んでくださった方のご理解が深まるようざっと説明しながら、そこに関連する現在のCOVID-19におけるT細胞免疫の研究にも触れていきたいと思います。どうか最期までお付き合いいただけましたら幸いです。

1・T細胞は胸腺内で成熟と分化を遂げて、自己と非自己を認識する。

先ずT細胞の誕生と成熟からお話させて頂きます。T細胞は前述のように胸腺で育ち、成熟後抹消リンパ組織へ移行します。

胸腺(Thymus)とは一次性リンパ組織で心臓のチョイ上辺りにある臓器ですが、子どもの頃に大きくて、大人になるにしたがって小さくなってしまいます。そんな地味な?臓器ですが、人間の免疫にとっては無茶苦茶重大な出来事が起ります。

何がここで起るかというと、骨髄で生まれた未分化T細胞が、胸腺で「自己と非自己を認識」できるように成熟と分化を遂げます。

具体的に何が起るかというと、先ず最初にT細胞受容体(TCR)という、外来異物抗原を認識する膜貫通受容体蛋白質が作られてゆきます。抗体産生の時みたように、様々な外来異物である多種多様な抗原に対応できるよう、ここでもT細胞受容体遺伝子の組み換え再編成による多様性が獲得されます。

この時非常に重要なことは、胸腺でT細胞受容体が発現していく過程で、MHCという蛋白質が不可欠なことです。MHCは脊椎動物の殆ど全ての細胞膜上に発現して、このMHC上にペプチド(数個のアミノ酸の繋がり=蛋白質が分解されたもの)を提示します。

MHCとは、主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex)という長たらしい名前の膜蛋白質ですが、獲得免疫においては最重要の役割を担っていますMHCには非常に多くの多様性があり、各人各様違います。

ヒトではHLAと名前がつけられた遺伝子座にコードされ、多種多様な形があります。臓器移植などで拒絶反応が起るのは、個人個人のHLA遺伝子が違うからです。移植でドナー登録をするのは、拒絶反応を防ぐため、このHLAの型が出来るだけ合うようにするためです。HLAは当初、白血球の抗原として発見されましたが、その後あらゆる細胞に多種多様に存在することが分かりました。なんでこんな多様性があるかというと、おそらく均一集団だと、ある感染症が勃興した時、脆弱だとその種が全滅しちゃうと思うんですよね。だから進化的にバリエーションが多数生み出されたと考えるのが自然です。

簡単にいうと、T細胞は胸腺内におけるその成熟と分化において、自分自身のMHC/ペプチドと緩く結合できるT細胞受容体を持ったT細胞のみが選択的に生き残り(「正の選択」)、自分自身のMHC/ペプチドに強く反応し過ぎるT細胞受容体を持つT細胞は排除されます(「負の選択」)

さらに掘り下げて説明すると、T細胞は免疫として働くに際して、自分自身のMHCに提示された抗原としか反応せず、これを「MHC拘束」といいます。そして、T細胞がその機能を獲得するためには胸腺の働きが必須であり、胸腺内において自分自身を認識するT細胞受容体を持つT細胞のみが選択され、あまりに強く自己抗原と強く反応してしまうT細胞受容体を持つT細胞は排除されます。

文章だけでもなんなので、拙い図で申し訳ないですが(滝汗)、ちょっと下のように図解してみたいと思います。ちなみにT細胞受容体はCD3という蛋白質と複合体を形成していますので、基本的にT細胞はCD3+となります。また、胸腺内での成熟分化の過程で、後にヘルパーT細胞などになるものはCD4という抗原を発現し、キラーT細胞(細胞傷害性T細胞=CTL)になるものはCD8という抗原を発現するので、前者をCD4+、後者をCD8+と呼称したりもします。

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2・T細胞の活性化及び免疫応答の仕方

前ふりが延々長くてすみませんでしたが(冷汗)、いよいよT細胞による具体的な免疫応答を解説していきましょう。前回の液性免疫の抗体は武器で言ったら飛び道具みたいなものですが、T細胞による細胞応答、特に細胞傷害性T細胞=CTLの場合は、江戸時代の火消しのように、ウイルスなどに感染した細胞そのものを直接ぶっ壊して感染を防ぎます

具体的に詳述させてください。

先ず、前述したようにウイルスなどの外来抗原が生体の細胞上皮などに侵入した際、ウイルス蛋白質が細胞内でペプチドにまで分解されます。ウイルス由来のペプチドは、脊椎動物のほぼあらゆる細胞に普遍的に発現するMHC-I上に載せられます

そして、細胞傷害性T細胞=CTLの活性化にはヘルパーT細胞による活性化が必要です。

そして、生体上皮細胞の他、前述の抗原提示細胞(APC)である樹状細胞やマクロファージに感染したウイルスは、やはりそれらの抗原提示細胞の中でやはり分解を受け、今度はMHC-IIという蛋白質に載せられ、その抗原由来のペプチドをMHC-IIとともにヘルパーT細胞に提示します

抗原を提示されたヘルパーT細胞は抗原提示細胞によって増殖&活性化され、ヘルパーT細胞はインターフェロンγ(IFN-γ)やインターロイキン2(IL-2)などを放出し、最終的にキラーT細胞=細胞傷害性T細胞=CTLを活性化します。

活性化されたキラーT細胞はMHC-I上に提示された抗原を認識して、感染した細胞ごと破壊するよう、細胞膜を破壊する蛋白質などを放出して細胞を破壊します。

また、活性化されたキラーT細胞は制御性T細胞(Treg)により抑制されまたT細胞の一部はメモリーT細胞として、次回以降に同じ抗原が侵入した際、迅速に免疫反応が起こせるよう、残ります

複雑かもしれませんが、まとめましょう。

1・ウイルスが生体の上皮細胞内などに感染し、ウイルス由来抗原ペプチドが上皮細胞上のMHC-Iに載せられる。
2・抗原提示細胞(APC)に感染したウイルスは、同じくウイルス抗原由来のペプチドがMHC-II上に載せられる。
3・抗原提示細胞(APC)によりMHC-II/抗原ペプチドを介して活性化されたヘルパーT細胞は、インターフェロンγやIL-2を放出して、キラーT細胞を活性化する。
4・活性化されたキラーT細胞は、生体上皮細胞のMHC-I/ペプチドをT細胞受容体で認識し、感染細胞を破壊する。
5・細胞傷害性T細胞抑制は制御性T細胞(Treg)が担い、一部のT細胞がメモリー細胞として次回以降の抗原侵入に備える。

こんな感じです。グラフィカルに分かりやすい動画があるので出しますね。

3・SARS-COV-2とT細胞免疫

で、やっとSARS-COV-2との絡みです。

たまげることばかりですが、なんとSARS-COV-2はMHC-Iをダウンレギュレートさせて、細胞傷害性T細胞免疫を回避するという報告がありました。まさにステルスのようなおぞましさです。これじゃ細胞性免疫が機能しないから細胞内にずっと居座る可能性すらあります。抗体も長持ちしないでT細胞免疫回避するなんてどこまで厄介な奴だとかなり衝撃的でした。

少し明るい話題は、コロナウイルスは普通一般の風邪のウイルスなので、SARS-COV-2に感染していない人でも、過去に感染したコロナウイルスに対するT細胞免疫(メモリーT細胞)で、交差免疫がどうやらあるらしいと報告があったとことです。

また、制御性T細胞を重症COVID-19に使ったら、効果があったという報告もあります。

細胞性免疫分野は抗体以上に未知な領域が沢山ありますが、今後のワクチン開発は如何に強固なT細胞免疫を作り上げることが出来るか、という部分にかかっているのかな、と私個人としては率直にそう感じています。

未解明な部分が山積ですが、楽観主義で今後の科学の進展の明るい話題に期待したいと思います。

言葉足らずで、上手く伝わらない部分も多々あると思いますが、抗体に劣らず(というか、抗体産生にT細胞は不可欠)、今後のT細胞研究に期待したいと思います。

今回も長々お付き合いいただいて有り難うございます。

よかったら、次回はサイトカインやTh17の役割に触れられたらとお思います。今日もここまでお読み下さって有り難うございます。

どうかくれぐれも皆様感染しませんように。

それでは、また。よろしければ今後も是非よろしくお願いします。

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