【感情】感情は表に出せば消えていくのか
カウンセリングやコーチングの世界では、感情を表出せずに溜め込んでしまうことは良くないことだと言われている。
何かしらの感情が表出しそうになった時、その感情をグッと抑え込むと、一瞬はその感情は消えてなくなったように感じるけれども、実際は無意識の奥の方に眠っていて、また何かの拍子に現れてくるものなんだって考え方が一般的だよね。
でも、実際はそうなんだろうか。
前回の【感情】の記事では、William James の感情生成理論を軽く紹介したよね。
今回は前回よりももう少し具体的に書いてみるんだけど、Jamesの理論では、外部からの刺激を体の抹消(いわゆるのうや脊髄以外の体の部位や内臓のこと)が感じ取り、変化が生じる。
その抹消部分の変化を脳が認知することによって感情が生じるんだったよね。
だから、Jamesの感情理論は『感情の抹消説』とも呼ばれているんだ。
彼が初めて感情理論に関する論文を出したのは1884年で、それは "What is an emotion" という論文だった。
その論文は主に3つの構成部分から構成されていて、まず一つ目が『感情体験を成立させる脳内機構について』。
そして2つ目が『身体反応が伴う感情の種類の限定』。Jamesは感情の生成に先行する身体的な反応や変化を重要視していたわけだから、当然ながら彼が対象とする感情は身体的な反応を伴うものに限定されるんだよね。
そして、3つ目に『内観に基づいた感情体験の成立過程』について議論した後、最後に脳内メカニズムの話に戻って終わるんだ。
この論文では、Jamesはあくまで自身が提唱した感情体験の生成に関する脳内メカニズムの仮説が正しいことを証明したかったんだ。
彼が感情理論についての研究を始めた時、脳k学的には主に2つの仮説があった話は前回もしたと思う。
まず一つ目は、『感情の座』のような、完全に感情に特化した脳内機構、つまり脳の部位が存在するって考え方だったよね。
そして、もう一つは、もうすでにその機能がわかっている脳の部位の働きによって、副次的に感情が生起されるって考え方だったよね。
つまり、感情に特別な脳の部位が存在するかどうかが論点だったわけ。
そして、Jamesは後者を支持してたんだよね。
彼は、感情に特別な脳の部位なんて存在しないと思っていたんだ。そして、この論文はそれを証明するためのものだったんだ。
その後の研究で、彼の理論に間違いがあったことは明らかになってきてるんだけど、完全に否定できるほどに頓珍漢な事を言ってるって感じでもないと思うんだよね。
例えば、前回にも書いたと思うんだけど、彼は論文の中でこんな事を言っている。
非常に有名な一説だ。
もし、僕たちが何かしらの感情を感じた時に、それに先立って身体的な反応や変化が何もなかったとしたら、僕たちは感情を感じることはないだろうってことだね。
つまり、身体反応は感情の生成にとって必要なものだってことだね。
ただ、この論文の中に少し気になるところがあったんだ。
もしかしたら間違った事を言ってるかもしれないが、ぜひ考えてみてほしい。
彼の論文の中で『身体反応と感情体験の強さの関係性について』という箇所があるんだけど、そこに『逃げることで恐怖が強められ、悲しみを表現することで、その感情は強められるし、感情を表出しないようにすれば、感情はそこで終わってしまう。』という内容のことが書いてあるんだ。
つまり、逃げるという身体反応を脳が認知することで恐怖という感情が強まっていき、泣いたり悲しみを表現するという身体反応を通して悲しみという感情が強化されるということだよね。
彼の身体説とやはり合致した内容だ。
そして、時と場合によっては、確かにそうだよなって思うこともあるの。
僕が18歳の頃、イギリス人の彼女がいたんだけど、その子が日本からイギリスに帰っちゃうってなった時、その前日一緒にいたんだけど、めちゃくちゃ悲しくなってきていつぶりか分からないくらい久々に号泣したの。
その時に、泣けば泣くほど悲しい気持ちが強くなって涙が止まらなかった事を覚えているよ。
だから、自分の行動や身体的な変化が感情を生起させたり強めたりするのもわかるんだよ。
だけど、冒頭で話したような、カタルシス理論とは矛盾しているよね?
カタルシスっていうのは感情の浄化のことなんだけど、感情を溜め込むんじゃなくて吐き出すことで、その感情が体から抜けていきスッキリするよって考え方ね。
これはフロイトが提唱して、精神分析の世界なんかでもよく行われている。
James Pennebaker という心理学者が、リタイアしたアーミーを対象にトラウマ体験をなるべく詳細に紙に書き出すってことを4日間続けさせると、彼らの心の傷が和らいだって研究結果があるのね。
これもまさにカタルシス効果なんだけど、William James の理論によると、感情を身体的な反応として表現すればするほど感情は強まってしまうはずだ。
なのに、時にはその感情が和らいでいくこともあるという。
それはなんでなんだろう。
もしかしたら、そこには『言語』の力が関わっているのかもしれない。
自身の感情を言葉にすることで感情をコントロールできるようになることがある。
つまり、言葉と感情の間には何か特別な関係があるのかもしれないね。
感情は表に出せば消えていくのか。
最後まで読んでいただきありがとうございました。