ロイホ

「お好きな席どうぞ」

私は国道沿いのロイヤルホストでそう言われると、迷わず窓側の四人席を選んだ。ここでは車がミニカーのように見え、人々の営みがちっぽけに見えてくる。私はここのカレーが好きだ。カレーは液状ではなく、ロイヤルホストのようにキーマ状の方が好ましい。

カレーを頬張りながら窓に目をやると看板が見えた。マンションの壁面に貼られている看板で、住人は苦情を言わないのか分からないが、近所のプール施設の案内が書かれていた。小学生の頃そこによく行ったものだ。クラスメイトの女子と偶然会い、水着姿に大した有り難みも感じずに軽く会釈を交わしたものだ。

ドリンクバーに行く。氷はグラスの三割ほどで、そこにコーラを注ぎ込む。泡で溢れそうになって注ぐのをやめると泡が消えて、結局あまり入ってなかったりする。初恋を思い出す。あの頃の、溢れんばかりの情熱。クラスが別々になった途端に関係は無くなってしまった。コーラ一杯で心の深淵を抉られた気がした。

席に戻る。生まれてから死ぬまでに一体どれぐらいの人と出会うのだろう。受験にしろ、出世にしろ、恋愛にしろ、なにかと"競争"やら"戦争"といった形容がつきまとう。人々は入試に合格するために、高い地位と収入を得るために、最高のパートナーを見つけるために、限りある席を奪い合う。人生は椅子取りゲームの連続である。そんな渦中に疲弊しながら、さっきのウェイトレスの言葉を思い出す。

「お好きな席どうぞ」

何とも能天気で、それだけに幸せである。

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