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冬(雑談)

竜太郎「冬っていいよね。」

わびすけ「そう?冬が好きなの?」

竜太郎「好き。」

わびすけ「秋の方が良くない?過ごしやすいし。」

竜太郎「今そんな話してないだろ。」

わびすけ「え?俺、論点ズレてた?冬の比較対象として秋を提案しただけなんだけど。」

竜太郎「例えば彼女に『仕事と私、どっちが大事なの?』って聞かれたら困るだろ?」

わびすけ「その例えの方がよっぽど論点ズレてない?」

竜太郎「じゃあお前、冬とトマトどっちが好き?」

わびすけ「その質問は俺がトマト嫌いなのを知っての狼藉だろ。」

竜太郎「だから夏に比べて冬が良いよねって話だっただろ。」

わびすけ「初耳なんですけど。え?じゃあ寒いの平気なの?」

竜太郎「そんな訳ないじゃん。」

わびすけ「何なの、こいつ。」

竜太郎「でも暑いよりはマシだよ。寒いのは着込んだりジョギングしたりすれば何とかなるけど、夏の暑さは全裸になってジョギングしてもどうしようもないし、警察が追いかけてくる。」

わびすけ「素っ裸で外を走り回るからだろ。どうしようもないのはお前だよ。」

竜太郎「冬は楽しいイベントも多いしね。」

わびすけ「夏も色々と楽しいことはあると思うけど。」

竜太郎「夏には無いよ。」

わびすけ「いやいや、そんなことないよ。全否定するなよ。海水浴とかできるし。」

竜太郎「冬でもできるでしょ。」

わびすけ「凍え死んじゃうだろ。」

竜太郎「でも冬にふんどし姿のおじさんとかが海で泳いでニュースになったりするよ?」

わびすけ「寒中水泳な。それは楽しいイベントと言うより“修行”のカテゴリーだから。」

竜太郎「それに比べて冬には冬にしかないイベントがある。」

わびすけ「まあ確かにクリスマスとか正月とかあるけどね。」

竜太郎「何と言っても節分ね。」

わびすけ「節分、そんなに楽しい?」

竜太郎「めちゃくちゃ楽しいでしょ。テンション上がる。逆に正月なんか来ても別に『うひょーーっ!』ってならないだろ。」

わびすけ「節分だってそんな風にはならないよ。」

竜太郎「例えば正月が池で溺れてたら飛び込んでまで助ける?」

わびすけ「どういう状況だよ、それ。想像できないんだけど。」

竜太郎「俺は節分がトラックに轢かれそうになってたら『危ないっ!!』って大声で叫ぶからね。」

わびすけ「…身を挺してまでは助けないのか。声を出すだけね。あまり熱意が伝わってこないけど…。そんなに節分って楽しい?」

竜太郎「楽しい。だって恵方巻食べれるんだよ?」

わびすけ「大の大人が恵方巻でそんなにテンション上がる?」

竜太郎「大好物だから。大好物だから。」

わびすけ「2回も言わなくてもいいよ。そのパッションはちゃんと伝わったから。」

竜太郎「ただ年に一回しか食べられないのが難点なんだよなー。」

わびすけ「節分以外は巻き寿司を食べればいいんじゃないの?恵方巻って巻き寿司の節分限定ネームだからね。同じものだから。」

竜太郎「いや、節分に食べるから美味しいんじゃないか。わかんないかなー。ムードの無い男だなー。」

わびすけ「節分にムードもへったくれも無いだろ。巻き寿司を一本食いして煎り大豆をばら撒くイベントだぞ。ちなみにさ、今年の恵方ってどっちなの?」

竜太郎「どうだったかな…。“北北北”じゃなかったかな。」

わびすけ「ただの北じゃん。真北ってこと?そんな言い方する?」

竜太郎「大体毎年方角を三つ組み合わせたヤツじゃない?“東南西”とか。」

わびすけ「“東南西”なんて方角無いけどな。“北北西”とか“南南東”とかはあるけど。適当に架空の方角を産み出すの止めてくれる?たしか恵方巻って恵方を向いて食べる以外にもルールがあったよね?」

竜太郎「くちゃくちゃ音をたてないとか?」

わびすけ「いや、そういう一般的な食事でのルールじゃなくて節分特有のヤツよ。黙って食べなければいけない、とか。」

竜太郎「へえ、それはなんで?」

わびすけ「食べてる途中で喋ると福が逃げるって言われてる。」

竜太郎「他にある?」

わびすけ「恵方巻は切って食べてはいけない。」

竜太郎「へぇ、そうなの?」

わびすけ「これは幸運や縁が切れる、ってことで縁起が悪いとされているんだって。」

竜太郎「へぇ。他には?」

わびすけ「お前、全然恵方巻きのこと知らないな!好きなんじゃないのかよ。」

竜太郎「好きだけど知らないもんは知らないよ。お前だって車好きだけどどっちがアクセルかブレーキか知らないだろ?」

わびすけ「俺をプリウス老人みたいに言うな。知らないわけがないだろ。」

竜太郎「じゃあさ、ポテトサラダが好きでも何でできてるか知らないだろ?」

わびすけ「芋だよ、イモ。“ポテト”サラダって言ってるんだから。お前、話の持って行き方下手だなあ。」

竜太郎「お前は自分の娘のこと好きかもしれないけど、娘はお前のこと好きかどうか分からないだろ?」

わびすけ「それは違う話だろ!流れに関係ない話だよ。突然そんな悲しい話題をぶち込んでくるなよ。」

竜太郎「恵方巻なんて美味しく食べたらそれだけで幸せなんだからいいじゃないか。」

わびすけ「いやまあ、いいんだけどさあ。」

竜太郎「あとは豆を食べて豆撒きをして。」

わびすけ「俺等くらいの年になったら年の数だけ豆を食べるっていうのがちょっと辛いけどね。」

竜太郎「だから俺は虫歯の数だけ豆を食べることにしてる。」

わびすけ「なんだよそのエキセントリックなルール。虫歯治さないと豆どころじゃないだろ。歯医者に行けよ。」

竜太郎「何と言っても節分のメインイベントといったら豆撒きだよね。」

わびすけ「誰かが鬼の役をやったりするの?」

竜太郎「うん。うちの実家では毎年爺ちゃんがやってる。」

わびすけ「お爺さんが?ちょっとそれ大丈夫?お爺さんおいくつよ?」

竜太郎「94。」

わびすけ「絶対にやめろ。今後、お爺さんに豆をぶつけることは俺が許さん。世代交代しろよ。」

竜太郎「親父がやりたがらないんだよ。」

わびすけ「お前がやればいいだろ。お父さんもいい歳だろ。」

竜太郎「でも爺ちゃんも孫の喜ぶ顔が見れて幸せだろうし。」

わびすけ「お前もう43よ?おっさんの喜ぶ顔にそこまでの価値は無いよ。切ないけど。」

竜太郎「きっと爺ちゃん天国で俺の豆撒きを笑顔で見守ってくれる。」

わびすけ「は?お爺さん亡くなってるの?」

竜太郎「うん、そうだよ。生きてれば94歳だけど。」

わびすけ「え?なに?どういうこと?」

竜太郎「毎年節分は実家に帰って爺ちゃんの遺影に鬼の面被せて線香やって豆撒いてる。」

わびすけ「仏壇に豆を投げ散らかすな!」


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