見出し画像

本当は教えたくない宿 新潟県 お宿 まつや

横浜から車で約五時間。
新潟県長岡市寺泊にある民宿が本当に素晴らしかった為、是非皆さんにもご紹介させていただきたい。
本当は教えたくないというのは本音ではあるが、お宿を皆さんに知っていただき、あの歴史の重みを感じながらもゆっくりと流れる居心地の良い時間を味わっていただけたら嬉しい限りだ。

新潟県神社巡りの旅の初日を終え、16時にお宿へ。
新潟の神社巡り前編はこちら👇

今回の宿はお宿 まつやさん。

綺麗に維持管理された茅葺き屋根の古民家

駐車場は宿前の道路を挟んだ所に広い敷地が用意されている為、安心して車で訪れることが出来る。
一台辺りのスペースも余裕がある為、タンドラやハマーH2のような余程大きな車でなければ駐車可能だろう。

敷地内に足を踏み入れると、そこはタイムスリップしたような空間が広がる。
正面には現役と思われる井戸。
そして立派な松の木と、それをぐるりと囲む散歩道。
母屋は江戸時代から数百年の歴史を持つ茅葺き屋根の古民家。
一夜限りの滞在だが、これから過ごす時間に胸が躍る。

玄関を開けると宿の方が出迎えてくれる。
土間で靴を脱ぎ上がった先は江戸時代当時からとは言わないまでも、古くから磨き込まれた黒光りする板の間のフロント、共用スペース。
簡単なチェックイン手続きを済ませ、部屋へ案内していただいた。

誤解しないでいただきたいのがこちらは民宿だ。
高級旅館並みの接客を求めてはいけない。
だが、とても親しみのある温かで丁寧な対応。
まるで祖父祖母の家にでも泊まりに来たような感じ。

部屋も二人で滞在するには十分な広さの和室を、昭和の雰囲気を残して綺麗にリフォームしてある。
部屋の引き戸も鍵付きの為、安心して外出も可能だ。
私達は二階の部屋だったのだが、古い家らしく狭く急な階段が懐かしい。
一段一段軋む音が鳴り響く。
これが私にはノスタルジーを感じてたまらない。
同時に音が気になるような人には向かない宿だとは感じたのだが、数百年前に「防音」という概念を期待するのが間違いで、それもこの宿の「味」として雰囲気を味わっていただきたい。
実際私はビジネスホテル等では騒音にはかなり敏感だが、全く気になることなく快適に滞在することが出来た。

ところで、八百比丘尼(はっぴゃくびくに、やおびくに)という伝説として語られる話はご存知だろうか。

とある男が歓待を受けた先の食事として出された人魚の肉(得体の知れないものと記述されることもある)に箸を付けなかった為、家主が丁寧に折り詰めにして持ち帰らせてくれた。
それを隠していた所をその家の娘、千代が見つけて食べてしまう。
その娘が結婚し、子供が出来、孫が出来る歳になっても一切歳を取らない。
人魚の肉を食べてしまった千代は不老不死の身体となったのであった。
そして孫が亡くなっても歳を取ることがない娘を気味悪がる集落の人々。
千代はその憂いから比丘尼(女性の出家者)となり数百歳で世の平和を願い旅に出る。
その際生家の前に松を植え「この松が生きている間は私もどこかで生きている」と残した。
全国各地で八百比丘尼伝説が残されているのはこの旅で語られたことなのだろう。

なんとこちらの宿が、八百比丘尼の生家なのだと伝わっているそうだ。
八百比丘尼が植えたと伝わる松
折り詰めにして持ち帰った際に、人魚の肉を盛ったであろう九穴ノ貝がこちらには残されている。
八百比丘尼の伝説は知っていたが、宿に入ってからこの伝承を知り興奮した。

千代が植えたとされる松は現在も活き活きとしている

こちらは食事も好評だ。
料理自慢の民宿は何度か宿泊したことはあるが、こちらは雰囲気も相まってとても満足した。
食事処にて供されるのだが、その食事処がまた雰囲気抜群だった。
立派な梁には神棚が複数あり、そのどれもが古くから祀られてきたのがわかる。
こちらの名物がパフェのように盛られたお造り。

新鮮な日本海の恵み

そしてなんとお宿から一人一本、熱燗をサービスしていただけるとのこと。
それを食事処にあるパチパチと心地良い音を立てて燃える囲炉裏に吊るされた鉄瓶で、自分で熱燗をつけるというのだ。
なんと粋なサービスだろう。
日本酒好きにはたまらない、囲炉裏というこちらの宿の特徴を上手に使った体験型のサービス。

囲炉裏で暖まりながら燗を待つ

米所新潟。
酒も美味いし、それに合わせる料理も美味い。
辛口の酒が刺身の旨みを際立たせる。
夕食は鯛のお茶漬けで〆だ。
ちなみに朝食は自家製米コシヒカリを存分に楽しめる構成となっていた。

11月の新潟の夜は流石に冷えるが、エアコンも設置されているし、各所にストーブが焚かれ暖かい。
数百年の建物でこのように暖かく過ごすことが出来る、宿の気持ちが嬉しい。

その他、気になるであろうポイントを記載しておきたい。

携帯電話の電波は悪いが、フリーWi-Fiは普通に使える。

周辺にコンビニ等の店は無い。

玄関に良心的な金額の自販機有り。

風呂、トイレ、洗面所、冷蔵庫は共用。
部屋に冷蔵庫は無い。

風呂は男女別で、洗い場は二つ。
一部屋毎に短時間で済ませる配慮が他の宿泊客のためになるだろう。
使用中札がドアにあり中から鍵が閉められる為、安心して入浴は出来る。
ちなみに温泉ではない。

トイレは一階はウォシュレット付きの洋式。
二階は水洗和式。
気になる方は一階を利用すればよろしいかと思われる。

トイレ、洗面所も宿泊客の部屋の目の前にある為、早朝や夜遅くは気を使う。
こういった所では互いの配慮が肝要、自分達も快適な宿泊となるよういつもよりも「他の誰か」の快適を考えながら滞在したい。
古い建物は音も響きやすい為、廊下や階段の音や話し声、テレビの音量にも気を付けたい所。
ちなみに普段敏感な私だが、22時には就寝し7時まで一切目を覚まさなかった。

色々書いてきたが、私は音や不便さが全く気にならない滞在となった。
江戸時代からの古民家という味を満喫するべきだ。
「何もしない」という贅沢な時間。
日本海と山の幸、旨い酒を存分に楽しめる。

出発時刻には外の東屋で火が焚かれており、最後までノスタルジック。

絶対にまた来よう、そう思わせてくれる民宿だった。

海岸が目の前にある為、夏は海水浴がてら宿泊されるのも良いだろう。

2023年11月現在、茅葺き屋根の葺き替えクラウドファンディングが行われている。
葺き替えには一千万円程掛かると耳にしたことがある。
いつまでもこの景観を目にすることが出来ることを願うばかりだ。

本当は教えたくない。
だが、皆さんに宿泊していただき、あの素晴らしい雰囲気を味わっていただきたい。
あのような歴史ある民宿は貴重です。
訪れた際には、是非皆さんが快適に過ごすことが出来るようご配慮の上タイムスリップをお楽しみください。

実際に訪れた際の感動を味わっていただく為に、今回は敢えてまつやさんの建物内の画像を少なくしております。

この記事が参加している募集

泊まってよかった宿

一度は行きたいあの場所

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?