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AIのための読書リスト 3

自分が実際に読んだ本の中から、AIとの付き合い方のヒントになりそうな7冊を紹介する。今回は技術関連の本をまとめた。技術と人間の関係について考えたい。

01. コンヴィヴィアリティのための道具

コンヴィヴィアリティのための道具
イヴァン イリイチ
2015.10.17 (原著 1973)

現代社会を痛烈に批判した技術論。イリイチは、近代に入って登場した新しい道具に対して公平性や制御可能性、透明性を求めた。自立共生とも訳されるこのコンヴィヴィアルな思想は、加速するAIの議論にも大きく関わってくることになるだろう。

建築でもコンヴィヴィアリティは話題を呼んでいる。技術を独占せず市民に開かれた形で共有しようという発想は、大規模開発などとは真逆の自治的なアプローチで、例えば昔ながらの道具を使った民家改修の地域おこしの効果なども期待できる。生成AIについても、企業や開発者で独占された不透明なものから解放し、地域独自のデータセットなどが作れれば望ましい。

しかし、イリイチが主張することはより過激だ。知識や技術の独占をより強烈に批判し、西洋医学の否定や学校教育の見直しなどを提唱する。この文脈では、AIそれ自体が一般人からアクセス不可能な占有技術として拒絶されるだろう。技術による人間の疎外はAIにとって本質的な問題だ。


02. 技術への問い

マルティン・ハイデッガー 技術への問い
マルティン ハイデッガー
2013.11.8 (原著 1954)

産業革命以降、技術に関する哲学的議論は多くなされてきた。マルクスは資本と労働の関係に着目し、生産技術の向上による人間の労働疎外を提示してきた。イリイチは上記のようにより過激に近代社会批判を行った。そして、ハイデガーはより哲学的な問題として問いを立てた。

本書ではGe-Stell という単語がキーとなる。日本語では「総駆り立て」や「徴発性」などと訳される。難解な概念だが、制御できない技術や歴史の流れの体系の中に人間があるというイメージだろうか。すべてが技術的に解決され機能化した世界は、はたしてパラダイスだったのか。

巨大な生命体のように蠢き成長する現代技術とは、どう向き合うべきなのか。AIはその動きをさらに加速させる。存在と技術に関するハイデガーの思索は、難解ながらも多くの示唆的な内容を含んでいるはずだ。


03. テクニウム

テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?
ケヴィン・ケリー
2014.6.20 

WIREDの創刊編集長で、テクノロジーに関する書籍を多数出版しているケヴィン・ケリーによる一冊。

技術の歴史を振り返り、技術における生態系を探っていく。テクノロジーの活動空間を〈テクニウム〉と定義し、そこでのテクノロジーの振る舞いを、複雑性、多様性、自由、美、感受性、構造性、遍在性などの概念で読み解いていく。AIにより拡大したテクニクムは、果たしてどの方向に進んでいくのだろうか。

「テクノロジーの中を流れる力はただのぼんやりした情報に過ぎないのか。その力は自然なのか非自然なのか。テクノロジーはどういう意味で自然と異なるのか。テクノロジーは人間の知性から出てきたものであることは明らかだが、われわれの知性とどう違うのか」(本文より)


04. メディア論

メディア論―人間の拡張の諸相
マーシャル マクルーハン
1987.7.1 (原著 1964)

メディア論というジャンルを作り出したマクルーハンの代表作。技術により生み出されたものなどをメディアとして捉え、「メディアはメッセージである」というフレーズにもあるように、それらがどう社会や人間に影響を与えていったかを分析したもの。

第一部では総論で、「ホットメディアとクールメディア」のような有名な概念も提示されている。第二部は各論で、ラジオから車、数学や言語など、さまざまなメディアについて細かく分析される。

AIはすでに社会の中に溶け込みつつある。産業革命以降のラジオや車などのメディアに比べて、より高度で柔軟で喚起的で人間に近いAIは、より強いメッセージを発するメディアだと捉えられるだろう。社会や人間はどう変容していくのか、考えるための一冊。


05. セックスロボットと人造肉

セックスロボットと人造肉 テクノロジーは性、食、生、死を“征服"できるか
ジェニー・クリーマン
2022.8.25 (原著 2021)

高度な技術は人間の本質的活動を変容させることができる。従来の人間の規範とは全く異なる新しいライフスタイルが生まれつつある。

科学と倫理の境界でゆらぐ、21世紀の性、食、生、死。生命倫理、暴走する資本主義、ジェンダーとフェミニズム、気候変動、管理社会、ウェルビーイング……様々な命題が複雑に絡み合う最新技術開発の最前線で、気鋭のジャーナリストがその進歩や課題、あるいは華やかなシリコンバレーの起業家たちをはじめとしたプレイヤーの虚実を5年にわたって現場取材し、21世紀の「人間性」のゆくえを考察した、グレーな近未来ガイド。

高性能AIを搭載し、あなたの欲望をすべて叶えるロボットは「完璧な伴侶」になりうるか? 人工で培養した肉は動物たちの権利を守り、気候変動を防ぎ、地球を救うだろうか?


06. スマート・イナフ・シティ

スマート・イナフ・シティ: テクノロジーは都市の未来を取り戻すために
ベン・グリーン
2022.8.18 (原著 2019)

AIを駆使したスマート・シティ計画。夢の技術によって都市の問題はすべて片付くのだろうか?

本書は、スマート・シティの背後にある政治性を明らかにし、テクノロジーが都市の統治と生活に与える無数の影響に光を当てることを目的としている。多くの失敗例や危険性を明らかにしながら、技術を適切に利用した、公正で民主的な都市のあり方を、行政に詳しい著者が提言する。現代の都市に住む全ての人々のための提案。

技術進歩主義はたいてい、一つの価値観に向かって暴走してしまうものだ。完璧なAIが出来たとしても、そのAIがすべてを解決してくれるわけでは決してない。技術への過度の期待を抱がせる「テックゴーグル」を解体する。


07. 順列都市

順列都市
グレッグ イーガン
1999.10.25 (原著 1994)

記憶や人格などの情報をコンピュータにダウンロードすることが可能となった21世紀なかば、ソフトウェア化された意識となった富豪たちは、コンピュータが止まらないかぎり死なない存在として、世界を支配していた。彼らのもとに、たとえ宇宙が終わろうと永遠に存在しつづけられる方法があると提案する男が現われる。

新たなコンピュータ内の世界は、現実世界のオルタナティブであるだけでなく、拡張性や永続性は圧倒的に高い。生成AIにおける潜在空間のような、現実と隣り合わせで全く異なる世界を示してくれる。




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