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誰でもわかる「リベルサス」のはなし

Xクリニック銀座院 脂肪吸引責任者 吉田有希

はじめに

最近ダイエット薬として話題となっている飲み薬の糖尿病薬「リベルサス」ですが、今回はこのお薬について解説していこうと思います。

※僕は形成外科医なので、糖尿病薬は厳密にいうと専門外の話です。なので内服する時は必ず主治医や薬剤師さんの話を聞いてくださいね。

参考: 薬の適正使用協議会https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=48566


リベルサスはGLP-1受容体作動薬

リベルサス(RYBELSUS)は「セマグルチド:経口GLP-Ⅰ受容体作動薬」という種類の薬です。

ん????

って感じですよね。

通常お薬やホルモンは、内服して取り込まれた後に、その物質しか押せない体内のあるスイッチを押したり、スイッチを一時的に機能しなくすることにより効果を出していきます。

ここでは、まず

リベルサス=製品名
セマグルチド=リベルサスという製品の主成分のお薬の名前
経口=口から飲める
GLP-1受容体=GLP-1という物質しか押せない体のスイッチ(受容体)
作動薬=スイッチ(受容体)にくっつき、作動させることができる薬

と思って読み進めてください。
それでは解説していきます。

GLP-1って?

GLP-1(Glucagon-like peptite-1)はアミノ酸が複数くっついたペプチド(小さなタンパク質)で、消化管ホルモンの一種です。ホルモンとは体の働きを調節する化学物質です。
食べたものが胃の先にある小腸に到達すると、小腸の細胞がGLP-1を分泌します。このGLP-1が体内のGLP-1受容体(スイッチ)を作動させることで、腸の動きを弱めて、インスリンを分泌を促し満腹感を促しながら血糖値を下げてくれます。

参考: インスリンって?(厚生労働省HP) https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-011.html#:~:text=インスリン(いんすりん)&text=膵臓から分泌される,細胞から分泌されます%E3%80%82

GLP-1は1分で分解される!?

GLP-1は、満腹感を促しつつ血糖値を下げてくれるので、糖尿病の治療薬としての応用が期待されていましたが、GLP-1は体の中にあるDPP-4という酵素によりあっという間に分解されていきます。
分解速度は一般的に、体の中からどれくらいの時間で半分無くなるか、という「半減期」という数値で表されますが、GLP-1の半減期はわずか1-2分と言われています。このままではあまりにも分解が早すぎて、このままでは利用しにくいのです。

アメリカドクトカゲに学ぶ

アメリカ、メキシコに生息しているアメリカドクトカゲは、大きな動物を飲み込んで食べることがありますが、大量に食べても血糖値が上がらないことが知られていました。

これは糖尿病の治療薬に利用できるのでは?
そこに目をつけた、アメリカのマウントサイナイ医科大学の糖尿病専門医、John Eng先生が、1992年、アメリカドクトカゲの口腔内の毒液から、ヒトGLP-1と似た物質を発見します。

この類似物質を詳しく調べてみると、GLP-1の似た構造であるものの、DPP-4で分解される部分の構造が違う形に置き換わっていることが分かり、それによって分解を免れる構造になっていたのです。

世界初のGLP-1受容体作動薬

この発見から18年、2010年に糖尿病の治療薬として世界初のGLP-1作動薬が発売されました。DPP-4で分解される部分の分子構造を変えることによって、分解時間1分から半日まで延長でき、これによって体の中でGLP-1の作用を持続させることができるようになりました。

現在ではさらに技術が進み、セマグルチドはGLP-1の分子構造を6%変えることにより、分解まで1週間に延長させることが出来ています。
ここで週一回の注射で済むセマグルチドの注射薬、「オゼンピック」が2020年に発売になりました。

「ペプチドやタンパク質」の限界

GLP-1やインスリンは小さなアミノ酸がたくさん連なった、ペプチドやタンパク質という構造をしています。

このタンパク質やペプチドは腸管から吸収するには分子が大きすぎるため、体の酵素で分解し、小さなアミノ酸に変化させてから吸収します。そのため、GLP-1やインスリンををそのまま口から摂取すると、同じように分解されてただのアミノ酸となってしまいます。

お薬の効果はその分子の構造が大事で、それが崩れたり壊れてしまうと、本来持っていた効果効能はなくなってしまいます。

例えば、鍵の形は鍵を開けるためには非常に大事です。折れたり部分的に欠けたりしたら、鍵を開けることは不可能になってしまうのと同じです。

なのでペプチドであるオゼンピックの様なGLP-Ⅰ作動薬、タンパク質であるインスリンは、消化液によって分解されないようにする必要があり、そのために皮膚の下に直接注射で打って作用させる必要があるのです。

世界初の経口薬

2021年、世界初の「経口」GLP-1阻害薬のリベルサスが発売されます。
本来は消化液によって分解されてしまうので、口から摂取できないペプチドですが、特殊な技術を使い、胃からペプチドを吸収できるようになっています。
大きな分子は難しいようですが、タンパク質より小さなペプチドであるリベルサス(セマグルチド)を口から取り入れることができるようになったのです。この技術を可能させるものが吸収促進剤です。

吸収促進剤(サルカプロザートナトリウム:SNAC)

リベルサスはこの吸収促進剤というものが添加されています。ペプチドは通常胃の中の胃酸と、ペプシンと呼ばれる分解酵素によってアミノ酸へ分解されますが、この吸収促進剤は周囲のpHを調整して胃酸から守りつつ、複合体というチームを形成してペプシンからセマグルチドの身を守る働きを持っています。
この吸収促進剤が身を守っているうちにセマグルチドを胃の粘膜から吸収させるのです。

飲み方

※必ず主治医、薬剤師さんの説明を守りましょう。

これだけ先進的な技術を使って経口薬化されているリベルサスですが、それでも内服量のたった1%(!?)しか吸収されません。
99%がう◯こです(もしくはアミノ酸として吸収)
なので効率よく吸収させるために、飲み方が非常に大事です。
もう一度言います。飲み方が非常ーーーに大事です!

①空腹時

食事が胃の中にあると、胃酸が分泌されてpHが変化します。
なので、胃が空である朝一番に内服する必要があります。

飲んだ後も30分は飲食しないようにしてください。
1-2時間空けるとさらに吸収率は上がるそうです。

②必ず一錠

医師の指示なく調整するのは厳禁ですが、ダイエット目的で飲んでいる方の中には3mg+3mgなら7mgに近いからいいんじゃね?と内服しようと考える人がいます(ダメですよ)
ただ、このお薬、吸収促進剤のSNACが300mgという、一剤でうまく成分が吸収される絶妙な量に調整されています。
2剤飲んでしまうと、2剤分の吸収促進剤の効果が出て、pHが調節されすぎてしまったり、リベルサスの吸収を邪魔してしまいます。なので必ず一錠での内服にしましょう。
ちなみに、SNACを600mg(二剤分)に増やしたらセマグルチドの暴露量(体内に入った量)が減ってしまったというデータがあります。

当然他のお薬との内服もアウトです。
プラセボ薬(偽薬)と一緒に内服しただけで、吸収率が34%も低下したという報告があります。

③少量の水で噛まずに

お水が多くなると吸収促進剤の効果が弱まってしまいます。120ml以下のお水で内服してください。通常の倍量のお水で内服すると40%吸収率がダウンするという報告があります。

あまりにもお水が少ないと、食道にお薬が張り付いて胃まで届かないケースがあるようなので、十分量のお水で内服してください。

噛み砕いてはダメです。吸収率のデータがないので、添付文書ではやめてくださいと書かれています。

④二度寝しない

糖尿病のお薬のため、低血糖のリスクがあります。寝ている時に低血糖となると発見が遅れますので、飲んだ後は起きるようにしましょう。

⑤飲み忘れたらスキップで

血中半減期は1週間なので、1日忘れたくらいでは体の中からお薬は抜けませんし影響は小さいです。忘れた時はスキップして、翌日から通常通り内服してください。

副作用

代表的なものを挙げますが、添付文書には他に様々な合併症が挙げられています。薬を飲みはじめて調子が悪くなったら必ず主治医に相談しましょう。

①低血糖(頻度不明)

倦怠感、冷や汗など多彩な症状が現れます。以下のサイトが漫画でわかりやすいので読んでおくといいかと思います。
症状が出たら糖分を摂取してください。

参考 :テルモ糖尿病ケアサイトhttps://mds.terumo.co.jp/diabetes/knowledge/article03.html

②急性膵炎(0.1%)

激しい腹痛と嘔吐で始まる膵臓の炎症です。

③吐き気、便秘、ムカムカ感などの消化器症状(1-5%)

飲み始めに起こり、慣れていくと消失することが多いですが、あまりに強く持続する場合は主治医に相談しましょう。

④胆石、胆嚢炎(頻度不明)

食べない状態が進むと、胆汁が出るチャンスが減り、胆汁が鬱滞して、胆嚢炎に移行することがあります。全く食べないのもよくないです。

⑤その他

報告があるのは、めまい、味覚異常、疲労感、心拍数増加、頭痛採血異常などです。

最後に

リベルサスは糖尿病のお薬です。最近はダイエットで飲んでいる方もいますが、健康な方を対象とした臨床効果のデータは少ないです。最近はオンラインで気軽に買えますが、副作用も多いお薬であるので、しっかり担当医とよくお話しできる環境で内服を考えてください。

お薬の情報↓ 医薬情報QlifePro 
https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=2499014F1021

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