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文化祭のお神輿

文化祭というと多くの学生にとって青春の代名詞であり、すかした学生にとっては嘲笑の対象でもあり、クラスに馴染めない学生にとっては忌避される対象でもある。

私は、青春だと感じるほど前のめりではなかったし、すかさずに参加はしていたし、忌避するほど嫌いでもなかった。要は普通だった。それだからか、あまり文化祭の記憶がないが、唯一高校三年生で神輿を担いだことは異様なほど鮮明に覚えている。

私の学校では、男子校だったからか、伝統だったからか、実行委員のノリだったからかわからないが男子全員で柔道着の下だけを履いて、上裸で神輿を担ぎ校庭を周回するというまさに文化「祭」という名にふさわしい催しがあった。

乗り気でない学生や裸を見られたくない学生など令和の現在であれば行われていないのかもしれないが、とにかくこのイベントが私は嫌いだった。

神輿を担いだら、その上には文化祭の実行委員が乗った。大体サッカー部かバスケ部のやつだった気がする。上に乗ると「まだまだいけるだろ!」「祭りはこれからだ!」みたいな嘘のようなセリフを吐いてはバケツに入れた水を上からかけてくる。10月の空気は水で濡れた上半身をみるみるうちに冷やしていった。

ひとしきり校庭を練り歩いた後は全員で校歌を熱唱し、最後には今まで文化祭を仕切ってくれた実行委員が壇上に上がり全員を見下ろしながらスピーチをする。内容は確か、、、「最高の仲間と会えてうれしい!ありがとう!」みたいなことだった気がする。当然のように目に涙を浮かべていた。どうでもいいことだけど神輿からスピーチまでずっと自分たちよりも目線が上だなと思った。どうでもいいことだけど。

高校なんてかなり昔の話だけど、人間関係でうまくいかなかったり、どうしても自己否定からネガティブな気持ちになると彼らの顔を思い出す。あの時神輿に乗ってたやつって今何してるのかな。

年を取れば取るほどに、自分の事や他人の事を客観的に見て寒い奴らだと冷笑すると、その分だけ自分の人生での楽しみが減っていくことに気が付く。

「人生は斜に構える暇がある程長くはないので、今すぐ客観視する自分を捨てて思いっきり楽しめよ!」というアドバイスを大声で神輿の上から彼らが現在の私にしてくる。「確かにその通りだな!」と下柔道着で上裸の私も負けじとあの時の彼らに声を張り答える。

神輿の上の彼らは、満面の笑みでこちらを向きサムズアップしている。「でも、神輿の上からみんなをアジるのは違うと思うけどね。」と小声で最後の抵抗をするも彼らには聞こえていない。聞こえる必要はないと思えただけ学生時代より大人になれたと思いたい。


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