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【小学生観察日記】好きな子

「好きな子とかいないの?」

小学3年生の女の子と話している時に、何となく聞いてみた。

「えー。いるよ。」

まじか。

「クラスの子?」

「うん」

「どんな子なの?」

「・・・女の子。席が隣なの。」

「どこが好きなの?」

「うーん。すごくかわいいんだよ。」

とてもいい。好きな理由が「すごくかわいい」。これ以上の回答はない。


私も、人生で3回ほど女の子を好きになったことがある。
「人生で一度だけ」と言いたいが、ちょろい私は簡単に人を好きになってしまうので、母数がでかい上での「3回」である。

初めて女の子を好きになったのは、小学生の時だ。
「好きになった」というより、今になってあの時に好きな感情を持っていたということに気づいた。

その女の子(Aちゃんとする)は、入学して初めてできた友達だった。
クラスで一番背の高かった私とは反対に、Aちゃんは一番背が低かった。
Aちゃんはすごくおとなしくて、お喋りな私の面白くない話をいつも無言でニコニコしながら聞いてくれて、それがとても可愛かった。
頭一つ分低いAちゃんの顔を覗いて、ニコニコと口角だけをあげている表情と、覗かないと見えないキラキラした瞳を見るのが好きだった。

2年生になってクラスの仲が深まり、私とAちゃんはいつの間にか違うグループに属して過ごしていた。
少人数の私の母校は6年間一クラスで、女子の仲良しグループはいつもメンツが変動していたため、私にもAちゃんにもそれぞれ仲の良い友達が増えた。

ある日、Aちゃんと他の女の子が教室の後ろのロッカーにもたれ、虫かごに入っているモンシロチョウの卵を見ながら、仲良さそうに話している時があった。

Aちゃんはいつも口角だけをあげてニコニコしているのに、その時は歯を見せて笑っていた。
私とは頭一つ分背が違うのに、その女の子とは同じ目線で目を合わせながら笑いあっていた。

一瞬心がもやっとした後、なぜか私は、後ろからAちゃんのスカートを勢いよく下ろした。

白い肌着で隠れたパンツが目の前にパッと表れて、見上げるとAちゃんの顔があった。
ぎゅっと横へ一直線に結んだ唇で、驚きと恐怖を交えたような表情をしていた。

そこからはあまり覚えていない。


Aちゃんは3年生になるとミニバスに入り、運動ができない私は勝手にAちゃんとの間に壁を感じて、ぎこちない関係性のまま中学生になってしまった。

中学校で心機一転、Aちゃんと仲良くしようとしたことはあった。しかし、ミニバス時代からAちゃんと仲の良かった女バスの子と二人で笑いあっているところを見かけるたびに、何となく私は間に入ってはいけないような気がした。

中1の冬、私は野球部の先輩と付き合うようになった。その上、学年1位を目指して勉強することにばかり熱中し、Aちゃんのことなんてどうでもよくなってしまった。

中学を卒業し、Aちゃんとは別々の高校になった。
SNSでだけ見かけるAちゃんはいつもあの時の女バスの女の子と二人でいて、髪色も明るくなっていた。
私は真っ黒の髪で、自称進学校の高校で勉強と部活に追われる毎日だった。
高校に入って会わなくなったらAちゃんとの関係は一切なくなって忘れるものだと思っていたのに、疎外感と「Aちゃんは変わってしまった」感があった中学の時と何も変わっていないように感じた。

それでも、勝手にAちゃんに対して壁を感じている私にAちゃんは、なぜか毎年「誕生日おめでとう」のLINEをくれた。小学1年生の頃から1年も欠かさずに祝ってくれていた。


大学生になったある日、インターホンのカメラに、配達員になったAちゃんが映っていた。
小学生の頃はよくうちに遊びに来ていたAちゃん。学校から帰ってランドセルをしまったあと、少しだけ部屋を片付けて準備しているとインターホンが鳴って、映っているAちゃんを確認したらドアまで走っていって開けた思い出。

思い返すと、どれもがキラキラしていた。
それを勝手になかったことにしようとしていた。

スカートを下げたこと、すぐに謝ればよかった。

きっとあの時、私はAちゃんに、友達に対しての「好き」を超えた感情を持っていた。
恋愛感情かと言われると分からない。でも、私はあの時Aちゃんが大好きで、Aちゃんがとにかく可愛かった。


もう勝手に壁を作って逃げるのはやめよう。
そう思って、「誕生日おめでとう」「ありがとう」のやりとりだけが続いているLINEを開き、「久しぶりに会ってみたいんだけど、どう?」と送った。
「いいよ」と来た。
7年ぶりの会話だった。

今月末、Aちゃんは私と遊んでくれるらしい。
学校帰りにそわそわしながら家でAちゃんを待っていたあの時と同じ気持ちで、遊ぶ日を待ち遠しく思いながらカレンダーを眺めている。


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