プロジェクトK(新しい霞が関を創る若手の会)
『国家公務員のパフォーマンスを最大化し、国益を最大化する聖域なき提言』全文公開
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『国家公務員のパフォーマンスを最大化し、国益を最大化する聖域なき提言』全文公開

プロジェクトK(新しい霞が関を創る若手の会)

 改革派若手官僚コミュニティ「プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)」は、霞ヶ関改革の優先課題を洗い出した提言として『国家公務員のパフォーマンスを最大化し、国益を最大化する聖域なき提言』を取りまとめました。この記事ではその内容を全文公開したいと思います。

Ⅰ 本提言の問題意識と方向性


1.機能不全に陥りつつある官僚機構 


「理不尽な激務化」と「政策ブレーン機能の劣化」

  国家公務員の主たる職務は「国益に資する政策の実現」である。しかしそうであるにも関わらず、いわゆる霞ヶ関の官僚機構は、前例主義と非合理を放置する組織的思考停止により、社会の急速な変化と政策ニーズの多様化の中で「理不尽な激務化」と「政策ブレーン機能の劣化」に直面している。

問題は激務そのものよりも、理不尽な激務で職責が果たせないこと 

 これまでも霞ヶ関の激務性は指摘されてきた。しかしそれは対症療法的に勤務時間を制限したり、テレワーク等により私生活の時間を強制的に確保するだけでは根本的には解決しない。それは第一に、先の環境変化に対し行政がカバーすべき業務が増えることそのものは不可避だからである。そして第二に、必要・無意味・非効率が混在した目の前の業務に忙殺され、中長期的な目線から真に必要な政策を検討し、実行することができていないという精神的なフラストレーションが、物理的な時間不足ともつれ合っているのが現場の実態だからである。従って、環境変化に対応できていれば発生していないか軽微だったはずの業務がもたらすこの「理不尽な激務化」に対しては、「いかに勤務時間を減らすか」という角度よりも、「いかに有限のリソースの中で、国家公務員個々人と組織全体としてのパフォーマンスを最大化するか」という角度から切り込んでいく必要がある。 

確信を持てないまま進む政策形成

 「政策ブレーン機能の劣化」は上記の激務化と表裏一体になっている。政策が対象とする現場の真のニーズは何か。現場と想定に乖離は無いか。世界の先行事例はどうなっているか。どのようなリスクがあり、どう乗り越えればよいか。本当に長期的な国益に資するのか。今検討中のアイデアは本当に最善か。官僚は政策ブレーンとして、そういった視点で政治サイドと侃侃諤諤と議論し価値ある政策を形成・実行しなければならない。それにも関わらず、必要な情報収拾も検討も追いついておらず、官僚サイド自身が確信を持って政策形成を推し進められていない事態が発生しているのではないか。これでは政治、ひいては国民との建設的な議論はできず、多様化・多元化する社会の将来ビジョンを描き、有効な政策に反映することとはほど遠い。まして前例の無い挑戦など、リスクが高すぎて実行できるはずが無く、実際、判断材料が乏しいがために、不本意ながら前例踏襲の道を選ばざるを得ないこともあるのではないか。

 最終的な決定権者は国民の負託を受けた国会議員や行政府の長である総理大臣であるべきだが、それは官僚が上から下る号令に言われるがまま従うことではない。合理的な判断に必要な情報を掻き集め、現場と中枢、トップとボトムを繋ぎ、時には諫言もして初めて、公僕としての使命が果たせる。またスピーディーな助言・判断・実行のためには、常に現状をつぶさに把握・分析し、改善策を講じる能力と体制も求められる。こうしたあり方が当たり前になって初めて、国民の代表との議論に臨む資格があると言えよう。このことからも、国家公務員のパフォーマンス最大化は急務と言える。 

悲痛な叫びと、本提言の決意 

 本提言の背景には、自殺者を出すほど疲弊した現場の悲痛な叫びと、この国の発展を志してこの道に入った情熱を胸に、真に価値ある仕事をしたいという渇望に似た使命感がある。だからこそ、本提言は無責任な自己批判でも、現場のガス抜きでも、国民へのポーズでもあってはならない。現実を直視しながらも、具体的な改革案を提示し、たとえ小さな一歩ずつであろうとも、必ずや実行に移すことをここに誓う。

2.情熱と価値が循環する人間らしい組織へ

 

改革の方向性

 本提言では、今起きつつある機能不全の全体像を捉えながら、ハード(組織構造、制度、政策形成プロセス、デジタル化、オフィス環境等)、ソフト(カルチャー、共通の価値観など)両面から改革案を提示したい。それら改革案の方向性は、以下の3つのテーマに集約できる。

(1)集合知が発揮される組織体制への転換
(2)政策形成過程の複線化(ボトムアップ/トップダウン)
(3) PDCAを徹底しつつ、失敗を失敗と認め失敗から学ぶ文化の醸成
(4)生産性の向上を阻害する要因の徹底的な除去
 

横連携と内外連携が、問題解決をショートカットする

 まず(1)は、古くから指摘されてきたいわゆる「縦割り」問題に関連している。ただし、組織を機能や専門性ごとに編成すること自体は、円滑でスピーディーな業務執行に一定の効果もある。問題の本質は、組織が縦に割られていることそのものではなく、必要な連携ができていないことにある。このことを行政サービスの視点から言えば、たらい回しや二度手間といったいわゆる「お役所仕事」を意味するが、国家公務員のパフォーマンスの観点に寄せて言えば、集合知がうまく発揮されていないことを意味する。ある省庁が知りたい知見が、他省庁やかつて国家公務員だった人材に豊富に蓄積されていることもありうる。管轄の異なる省庁・部局、霞ヶ関内外が連携するだけで容易に対処できる問題がある。互いを知り、多様性を包摂し、デジタルも活用しながら連携し合うことで、膨大な時間が必要と思われた問題や、打開策を見出すのが困難と思われた問題の解決を、ショートカットしうる。 

政策形成にも、多様性を

  現在の政策形成過程は、ほとんどの省庁で極めてトップダウン色の強いものとなっている。しかし、これでは現場が把握しているにも関わらずアプローチできない課題が多く残ってしまう。また、上意下達に慣れた現場の当事者意識の欠如と、上に声は届かないという諦めが助長されてしまう。従って、上位目的をスピーディーかつ着実に執行するトップダウン型の政策形成過程に加え、現場がリアルな実情を踏まえてビジョンを描き、組織がこれをサポートし政策として結実させていくボトムアップ型の政策形成過程も構築すべきと考える。個人が主体的に政策形成に関わることで、人材の成長を加速させる効果も期待できる。これが(2)の意図するところである。志を持って挑戦する個人を支え活用できることが、真の組織力ではなかろうか。 

結果に責任を持ち、政策の成功確率を高める

  官僚機構は失敗を認めない。失敗の想定もしたがらない。しかしそのしわ寄せが国民に来ることを忘れてはならない。確かに政策には軽率な失敗は許されない。しかしPDCAを回し、起きてしまった失敗から学ばずして、成功確率を最大化することはできない。現場からは、PDCAを回そうにも、補助金を配っただけで十分なフォローアップができないまま異動となり、責任を果たせていない、もっと社会と対話したいという声も挙がっている。これまで行ってきた政策の評価を正しく行い、時には過去の政策を反省し、政策を止めることもまた国家公務員の責任と言える。失敗を認め、政策を反省することは、ともすれば責任追及に発展するおそれもある。しかし自らの保身を優先し、政策の評価を歪めることは絶対に避けなければならない。政策のPDCAを回し、よりよい政策を実現することにつながることに対する国民からの理解を得ていく必要もあろう。

 こうした評価と判断に加え、業務の進め方においても、過去のやり方を漫然と踏襲したり闇雲にフローを追加するのではなく、時代に合ったものにスリム化することも含めたアップデートと合理化が求められる。

 失敗に目を瞑ることは、失敗を過度に恐れ前例主義に陥ることにもつながる。それが無策という失策も招く。未曾有の事態には、時に前例の無いトライも必要である。現場に存在する挑戦心を無駄にしない文化が求められる。(3)はこのことを指している。 

生産性を高めるための投資

 霞が関の著しく低い生産性は、税金の“隠れた浪費”である。しかし、生産性を高めるための投資は往々にして贅沢と見なされ、旧態依然としたデジタル環境やオフィス環境はほとんど放置されてきた。霞が関のパフォーマンス向上のためには制度、ツール(ハードウェア)、文化の一体改革が重要であり、デジタルやオフィスの問題を先送りしてはならない。むやみに最新機器を導入したり豪華なオフィスを構えることや、業務改革を伴わない表面的なデジタル化等とは一線を画す、戦略的で透明性のある環境整備が今こそ求められる。(4)には人材の適切な配置や改革意識も含まれるが、こうした認識を主軸としている。

情熱と価値と人間らしさ

 官僚組織が高いパフォーマンスを発揮するには、個々人が組織の歯車ではなく、情熱という内発的動機に従うことができ、価値発揮の手応えを得られるという、人間的な業務遂行をスタンダードにする必要があると考える。その意味で、集合知の発揮は、限られたリソースを最大限活かすことで、情熱を価値に変換しやすくするアプローチだと言える。人類の文明自体が膨大な集合知によって発展してきたことからも人間として理に適っており、予測不可能なVUCAの時代に歩調を合わせるものでもある。政策形成にボトムアップのルートを確保することは、価値発揮の機会損失を避けることになり、これが担保されている組織は、新たな情熱を誘発するだろう。無謬性の神話を捨て、形だけの政策評価を脱し真にPDCAを回すことは、結果的に難易度の高いトライを可能にする。デジタル環境やオフィス環境の正常化は、個々人の情熱を価値に変換することを妨げる非効率や理不尽や茶番を除去することでもある。

 こうした業務遂行と組織のあり方、そしてオフィス環境を含めた業務環境の改善は、業務効率を格段に高める。それは無用な残業を減らすことに繋がり、高いパフォーマンスの基盤となる心身の健康とエンゲージメントの向上を担保する。この観点からも、国家公務員一人ひとりを人間として扱うことは、国益の向上に直結していると言える。

 霞ヶ関の官僚は楽ができる組織を望んではいない。やるべき仕事ができる組織を望んでいる。


Ⅱ 具体案


1.機能するビジョン・ミッション・バリューの整備

 

自明な方針は方針たり得ない

 民間企業等においては、スピーディーかつ一貫性のある経営判断を下すとともに、多様な個を一つのベクトルに結集するために、ビジョン・ミッション・バリューを設定しているケースが多いが、省庁の各組織においてもこれらが必要である。現在も省庁の設置法などで任務が規定されているほか、政策分野ごとにビジョンが設定されているケースもある。しかし、それらの多くがあまりにも自明な内容で、方針たり得ないものになっている。それゆえ方針を体現しているはずの一つの政策案に対して、それを是とするか否か複数いる責任者ごとに判断が割れ、意思決定のための意見調整に膨大な労力を要する、という非効率な事態も頻発している。何よりも実際に手を動かす職員自身が、自分の組織のビジョン・ミッション・バリューが分からないために自分に求められている役割を見失っている。国家の発展や国民生活の向上を目指すべきであることに議論の余地は無い。しかし何をもってゴールとし、どのようなアプローチ(政策)でそれを実現するのかは無数の解釈や判断が存在し得る。だからこそ、各内閣の国家ビジョンをブレイクダウンした省庁レベルのビジョン・ミッション、部局レベルのビジョン・ミッション、霞が関共通のバリューを策定する形で、個々の政策や行動の判断基準になる、「機能するビジョン・ミッション・バリュー」を整備・運用していくべきである。

何をすべきで、何をすべきでないかが共有された組織へ 

 ビジョン・ミッション・バリューの定義は世界的にも定まっていないが、本提言では以下のように定義する。

ビジョン(Vision):各組織から見た、国や分野、国民生活の理想状態
ミッション(Mission):ビジョンを実現する、組織としての戦略
バリュー(Value):ビジョンやミッションと整合した、個々の職員の行動方針 

 ビジョンは組織という登山チームが目指す山の頂上(あるいはそこから見える景色)に喩えることができる。ミッションはその山頂へ向かう登山ルートであり、どういったルートを通るかはその登山チームの考え方による。バリューは登山チーム内の倫理的・戦略的ルールであり、行動規範と呼ばれることもある。

 ビジョン・ミッション・バリューがあることで、どういった戦術を採るべきか建設的な議論がしやすくなり、また場当たり的・総花的な政策を講じることを避けやすくなる。各政策がどのような狙いのもとに実施されるのかを国民に説明しやすくなるメリットもある。つまり、組織単位でも、個人単位でも、有限のリソースの中で何をすべきで、逆に何をすべきでないかが明確になるということである。バリューについては、人事評価を連動させ、バリューに沿った行動を取ったものが評価されやすくすることが形骸化を避ける意味で望ましいが、これについては実現可能性も勘案しながら慎重に検討すべきと考える。 

2.「結果」にこだわるための人事評価

 

(1)評価の解像度の向上 

 人材の評価は、組織のビジョン・ミッションの実現にどれだけ貢献したかや、バリューに合致した行動を取ったかによって判定されるべきである。言い換えれば、組織ごとのビジョン・ミッション・バリューやそれらと整合した人事戦略が変われば、何が評価されるべきかも変わるはずである。しかし、現在の評価は、国家公務員一般において求められる態度や能力等自明かつ極めて恣意的な評価項目での評価にとどまっている。加えて業績の管理については、取り組む業務内容も目標も自己判断で定め、管理職が当人と面談することなくそれらを追認しているという例も少なくない。

 こうした、人材としてのPDCAを回しにくい評価方法から、期待(ミッション)-過程(アクション)-結果(アウトカム)の全体像を捉えられる解像度の高い評価方法へ改める必要がある。その際、例えば外部との交流やそれを踏まえた政策の立案・改善も評価の一部とするなど、集合知を働かせるプロセスも促進すべきと考える。また、課長をはじめとする管理職が個々の職員の業務や個別の事情を把握できていないことも多く見受けられることから、半期毎の評価面談は当然のこととして、当該面談の中で、上記の期待(ミッション)を職員に伝え、到達すべき結果(アウトカム)について時間を取って議論するほか、必要に応じてより頻度の高い定期的な1on1の導入など、管理職は個々の職員と頻繁なコミュニケーションを重ねる必要がある。

 加えて、人事担当者についても、組織全体で人材がどのように育っているか、個々のポストに必要となる人材は何かを把握するため、管理職が得た情報の共有や、個々の職員とも随時の面談等のコミュニケーションを重ねる必要がある。

 解像度の高い評価は、職員の経験や能力を多面的に把握することに寄与する。これにより、個々人の能力を伸ばしていくとともに、組織全体として人材開発の知見を蓄積していくことができると考えられる。 

(2)職務要件の明確化

 解像度の高い評価のためには、そもそも各ポスト(特に政策の企画立案・運用の実働を担う課長補佐級や係長級のポスト)の職務内容と、そこで求められるスキルや経験等を明確にする必要がある。霞ヶ関内の人事の流動性を確保し、霞ヶ関外からも積極的に人材を登用するためにも、このような見える化が重要と言える。各ポストがどういった人材を必要としているかが明確化されれば、年功序列や玉突き人事から脱却する足がかりにもなりうる。具体的には、いわゆるジョブディスクリプションの整備やそれぞれのポストで求められるスキルマップを検討すべきと考える。職務の流動性が高いため職務内容を完全に記述することの難易度は高いが、旧来の方法と組み合わせたハイブリッド型の整備・運用など、実情に合った柔軟なあり方を模索すべきである。少なくとも、前任者との引き継ぎ時にしか業務内容が分からない、業務にキャッチアップしているうちに短い任期が終わってしまう、異動直前の内示により十分な引き継ぎができないといった、ブラックボックス化と非効率の改善は急務である。 

(3)人事異動の意図・期待の透明性向上

 現在の人事異動は「なぜ自分はこの部署に移動するのか」という異動の意図が明確にされず、どのようなスキルの発揮・向上が求められているのかを把握できない状態にある。先述した、各ポストの職務要件を明確化すること、着任後の評価をアウトカムまで含めた詳細かつ包括的なものにすることと併せて、異動の意図を透明性をもって説明し、各人が発揮すべきパフォーマンスに集中できるようにすることが必要である。

3.フェアで合理的な処遇と任用 


(1)人事の専門人材の配置

 人事は組織の要と言える。先述した人事評価制度や人事異動のあり方を効果的に設計・運用していくには、現在のように各職員が持ち回りで人事を担当するのではなく、人事領域に専門性のある人材の配置が必要である。例えば各省庁に人事を主務とする専門人材と、現場の実情を理解している非専門人材のハイブリッドで構成される、部署横断型の人事委員会を設置する方法が考えられる。組織全体で人事を考える仕組みを構築し、人事機能を強化することが強く求められる。 

(2)管理職の専門職化(処遇と任用の分離)

 人事マネジメントを職種の観点から見れば、管理職は人と仕事のマネジメントに特化した専門職の一つと捉える方が理に適っている。現在は、俸給等の処遇と、課長職等の任用が分離されていないため、マネジメントスキルが乏しいまま管理職を担っている者も散見される。これを、管理職だから給料が高くなる/処遇として課長にするのではなく、「管理ができるから管理職にする」といった構造に変えていくべきであり、マネージャーとして部下の育成や仕事のマネジメントを適切に行っているかどうかも人事評価項目に明確に含めるべきである。

 このほか、管理職にならなくとも評価される人事ルートを確立すべきである。複雑化する昨今の政策環境においては、現在も存在する見せかけだけの専門スタッフ職ではない、一つの政策を極める真の専門職人材の育成が求められる。そのために、彼らが活躍しやすく、市場価値に見合う処遇を受けられるあり方を整備するとともに、専門性を広く社会に還元できるように働き方の柔軟性も担保すべきである。

 管理職を職階ではなく職能と捉えた上で、それぞれの専門領域や職能において高いパフォーマンスを発揮した者が、より良い処遇を得る。こうしたフェアで合理的なあり方が、さらに各職員のパフォーマンスを高めるという、好循環を創り出せると考えられる。

 また、課長のみならず、補佐や係長の立場でも、政策ごとでチームを形成し、マネジメントすることもありうる。このため、若いうちからチームのマネジメントや後輩の育成を本務として捉え、個人の成果よりチームの長期的な成果の最大化という観点のもと取り組み、管理職への登竜門として育成能力やマネジメントスキルを磨いていくべきである。 

(3)リボルビングドアの拡大と無意味な「年次」概念の撤廃

 上記の提言は比較的各省庁内における人事改革に寄ったものであるが、「Ⅰ 本提言の問題意識と方向性」で示した集合知を発揮するには、省庁内外・霞ヶ関内外の連携や人材交流(リボルビングドアの推進)も重要である。

 ただし、国家公務員が国民のための奉仕者である以上、パブリックマインドや社会課題に対する強い当事者意識を持ち、課題解決に向けて奔走できる人材であることが登用の前提条件になる。このため、中途採用だけでなく、一度離職して民間企業等の職務経験を積んだ者を再度国家公務員として任用しやすくしたり、彼らが適正な処遇を受けられるようにすることも重要である。現在は年次や勤務年数に過度にこだわり、再任用される者が実力より低いポジションに就くという不公平なあり方が常態化している。年次等の画一的な処遇ではなく、実力と希望(職務)に応じたフェアな処遇への改善が求められる。

 離職・退職後のセカンドキャリアについても、元国家公務員を官民の通訳機能や省庁外との橋渡し役を担う人材として戦略的に活用することで集合知の発揮が可能となる。

 また、他省庁への転籍について、ハードルを下げることが必要である。現在は一旦辞職した上で再度採用試験を受け転籍しているのが現実であり、本人に相当な労力がかかっている。これを、本人や受入省庁側の同意が得られれば転籍を可能にするなど、省庁を越えた人事の柔軟化が必要である。 

(4)戦略的ダイバーシティーの推進

 国家公務員における「ダイバーシティ」とは、単に多様な人格を尊重しようという倫理的・道徳的な観点ではなく、あくまで国益を最大化する高いパフォーマンス発揮のために、多様な人材の多様な視点・能力を結集するという、戦略的な観点で捉えるべきと考える。その上で、「働き方のダイバーシティ」と「チームのダイバーシティ」を推進したい。

 「働き方のダイバーシティ」とは、若手から一定の職歴を積んだ後までのすべてのキャリアステージにおいて、子育てや介護等の様々な背景を持つ人が、諦めることなく働ける職場を目指すことである。国民に対してより磨き上げられた政策を提供するためには、国家公務員自身が、一人の人間として人生の様々な状況を経験していることが望ましい。従って、そのような経験を有した者が実体験や問題意識を政策に反映できるような登用が求められる。

 また、これは業務効率化等による時間創出が前提にはなるが、リカレント教育の場の提供、OJTだけでなくOff-JTや時効啓発への積極的な支援、社会貢献活動や公益的活動に対する兼業・副業の促進により、個々の国家公務員自らがキャリアを選択でき、成長できる働き方を推進する必要もある。

 「チームのダイバーシティ」は、国家公務員が苦手とする分野については、民間のプロフェッショナルにチームの一員として政策立案等に参画していただくなど、霞ヶ関内外の専門性を結集することを意味する。例えば業務効率化のためのデジタル化や、必要な政策を必要とする国民に届けるための広報など、国家公務員がこれまで積極的に行ってこられなかった分野は多い。ここにプログラマーやマーケッターが参画することで、現状を打開できる可能性は大いにある。また先述したジョブディスクリプション等によって「誰が」「何を」やっているかを見える化した上で、民間企業や大学、NPO等の多様な人材と交流を進めるとともに、現職の国家公務員自身も政策立案に必要となる知識やスキルを高度化していくことも必要である。


4.業務改革と意識の刷新

 

(1)デジタル環境の正常化

  霞ヶ関のデジタル環境は、異常なまでに時代錯誤的と言える。遅すぎる職場のPC環境や不十分なテレワーク環境、保存容量の少ないサーバ等は、国家公務員のパフォーマンスを著しく下げており、それはつまり、国民の利益を大いに毀損している。こうした現状を改善・正常化する施策の例として、以下のものが挙げられる。

○霞ヶ関・永田町それぞれの無線LANの整備(霞が関の場合は省庁横断で利用できるもの)
○十分なスペックを備えたポータブルPCの標準配備、ならびに業務用スマートフォンの貸与等
○RPAの導入(データ集計、短冊協議等に活用)
○原則オンライン化・ペーパーレス化(議員への説明の際の紙資料の撤廃を含む)
○省庁をまたいだ情報共有を促進する環境(ファイル・予定表・連絡先の共有、オンライン会議等)の整備
 

 上記のデジタル化を行うメリットや必要性としては、次の7点が挙げられる。

①業務時間の確保や創出

資料の印刷作業等を含む日々の非効率な作業を削減・効率化でき、これまで失われてきた時間の確保につながる。加えて、移動中や待ち時間といった隙間時間を活用することで業務時間を新たに創出することもできる。 

②霞が関全体での集合知の発揮

テレビ会議ツールやチャットツールを活用することで、知見を有する他省庁の担当者に気軽に連絡を取り知見を共有し合い、政府全体として課題にいち早く対応することができるようになる。

 ③多様な人材の活躍および多様な政策決定

テレワーク環境の整備等機器・システム面での課題の解決により、多様な人材が働きやすくなる。これにより、様々な家庭環境等を持つ職員が諦めることなく、あるいは高いエンゲージメントのもと働き続けることができる。またこれと併せ現地視察先や現場職員の知見を活かしやすくなることからも、多様な政策決定が可能となる。

④環境負荷の低減

環境への配慮を唄いながら大量の紙を浪費することは、紙文化の根強い永田町への忖度と、SDGsに尽力している国民への愚弄という批判を免れない。紙文化からの脱却は霞が関全体で行えば大きな環境負荷低減効果が期待できる。

⑤政策のPDCAを回しやすい体制の構築

デジタル化を通したBPR(Business Process Reengineering)は、各種の政策や行政サービスの実行状況を定量的に把握可能なものにすることに道を開き、後述する例のように政策や行政サービスの質的向上に向けたPDCAを回しやすくなる。

⑥大規模災害時の業務継続

首都直下型地震をはじめとした大規模災害時にも事業継続がしやすくなる。

 ここで重要なことは、デジタル化はパフォーマンスを上げるための「手段」であり「目的」としてはいけないということ、そして、「手を着けやすいところから始める」のではなく「優先度の高いところから始める」ということである。組織のミッションに到達するための目的や必要性、優先度を網羅的・戦略的に検討し、重要性の高い成果を達成するために必要なデジタル化を進めていくことが必要である。  

(2)デジタルを前提とした業務の効率化・高付加価値化と、コミュニケーションのデジタル化

 業務のデジタル化とは、単にデジタル機器を使うことや紙帳票を電子ファイルに置き換えることではなく、リアルタイムに情報の更新・共有が可能な環境を活用して、業務プロセス全体を見直すことである。言い換えれば、
紙とデジタルの重複を排除し、データを一箇所に集約し、アクセス権限や承認フロー等を最適化することで、真にデジタルのポテンシャルが発揮される。
 そしてその道を追求することは、霞が関組織内のデジタル化だけでなく、霞が関が外部の組織や国民とのコミュニケーションのデジタル化とも繋がってくるのは必然である。
 例えば、国民が補助金を申請し、承認され、その後の管理までをデジタルで完結させられるようになった場合、単に国民にとって便利というだけでなく、補助金の申請状況や案件内容の整理、集計結果のグラフ化など、これまで霞が関の担当者が日々PCの前で汗をかいていた作業の多くは自動化・省力化される。幹部がいつでも、どこでも、リアルタイムに、システム上で自動集計結果を確認することも容易であるはずだ。
 他にも、台湾のvTaiwanの取組のようにオンライン上で利害関係者の合意形成と政策企画を両輪で推進したり、企業がマーケティング活動として行うマーケティングオートメーション(オンライン上のユーザーに、それぞれの関心やニーズに応じて、カスタマイズしたHPのコンテンツやメールを配信する仕組み)を政府に導入することができれば、政策の社会実装が強力に進むばかりか、多くの国家公務員が諦め形骸化している「政策効果のKPI測定」は現実的かつ前向きな目標へと変貌する。

 政策の社会実装という観点で言えば、強力な広報部隊を常設することも有効と思われる。国民にとって有用な制度・施策があるにも関わらず、内容が分かりにくいか、そもそも存在が知られていないためにそれらが十分に活用されていないケースも多い。政策は社会に実装されなければ意味が無い。しかし公務員は「国民に分かりやすく伝える」というインセンティブ構造を長らく持たないできた。結果に責任を持ち、KPIを改めることと、デジタルを最大限活用すること併せて、政策のコミュニケーションデザインにも力を注ぐべきである。

(3)生産性を高めるオフィス環境の整備

 ビジョン・ミッションの実現を支える人事制度改革やデジタル化を実効性のあるものにするためには、これらを各省庁におけるオフィス空間の最適化と一体的に考えなければならない。

 現在のオフィスの面積は昭和36年改定の「新営一般庁舎面積算定基準」をベースとして未だ算定されているが、これは60年前と大きく変化した現代の業務内容や勤務スタイルには適合せず、生産性を落とす原因となっている。デジタル化でさらに勤務環境が変化する中、この面積算定基準を見直すことが必要と考える。

 例えは事務室の場合、この算定基準では打合せスペースが考慮されておらず、各職員に割り当てられる面積を削る形で打合せスペースが捻出されているため、慢性的にスペース不足となっていることに加え、オフィス機器や保管資料は時代とともに増加したことで、オフィスの過密化がさらに進んでいる。通常の打ち合わせもままならない中、まして省庁間の人材交流や調整・連携、外部からの出向人材の受け入れ等を拡充しようとすれば、物理的な理由でブレーキがかかってしまうことは明白である。会議室の面積基準も同様に、昭和初期の勤務スタイルを基に作られているため会議室不足が常に生じている。そのため空き待ちにより会議ができず、業務が止まるという事態も散見される。デジタル化の観点からも、オンライン会議に適したスペックの会議室が十分確保できているとは言い難い。

 このようにオフィス環境が生産性を下げる一因となっている根本的なスペース不足を解決するには、増築やビルを借りる前に、テレワーク導入による固定席の削減や、書籍をデータ化し書架を削減する等、デジタル技術を活用してスペース作りつつ、これにより生み出した面積を会議室等に再配分するような「新営一般庁舎面積算定基準」へと見直すことが求められる。また、各組織のビジョン・ミッション、業務特性等に応じてオフィスレイアウトを工夫し、生産性を向上させる必要がある。

 オフィス環境については、上記のスペース不足に加え、来客と職員の動線交差によるセキュリティー上の問題や、建物や什器の経年劣化、その他様々な事情を抱えた人材が快適かつ効率的に働きにくい環境・設備設計が多い。例えばこれらが、人材に対する意識の低さの表れだと感じた外部の人材は、深いコミットや転職をためらうことだろう。またこれらが歓待すべき国内外の客人に対する非礼と捉えられれば、機会損失や大きな問題に発展しかねず、政策実現の阻害要因となる。これらについても、高い優先順位での改善が必要と言える。

 オフィス環境の改善は、長らく贅沢と見なされてきた。しかしその固定概念によって劣悪なオフィス環境を放置してきた結果、生産性低下と機会損失やリスクの増大を招いた。それらが巡り巡って税金の浪費や国民の不利益に繋がっていることを自覚し、一刻も早く生産性を高めるオフィス環境を整備することが強く求められる。

(4)国家公務員自身の意識改革

 行政のデジタル化において、目的の明確化、制度変更を含む業務プロセスのアップデート、適切なツールとインフラが要となることは言うまでも無いが、それ以前に、国家公務員自身の意識改革も重要な課題である。

より効率的なシステムが求められる一方、そこへの移行作業は、既に業務に忙殺されている現場職員にさらなる時間的負荷をかけやすい。その結果、効率的なシステムの必要性を感じながらも、つい及び腰になってしまうことも多い。あるいは、現場職員がシステム移行を乗り越える覚悟を決め、かつ新システムを活用できる適応力を有していたとしても、幹部がデジタルの必要性を感じていないかラーニングの努力が不足している場合もある。こうした意識の遅れが、デジタル化の遅れの大きな原因の一つになっている。霞ヶ関のデジタル化は組織的に取り組む必要がある以上、特に幹部自身が問題意識を持ち率先してデジタル化を進めながら、全職員が高い改革意識を持つことが求められる。

 また、組織にシステム関連の知見が無いままでは、ベンダーへの丸投げにより必要となる機能が十分に備わっていないシステムやユーザビリティの低いシステムが出来上がってしまい、多額の国費を投じたにも関わらず、誰も使わない結果に終わることになりかねない。またどのようなデータを何に活かせるかを知らなければ、データ活用の発想自体が生まれにくい。ただし、すべての職員がデジタル専門人材を目指すことは現実的ではない。そこで、外部の人材も登用しながら、各省庁内およびデジタル庁にDXを推進する専門部隊を設置(データ分析環境の整備を含む)し、彼らが政策の形成・実行を主務とする現場職員に併走するという形が、効率的な役割分担と連携、現場のリテラシーの底上げに資すると思われる。こうした体制構築、人材の育成・登用、知見の共有によりデジタル化の実現可能性を高めることによっても、職員の意識改革が進むと考えられる。


Ⅲ 結び


国民の側を向いて、この国を再興する

 

トップvs現場、官僚主導vs政治主導の二項対立を越えて

 古今東西の歴史やわが国の過去を振り返れば、大きな改革は往々にして敵を作り対立を煽ることによって試みられてきた。しかし本提言が国民とその未来のためのものである以上、国民のご機嫌取りをすべく先人たちや組織のトップを糾弾したり、政治主導で霞ヶ関を改革するのか官僚主導で自ら先手を打って改革するのかといった、空虚な争いに与するつもりは毛頭無い。本提言が辛辣とも言える表現を用いながら改革を訴えるのは(あるいは改革を誓うのは)、まずは現在の惨状をつまびらかにし、複雑な諸問題を矮小化せずに直視することから出発したいという意図からである。我々はここから、煽動的な二項対立に逃げることなく、自己批判に陶酔することもなく、そして年功序列や天下り、出世レース、その他諸々のタブーに臆することなく、常に国民の側を向いてこの改革案の実現に邁進したい。

アジャイルな霞が関

 国民からの信頼を得る方法は、まず第一に結果を出すことである。一方で、本提言が提起する改革は、制度、ツール、文化の3つが相互に補完し合うことで実現する、極めて複雑で難易度の高いものと言える。従って、国民が納得する結果を出すには、省庁外の知見も活かしながら、部分最適や目先の成果らしきものに満足せず、絶えず効果検証と改善を重ねていくことが不可欠となる。

 結果を出す覚悟は、良い結果も悪い結果も、またそのプロセスも、隠蔽せず公表する覚悟と等しい。それゆえ私たちは、本提言の存在、その議論・検討の行く末、そして結果を、国民に対しても透明性をもって公開したい。そして広く意見を求めながら定期的に本提言の見直しを行い、折に触れアップデートをしていく。

 私たちは、こうした開かれた議論と不断のアップデートを霞が関全体に押し広め、目的に向かって素早く試行錯誤し続けるとともに、時代に合わせて変化していく、アジャイルな霞が関を創り上げたい。


本提言の策定メンバー

<代表>
国土交通省 西山直人

<副代表>
株式会社Publink(元経済産業省) 栫井誠一郎
国土交通省 北川由佳
経済産業省 紺野春菜

経済産業省 石原啓晶
元厚生労働省 浦上晴香
経済産業省 海野将司
厚生労働省 遠藤径至
元厚生労働省 金子敏明
株式会社スタディーズ 榊原啓
文部科学省 塩田あすみ
株式会社JFE設計 滝野愛弥子
防衛省 津川智之
総務省 月森裕基
縄文アソシエイツ株式会社(元防衛省・航空自衛隊) 西田千尋
日本電気株式会社 諸藤洋明
経済産業省 山下慶太郎 

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