感想の心得

 日本語に限らず、言葉というのはニュアンスや行間といった曖昧さを内包しています。
 僕ら物書きを目指す者は、その曖昧な部分を最大限に活用することで、時に言葉を圧縮し、時に奥行きを与え、作品を創っていきます。

 しかし、言葉の曖昧さというものは、悪意のない場所に諍いを産む原因ともなります。
 普段、僕らは言葉によって一つの事を表現しようと言葉を紡ぐので、自分の中の解釈は常に一つです。それに対し、受け手は常に複数の解釈の中から一つの解釈を選んで、言葉を理解します。
 それが一致していれば、共通の認識が生まれ、適正なコミュニケーションとなります。

 しかし、辞書をめくってみればわかるように、言葉は複数の意味を持っています。辞書に載っていないニュアンスや単語の組み合わせによる意味の派生を含めると、言葉の意味はちょっとした宇宙並の広さになるでしょう。
 そのため、言葉が常に自分が喋っている意味で伝わっていると錯覚すると、二人の言葉は簡単に食い違いますし、相手が理解力のない馬鹿に見えてきます。

 その結果、悪意のないところに諍いが産まれるわけです。

 感情が乗った肉声のないインターネット上のコミュニケーションでは、この傾向がより強くなります。

 

 さて、今回のテーマは「感想」についてです。

 実はこの「感想」という言葉も、他の言葉と同じ曖昧さを内包しています。例えば誰かに、

「短編小説を書いてみました。ノートにアップしたので感想をお願いします!」

 とお願いされたとしましょう。ネット上ではよくある光景です。

 あなたは話し手の意図をどう解釈したでしょうか?

 他にも意見はあると思いますが、僕の場合、脳内に浮かぶ意図の解釈は、ざっと5つです。


1.短編小説を書ききったから誰か誉めて。

2.俺様すげー。面白いから特別に見せてやろう。

3.満足いくものが書けたけど、どう評価されるんだろう。

4.この作品を読んだら、読者はどんな反応をするんだろう。

5.どうしたら良くなるのか、何か助言が欲しい。


 さて、どれが正解でしょうか?

 僕にはわかりません。というか、言ってる本人にしかわからないんですよね。

 これがコミュニケーションの落とし穴です。(似たような事は小説の作者と読者の間にも発生します)

 そして言葉の凄いところは、食い違いがあっても、表面上は問題なくコミュニケーションが成立しているように見えてしまう事です。

 というわけで、話し手と受け手の解釈が食い違った場合をシミュレーションしてみましょう。

 番号は上にある解釈の番号で(話し手の解釈)→(受け手の解釈)です

1→2

 受け手の無視、または受け流しで終了。

1→3

 受け手が評価を話し、話し手も求めてた答えとは違うけど、円満に進行。

1→5

 話し手は否定されたように感じ、受け手に悪意を感じる。場合によっては諍いに発展。

2→1

 円満に進行。

2→3

 話し手が求めていたものとは違うけど、円満に進行。

2→4

 話し手は伝わらないことに苛立ちを感じ、反論。場合によっては諍いに発展。

2→5

 話し手は否定されたように感じ、受け手に悪意を感じる。場合によっては諍いに発展。

3→1

 話し手は物足りず得るものもないが、円満に進行

3→2

 受け手の無視、または受け流しで終了。

3→4

 話し手は思った以上の成果が出て嬉しい。

3→5

 話し手は感想は求めたけど、助言はいらない。場合によっては話し手が反論。

5→1

 わーい(満足感のみ)

5→2

 受け手の無視、または受け流しで終了。

5→3

 話し手は物足りないまま終了。

5→4

 話し手はちょっと勉強になったと思いつつ、特に得るものがない。


 こんなもんで良いでしょうか。同じ言葉であるにも関わらず、話し手と受け手の解釈がズレても、円満に進行する場合と、悲劇につながる場合とがあることを理解してもらえたでしょうか?

 コミュニケーションが上手な人は、相手の意図をちゃんと汲む事はもちろん、こういう組み合わせを計算して相手の反応を予測したり、意図を確認したりしながらコミュニケーションしています。

 コミュニケーションが下手な人は、自分の解釈を信じて、相手と解釈がズレている事を自覚できないまま衝突します。または、意図をちゃんと汲もうと聞き返しすぎて、相手に「さっきからそう言ってるやろ」と鬱陶しく思われてしまいます。

 ……あれ?なんかちょっと話が脱線した?

 まぁいいか。個人的な経験から言うと、ネット上では話し手は1の「ほめて欲しい」という人が多く、受け手は5の「助言したい」という人が多いです。

 そして欲求のおもむくまま1→5が発生し、自然に諍いが起きて誰かの心が折れていきます。

 こういう食い違いを発生させないために、話し手は受け手にしてほしい事を具体的に表現しましょう。受け手は勝手に「助言したい」という欲求に身を任せず、話し手と解釈がズレていないか、今一度振り返ってから書き込むようにしましょう。

 ホントは助言の仕方、受け方までまとめたかったんですが、2000字を超えたようなので今日はこの辺で。

 お読みいただきありがとうございました。

続編はこちら