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人はなぜゴキブリを怖がるのか【動物行動学に学ぶ暗黙的学習について】

私が保護者の方と面談をする際によく聞くのが

「うちの子、本を全く読まないんです」

というセリフである。

以下に、子供がどうすれば本を好きになれるかについて、所感を述べておきたい。


ゴキブリはなぜ怖いのか?

突然だが、なぜゴキブリは我々人間にとって畏怖の対象と対象となっているのだろうか。

ゴキブリに噛みつかれて負傷したり、ミイデラゴミムシのように高温の毒霧を噴射してきたりするというようなことはないのにだ。

確かに住処のイメージや予測不能の動き、油を塗ったような見た目を考えると、生理的には受け入れがたい。

しかし、赤ん坊はゴキブリを先天的に畏怖の対象としているわけではない。


ここで私が最近読んだ書籍を引用しておく。

大きなヘビはサルを丸呑みしますし、なんと言っても毒ヘビは、霊長類にとって大きな脅威になってきたことは間違いないでしょう。自然界で、ヘビを見つけたサルが、群れ全体が騒然となるほどの激しい警戒行動を示したという報告はたくさんあります。たとえば、チンパンジーやベンガルザル、カニクイザル、ニホンザル、サバンナモンキーなどが地上や樹上にいるヘビを見つけたときの反応です。ではこれらのサルが生まれつきヘビを警戒するのか、というと、そうではないこともわかっています。たとえば、人工の施設で生まれ育ち、それまで、ヘビと出会ったことがないカニクイザルは、ヘビを見ても怖がることはありません。ところが、他のカニクイザルがヘビを怖がって警戒しているのを見ると、すぐに自分もヘビを怖がるようになることがわかりました。ヘビに対する他個体の反応を見るだけで素早く「ヘビ=危険動物」という学習がなされるのです。

小林朋道「進化教育学入門~動物行動学から見た学習~」 (春秋社)

つまり、周囲の他個体の反応を暗黙的に学習して自らも同じように行動するようになるということである。

人間のゴキブリに対する反応にも同じことがいえるだろう。

子どもは親の一挙手一頭足を実によく観察している。

ゴキブリそのものが人間にとって害をなす生き物であるかどうかは、我々がそれを畏怖の対象としていることとは本来無関係なのだ。


したがって、次のような仮説が成り立つ。

子供がどうすれば本を好きになれるかは、親や我々講師など、つまり周りの大人が本を楽しそうに読んだり、感想を語ったりする姿を見せることが大切なのではなかろうか。

「もっと本を読みなさい!」と他から強制されるような経験が蓄積されると、本を読む=他から強制され耐え忍んで行うものという刷り込み学習が行われ、自然と読書を避けるようになるのである。

そして、それは勉強も同じだ。


講師の最優先事項は「楽しそうにすること」かもしれない

先日、私がどハマりしているYouTubeチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で「キキブーバ実験」という、音と図形の視覚的印象の関連性を見出す実験に関する映像を見た。

とても興味深く感嘆したのだが、同時に学生時代にも言語学の授業で同じものを学習したことを思い出した。

しかし、今回YouTubeで映像を見たときの方が私の興味は明らかに喚起されたように思う。

実験を紹介していたパーソナリティ二人が、とにかく楽しそうだったのだ

知識を伝達する我々がいかに楽しそうにするか、いかに楽しそうに勉強する姿を見せるかが、子供たちの意欲・関心・興味を喚起するうえで重要であるかを、改めて実感した次第である。


このように、子供に好きになってほしいことは、一緒になって楽しむことが肝要である。

もちろん、受験勉強においては、耐え忍ばなければならない場面もあるだろう。

そこできれいごとを言うつもりはない。

しかし、それはあくまでも「長い時間座っていなければならない」とか「睡魔と闘いながら勉強しなければならない」というような身体的問題であり、知的活動としての勉強そのものは楽しんで行うべきだし、楽しめるものだと思う。


いかに子供たちに、学問を楽しそうに見せられるか、そこに我々講師の技量が試されている。

そのためにも我々自身、まだまだ学ぶべきことがたくさんある。


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