700万円を36億円にした男の物語
ダム・マネー(Dumb Money)とは、日本語で「愚かな資金」を意味する言葉である。多くの投資家は度々ダム・マネーを投じてしまう。
本作「ダム・マネー ウォール街を狙え!」は、実話をベースにした株式投資がテーマの映画になっている。
2021年、世界中がゲームストップ(GME)の株価の行方を追っていた。いわゆる、「ゲームストップ事件」である。
この映画の公開情報を2024年1月に知った俺は、いち個人投資家として、それも株式投資とは畑違いの為替トレーダーとして、どう感じるのかに興味があった。
劇場へ向かう
2024年2月7日。投資映画には勿体無いほどお洒落に決め込んだ可愛い女を連れて劇場へ向かった。
寒空の下、劇場に足を運んだ俺は、ひとつの懸念点を抱えていた。映画チケットをネットで決済した時の4桁の番号を控えていなかったのだ。しかも上映まで残り10分である。
劇場に到着し、最初に向かったのはインフォメーション。窓口に立つ綺麗な女性に「4桁の数字がわからなくなった」と言うと、注文時の氏名と電話番号を記入するように伝えられ、指示通り記入すると10秒ほどで発券してくれた。迅速な対応で助かった。
その後、向かった先はフードゾーン。映画には食事と飲み物が欠かせない。
俺の注文は、ポップコーンキャラメル味とコーラのセット、それとチュリトスのシナモン味。女の注文はチキンとコーラのセットだ。
その後、万全を期するために、特に尿意は無かったがトイレで用を足した。手洗いもこなした。これで準備は完璧だ。
この時点で既に、上映時間から数分が過ぎていたが問題ない。なぜなら、映画好きの俺は上映開始時刻から10〜15分程度は広告タイムだと知っているからだ。
受付のガタイの良い男性にチケットを見せ、ゲートを通り、シアターの中に入り席についた。
取った席も最高だった。相場の未来人との呼び声が高い俺は、席選びまでシナリオ通りである。購入した映画のお供を座席にセットしてリラックスしていた。
席に着いて程なくして上映が開始した。この時点では俺の気分は特に高揚感もなく普通だ。株式投資の経験が無いため、内容が分かるか多少の不安を抱えていた。
それに、本作は字幕である。吹替が好みの俺としては、字幕もひとつの懸念材料ではあった。
上映開始
まず、登場人物の名前と共に推定資産額の表記がある。いかにも投資映画という演出だ。
ドルベースでの資産額が表記されているが、為替を主戦場とする俺は瞬時に円換算に変換し、その資産額に衝撃を受けた。
主人公が配信者だったことも親和性が高い。最近は俺もツイキャスで配信活動をする機会が多い。
配信中に視聴者から投げかけられるコメントも下ネタが多い。俺の視聴者にも品格のカケラも無いコメントを投げる方が多いため、このノリは世界共通なのだと勉強になる。
劇中歌も株式投資の固いイメージとは裏腹に、俺の好きな雰囲気の曲が多くてテンションが上がった。ジャンルでいうとHiphopだろう。
難しい話と息抜きのようなシーンが適度に織り交ぜられており、映画が苦手な人でも観やすい印象である。
女性同士がペアになり、片方がもう一方の女性のパンツの中に手を入れて1分間話すというシーンもある。男性諸君はこのあたりで目が覚めるだろう。
主人公の配信を楽しみにしている視聴者の方々の、それぞれの生活が見えるシーンも描いている。
職場でスマホ片手に、授業中にパソコンで。俺の視聴者の方々も、それぞれのライフスタイルに合わせて視聴してくれているのかと思い、エモーショナルな気持ちになった。
この辺りは、俺ならではの視点で楽しめた。トレーダーだけでも、配信をしているだけでもなく、両方を実際にやっている俺だからこその感じ方だ。
いつも配信に来てくださる視聴者の方々には本当に感謝している。
徐々に場面は世界的金融事件の幕開けに近付いていく。
ショートスクイズ(踏み上げ)がキーになっている。踏み上げとは、価格が下がると思った投資家が空売り(為替ではショート)を仕掛けたものの、上昇圧力が強いため買い戻しが起こり、軽くなった価格が急加速で上昇していく現象だ。
踏み上げのような場面は為替でも起こる。この雰囲気をローソク足から読み解くのが得意な俺は、この辺りから気分が高揚し始めた。
主人公はずっと配信中に「ゲームストップは上がる」と言い続けていた。言うだけでなく、自分の考えを信じて実際に行動に移していた。
その考え方を「ダム・マネー」だと馬鹿にする者がほとんどであり、多くの人々からは愚かな行動だと思われていた。
それが配信中に1日で90%の上昇が起こったのだ。第一段階の鳥肌ポイントである。しかし、まだ握り続ける。
「ダイヤモンドハンド」を合言葉に、固い意志と信念で握り続けることを視聴者に宣言していた。視聴者もそれに乗っかり、強固な絆が生まれ始めていた。
このあたりから大口投資家(資産家グループ)が、潰す準備を始める。空売りを仕掛け始めたのだ。大口からすれば相手は小物中の小物。軽く捻れると踏んで、豪邸で大規模なホームパーティを連日開催して人生を謳歌している。
一方で、主人公含め視聴者のほとんどは「持たざる者」である。金もない、知識もない、成功してない。あるのは固い意志だけだ。
それが、徐々に大口が無視できない展開になっていく。
大口投資家対小口投資家連合の図式が、じわじわと作り上げられていった。
資金力も、政治力も、情報力も、コネクションも、小口の一般個人投資家が大口投資家に勝てる要素は何ひとつない。
しかし、貧乏人が800万人も束になれば大口も無視できない存在へと変貌を遂げるのだ。
価格はどんどん上昇を続ける。
ほんの少し前までは、1ドル程度だった株価は、あっという間に30ドル、40ドル、50ドルと上昇していく。
ここで注目すべきなのは、含み益ベースで爆益が出ている時の恐怖心だ。このあたりの投資家の心情をリアルに描いているシーンがある。かなり共感した。
しかし、この鳥肌が立つようなセンセーショナル場面で、近くの席から大きなあくびの声が聞こえてきた。信じられなかった。声の持ち主は、確実に「養分」だろう。
投資活動の中で、本当に儲かった経験があれば、このシーンは特に思い入れの深いシーンになるはずだ。あくびなんてとんでもない。むしろ目が冴える。せっかく投資に興味を持って本作を観ているなら、せめて違うシーンであくびを思う存分出せば良い。
俺は鳥肌が立ち過ぎて、このまま本当にトリ人間になってしまうかと思うほどに興奮していた。
売りたい、売りたい、こわい。
とても気持ちがわかる場面である。
プロスペクト理論で有名な「損失回避性」は、負けている時だけに起きる現象ではない。勝っている時も同様の心理状態に陥る。だからこそ投資は難しい。本能に抗うための施策が必要になる。
話題が話題を呼び、主人公はついに召喚状を受け取る。
日本でいうところの、証券取引等監視委員会のような場に呼び出されたのだ。簡単にいうと、裁判のようなものだ。
おまけに所属先の会社からも電話がかかってくる。
「辞職か、解雇か」
それでも、主人公は色々な障害を乗り越え、投資で成功を掴んだ。
成功までの道のりがいかに困難であるか、どのような心情なのか、かなり取材してリアルに作り込んでいる映画だと感じた。
まとめ
為替トレーダーとして劇場に足を運んだが、非常にリアルで面白い映画だった。
これまでに投資をテーマにした映画は何度も観てきたが、すべて退屈だった。そもそも内容が難し過ぎたり、専門的な知識がないと分からなかったり、畑が違い過ぎて理解できなかったりしたのだ。
本作は、非常に面白かった。分かりやすい。何より、リアルタイムで観ていた金融事件がテーマだったのも良かった。
一応言っておくと、本作は株式投資がテーマであり、トレード(投機)ではない。
トレーダーとしての勉強になるような内容ではないが、面白い投資映画としてはおすすめできる。
俺がいつも言っているので、もはや馴染みの言葉になっているあの言葉が似合う。
人の行く裏に道あり花の山
しかし、これは異例の成功例である。
時代の流れ、運、視聴者の属性など、ひとつではなく様々な要因が複雑に絡み合い、奇跡的に大勝利を記録した事件である。
むやみやたらとホールドが正義だと勘違いして、損切りが出来ない投資家が増えないことを祈る。
追伸
俺の影響でダム・マネーに興味を持った視聴者の感想文を紹介しておこう。※投稿日時順
・ふとっちょPB『〜ダムマネー未観覧感想文〜』
・翔『ダム・マネー ウォール街を狙え!感想文』
・29『皆さんのダムマネーの感想を読んで』
・nullぬる『「ダム$マネー」愚かな感想文。というかほぼ日記になってしまった。』
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