心理士は信頼関係をどうやって作るのか?
1.しおからさんのカウンセリング体験
親方(弁護士):
本日は、しおからさんが3年前にカウンセラーに実際に相談した経験があるとのことで、その体験談を元に議論したいと思います。ただ、本日はしおからさんがお休みなので、しおからさんのメモをベースに議論しましょう。
【しおからさんのメモ】
【体験談を簡単に申し上げると、私の生い立ちをカウンセラーに話したら、向こうが思ってた以上に悲惨だったようで唖然とされてしまい、「根が深い問題なので一般的なものとは違う対処法をしましょう」と言われ、「分かってはいたけど私の状況はそんなに酷いんや…」とショックを受けたのが初回のカウンセリングですね。
ですが、課題を与えられて2回目に持参したら打って変わって「ぜんぜん大丈夫じゃないですか!」と言われ、カウンセラーさんのキャラも心なしか初回の時と違っていたので怖かったし不信感が募っていくのでやめた感じですね…。3年くらい前なのでよく覚えていませんが…】
2.初回のカウンセリングについて
親方:
しおからさんは、2回カウンセリングを受けていて、初回も二回目も問題があったようです。まず初回のカウンセリングにおいて「根が深い問題なので一般的なものとは違う対処法をしましょう」と言われるのは結構踏み込んでる気がします。コウノさんいかがでしょう?
コウノ(心理士):
しおからさんからの話だけしか聞いていない、かつ今回の場合という前提で考えると、初回で信頼関係なく、まだ色々な情報を聞けていないなかで、生い立ちの評価を開示するのは一般的ではないと思いますね。初回の対応としては、タブーかもしれません。
糸楊枝(民間):
「根が深い問題なので一般的なものとは違う対処法をしましょう」という所なのですが、言葉としてはよくあるものだと思います。ですが、唖然とした反応が、自分の想像を超えた反応になったのかなと思って、そこが結構ショックを受けるポイントだったのかなと思います。
コウノ:
糸楊枝さんのおっしゃる通りで、相談された方が「唖然とされた」と感じるほどの反応は良くなかったかもしれません。というのも、多かれ少なかれカウンセリングに相談される方は「自分のした体験は普通のことではないのだ」「恥ずかしい」と感じていらっしゃるものなので、このような反応をすると「やっぱり私は普通ではないのだ」と自責感を強めてしまうこともあるからです。
親方:
なるほど。何しろ、初回は信頼関係の構築が重要な感じがします。
コウノ:
そうですね。
親方:
唖然とした反応というのは、初回においてはどうなんでしょう?
コウノ:
話を聞いたうえで、共感的な返事をすることはありますけど、唖然とした反応は基本的にしないですし、根が深いと評価することも最初からいうことは難しいです。情報不足の時に主観情報は言わないですね。あえて主観情報を伝える場合として、相談者の酷いエピソードがあって、そのエピソードにおいて自責が強いように感じた場合なら、相談者が悪いんじゃなくて、相手が悪いかもしれないという一般情報を入れるために、「えー!そんなことをする人がいるんですか!」と相手の問題であることを明確にするためにあえて大げさに言ってあげることはあります。あと、やっぱり心理士との相性の問題はあるので、クライアントさんも心理士側も相性は実際にカウンセリングしてみないとわからないので、難しいですね。
親方:
初回については、まずは信頼関係を築くことが優先で、そのためにも情報を聞かないうちに色々と踏み込んだ話をしないことが重要であることがよくわかりました。
3.カウンセリング2回目の対応について
親方:
次に、しおからさんの2回目のカウンセリングについて話をします。
初回に、2回目の際の課題を出すことがあるんですね。これは一般的なのでしょうか?
コウノ:
課題を出すことは、カウンセリングの進め方としては普通にありうることです。色々な心理療法がありますので、用いる心理療法次第ですね。
親方:
なるほど。素朴に思ったのは、課題が2回目に来るきっかけになっているのかなと思って、仮に課題がなかった時の相談に来るインセンティブ等はあるんですか??
コウノ:
私の進め方として、2回目に課題を与える場合と与えない場合があって、課題を与えるかどうかについては相談者の同意を取って、同意に基づいて課題を設定するようにすることが多いです。なので、仮に課題を与えない場合でも、相談者の同意があるので、相談に来ると思いますね。
親方:
課題の有無にかかわらず、2回目も来る工夫があるんですね。
親方:
しおからさんの話だと、初回と2回目でカウンセラーの雰囲気などが変わったようですが、こういう初回と2回目との間に変化があることは、一般人から見て、信頼しづらいとかの感覚がありますか?Sho1さんいかがでしょう?
Sho1(公務員):
初回と二回目で雰囲気が変わると、一貫性がなくて信頼しづらいと思います。あと、態度が変わると、「自分のことを覚えていないのかな?」という気にもなります。「覚えていないということは、調書(前回の記録)とかとっていないのかな?」って考えに至って、相談をちゃんと受けてくれていないカウンセラーさんなのかなというイメージがあります。
親方:
変化があると、自分のことを覚えていない・調書をとっていないと感じるのは、個人的に新しい視点ですけど、非常に納得できます。ありがとうございます。次に、糸楊枝さんいかがでしょう?
糸楊枝:
初回と2回目で変化があるのは、良い点悪い点どちらもあると思います。その分かれ目として、同じ状況であるか、違う状況であるかでも違うと思います。例えば、同じ雰囲気、同じ状況であれば、初回と2回目とでキャラが変わるのはこわいです。逆に違う状況、例えば仕事場ではこわいけど、飲みの時は優しいと、ちゃんと考えてくれているのかなという風に思えるので、いいかもと思うかもしれません。しおからさんの話は、初回と2回目とで同じ状況・同じ話なのに、カウンセラーの雰囲気などが変わったから、こわいと感じたんじゃないかなと思います。
あと、自分の心持ち、つまり相手に対する自分の期待が大きいかもしれません。初回に、カウンセラーが根が深いと言ったから、2回目も悪いと言われると思っていたら、実は良いって言われたのが、期待と違ったところがあったんじゃないかと思います。
親方:
初回で作った期待に、2回目で応じられていないのは、確かに信頼するのが難しく、むしろこわいという指摘も、Sho1さんの指摘と同様に非常に納得のいく意見です。ありがとうございます。
4.カウンセリングの一貫性について
親方:
お二人の話を聞いて、一貫性は非常に重要なことであると認識できたのですが、コウノさんがカウンセリングをする際にも、一貫性や相談者の期待に反しないことというのは意識されるんですか?
コウノ:
一貫性は重要なところで、私も意識しています。例えば、課題を与えたら、2回目の相談の時に課題に触れるのは重要です。課題を出しても2回目の時に見ないとか、前回の話を忘れるとかは一貫性がなく、良くないですね。心理士によっては、前回の面接の場所の一貫性を維持するために、前回の相談時と同じような物の配置にしたり、場所に変化を与えないようにセラピールームを整えることまでしている心理士もいます。
しおからさんのケースなら、おそらくトラウマに関することだと思います。トラウマを持つような体験は、体験した人に取ってみれば世界観が変わるレベルの出来事です。なので、セラピーをする際には、セラピーをする場所は変わらない、一貫性のある場所であるということを示すのが非常に重要です。
親方:
トラウマという激しい体験をしていて、それに対応するのであれば、ずっと安心できる場所でカウンセリングをするというのが重要なんですね。
親方:
本日は、しおからさんのケースでお話をしましたが、別のケースも是非話を聞きたいと思っています。そこで、私と糸楊枝さん、Sho1さんで、カウンセリングを受けたいと思っていますが、いかがでしょう?
Sho1:
今、自分は身体はそこら中痛いんですけど、心は非常に元気なんです(笑)
元気がある時にカウンセリングへ行くと、冷やかしと思われないか心配なんですが、それでも行っていいんでしょうか?
コウノ:
医療機関にいったら「冷やかし」と思われるかも(笑)
けど、民間のカウンセリングルームなら、健康な人も受け付けています。相談することがあれば、OKです。例えば、むかつく上司がいる、仕事のパフォーマンス上げていきたいけど、どうすればいいのか?とかの相談事があれば大丈夫です。
Sho1:
なるほど!それなら、相談したいことはあるので大丈夫そうです!
5.終わりに
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