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【経験談】 大学教員になるためのロードマップ

大学教員と聞いても,どうやればなれるのかと思う人が多いと思います.そこで,大学教員である私が実体験を交えつつ,どうすれば大学教員になれるのか,どうすれば大学教員になれる確率を上げることができるのか,を個人的な視点からご紹介したいと思います.

自分の専門分野が情報科学なので,情報科学分野での話になります.


博士の学位(Ph. D)が必要

大前提として,博士の学位が必要となります(必要でないケースも稀にありますが,ほぼ必須だと考えた方が良いです).そのため大学には,学士(4年)+修士(2年)+博士(3年)の計9年間通う必要があります.ですが,学士や修士,博士課程では,短縮して卒業する制度があるところも多いため,順調に研究が進んでいれば,7年半や8年で卒業することもできます.
9年間となると学費や生活費など金銭面で不安が残る方も多いと思いますが,いくつかの対策案は後述したいと思います.

公募を探して応募

色々なところに大学教員募集の公募が出るので,それに対して応募し,応募先の教授と面接などを実施し,通過することで大学教員になることができます.公募情報が載るものには,学会誌や大学のホームページ,研究室のホームページなどがありますが,おすすめはJREC-INに登録することです(もちろん無料です).
JREC-INにメールアドレスを登録しておけば,大学から公募が出ると同時に,メールが届きます.また,公募に対してフィルタリングすることができるため,例えば,助教+関東圏の大学+機械学習分野,のような条件指定ができ,設定した条件に合致する公募のみをメールで知らせてくれます.私も博士課程在学中には,実際にJREC-INに登録し,毎朝届く公募情報を確認していました.

以上,大学教員になるための典型的な方法を紹介しましたが,まとめると,博士の学位取得+公募に応募,というシンプルな手順で大学教員になることができます.大学教員のランクとして,助教→講師→准教授→教授,となっているので,まずは助教になることを目指します.


ですが,実際にこのプロセスを経験してみて思ったのは,そもそも公募がとても少ない,かつ公募が出てる時点でほぼ採用者が決まっているようなケースも存在するため,それらを踏まえて準備し公募に臨まないと,大学教員になる確率がぐんと下がってしまう点です(実際,自分が卒業するタイミングで自分の専門分野での助教ポジションの公募は全国で2件しかありませんでした).そこで以下に,自分が把握してる範囲で,採用の確率を上げるためのいくつかの方策を紹介したいと思います(あくまで私個人の意見ですので注意してください).


採用確率を上げるために重要なこと

個人的に感じている大事な点は,「業績」「人脈」「運」の3つです.

業績
当たり前ですが,他者と比べて優れた業績(研究者の場合は論文)が無いと採用確率は下がります.論文数は多いに越したことはないですが,同時に質の高い論文をもっている必要もあります.論文が採択されるには,論文誌や国際会議に投稿し,他の研究者(査読者)からの評価が採択基準を満たす必要があります.論文誌や国際会議の数はものすごく多いため,採択基準も緩いところから厳しいところまで様々です.もちろん,採択基準が厳しい有名な論文誌or国際会議に採択された論文を持っている方が,採用では有利になります.
そのため,採用確率を上げるための戦略は,レベルの高い学会誌もしくは国際会議に多くの論文を通すことになります.例えば,コンピュータビジョンに関する研究をしているのであれば,IEEE PAMI, IJCV, CVPR, ICCV, ECCV, ICLR, NeurIPS, ICMLなどの有名どころの論文を持っていると強いです.

人脈
先に,公募が出た段階でほぼ採用者が決まっているパターンがあると言いましたが,それに関係するのが人脈です.公募を出した側は,これから一緒に仕事をする人を探しているのですから,もし中身を知っている人と,会ったこともない人が同じ業績で同時期に応募してきたら,どちらを採用するでしょうか.もちろん,前者です.また,人脈があれば,公募に関する情報が早い段階でまわってきたり,稀にですが応募者のためのポジションを新しく用意する,といったケースもあります.あくまで個人的な意見ですが,人脈は業績と同じくらい重要だと思います.
では,人脈を形成するにはどうすれば良いのか.方法はたくさんあると思いますが,王道なのは学会や勉強会などのイベントに参加し,発表をすることだと思います.面白い発表や優れた研究成果があれば,おのずと人脈はできると思います.また,学会やイベントで開催される懇親会などで積極的に会話するのも良いと思います.あと,インターンなどに参加するのも効果的だと思います.または,ブログやSNSなどで質の高い情報発信をすることも良いと思います.


正直,運の要素も強いです.自分が就職したいタイミングで,公募が出ていなければ,どうしようもないので.しかし,運が良いと言われる人たちは,上述した「業績」と「人脈」という準備をしっかりしている人が多い印象です.準備さえしっかりしておけば,突然降ってくる公募という幸運を掴むことができると思います.逆に,準備を怠っていては幸運を掴むことはできないと感じます.

大学教員採用までのロードマップ

大学教員なるまでの道のりは数多くあると思いますが,自分が考える典型的なストーリーを紹介したいと思います(B4〜D3まで研究室で研究する前提となります).

学部4年(B4)
とにかくこの1年は大事だと思います.この1年間で研究に関する基礎体力を身につけておけば,後々の研究で役に立ってきます.数学,英語,文章の書き方,プログラミング,自身の専門分野について体系的に学んでおくことをおすすめします.
あと,ただ卒業論文を書いて卒業するのを目標にするのではなく,国際会議への論文投稿を目標に研究を進めた方が良いです.後述する学術振興会特別研究員への採用確率を上げるためにも,B4で業績を出しておくことは大事です.自身の研究テーマ設定の際に,指導教員に論文を出したい旨を伝えて,良い研究テーマをアサインしてもらうことも大事です.
目標は,3月の卒業までに国際会議へ論文を1本投稿となります.

修士1年(M1)
B4と同様に,M1の間に研究成果を出し,国際会議もしくは論文誌に論文を投稿することを目指しましょう.理想的な流れとしては,B4で出した研究成果を拡張して,論文誌 or 国際会議に投稿することです.M1の後半は(一応)就活も始まるため,前半から研究に時間を割いた方が後々楽になると思います.この段階でちゃんと研究に時間を割いていれば,自分が研究に向いているのか,向いていないのかを認識することができ,就活に心置きなく方向転換することも可能です(そもそも研究をちゃんとやってもいないのに,自分は研究に向いていないと判断して,就職する人が多すぎる).
M1終了段階までの目標としては,論文誌に論文1本採択もしくは国際会議に論文1〜2本採択でしょうか.M2の5月に学術振興会特別研究員(学振)への応募締め切りがあるので,それまでに最低でも論文誌1本以上は欲しいところです.

日本学術振興会特別研究員(学振)とは,博士課程中に月20万を返済義務なしでもらえる制度になります.主に,DC1,DC2の2つがあり,DC1は博士1年〜博士3年の3年間,DC2は博士2年〜博士3年の2年間,月20万円もらえます.DC1の応募はM2の5月,DC2はD1の5月に行います.
学振に採択されるには,最低でも論文1本以上は必要で,それなりに採用は厳しいです(採択率は20%程度).論文の数が多ければ多いほど,採択確率は上がると思います.そのため,B4,M1のうちに研究業績を出しておけば,学振に採択される確率は上がります.月20万は決して多くありませんが,生活費としては十分ですので,博士課程での生活も少しは楽になります.

学振の採用基準で,論文誌がある方が評価が高くなるのか,国際会議論文の方が評価が高くなるのか,はしっかり把握しておいた方が良いです.例えば,論文誌を持っている方が評価が高い分野なのに,国際会議論文を多く持っていても学振の採用確率はあまり高くなりません.採用基準を知る方法として,指導教員に聞いてみるのが良いでしょう.自分の場合も,(現在はわかりませんが)当時は論文誌の方が評価が高くなる傾向があったので,最低でも論文誌1本は採択されるように,B4〜M1のときは研究計画を立てていました.

修士2年(M2)〜博士3年(D3)
M2の間は,学振に採択されるように,研究業績を積み上げるのが最優先だと思います.あとは,ひたすら研究するだけです.もちろん,研究だけでなく,上述した学会や勉強会,SNSでの発信を通して,人脈形成や自分の名前を宣伝しておくことも重要です.
仮に学振に採択されなくても,最近は月20万円以上もらえて,しかも質の高い研究ができるインターンなどもありますので,そういったものに応募しましょう.


(最後に)自分のケースを紹介
B4での卒業研究で国際会議1本,M1の前半で国際会議1本,それらをまとめた内容のもので論文誌1本採択されたのが,M2の4月の段階での状態でした.計3本の論文があったので,DC1にも無事採択され,あとはひたすら研究をして,M2〜D3を過ごしました.それなりに順調にいった要因として,B4時の研究テーマが良かったことが挙げられます.それなりに論文が複数書けるテーマをアサインしてもらったので,2年で3本の論文を書くことができました.逆に,反省点としては,学会発表やインターンなどをあまり経験できず,自分の名前を十分に宣伝することができなかった点です.それらをもう少し経験することで,もっと楽に就職活動が出来たかなと思います.

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